表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のソナタ  作者: R a bit
35/37

打ち上げ花火は咲いているか

お久しぶりです。なぜか夏休みがここ最近で一番忙しかったのと、ほかの作品のエピソードを一つ没にした関係でかなり投稿が遅れました。

暮茅(くれがや)(まもる)は一般的で健全な男子高校生である。ただ一つ変わった事があるとすれば彼の初恋が同性である宮古律(みやこりつ)だと言うことだ。とはいえ彼は性同一性障害でもなければLGBTQの回し者でもない。自分が有性生殖をする生物として誤っている自覚はあるし初めから同性を好いていたわけではない。それどころか彼は本来人付き合いが苦手だった。高校一年生の夏に律と出会うまで胸を張って友人と呼べる存在は、同じ部活に所属している飛貴(とびたか)羽々滝(はばたき)、そして話したことがあるなら仲良くならない方が難しい聖人の草冠(くさかんむり)のみだった。彼を詳しく知らない人間であっても、その変化は余りにも大きかった。夏休みを終えると同時に明るくなり、彼女ができたと疑うものもいれば、何か危ない人達と繋がりができたのではないかと心配する者もいた。言ってしまえばどちらもそうである。初恋の相手を見つけ、その人物が少し特殊だった。彼の身に起きた変化はそれだった。そしてその変化はとある日にピタッと止まることになる。彼は言った、そして俺は答えた。ひっそりと牡丹が落ちた。


「ねぇ律、打ち上げ花火ってさ咲いてるんだと思う?」

「藪から棒にどうした?少なくとも俺はそう認識してるけど。」

守は興味無さげな相槌を実に楽しそうな笑顔で零した。去年来れなかった分、祭りでへんなテンションになってるのかもしれない。

そう、言い忘れていた。俺たちは今夏祭りに来ている。何故か分からないが今年は心からの誘いがなかったため、俺が守を誘っていたのだ。勿論去年のこともある故例え心から誘われても今年は守と行くつもりではあった。重ねてこれが只の友達同士のお出かけでは無いことも重々承知している。1年そばにいて…いや多分それはあまり関係ない。あそこまでアピールされて、守が俺に好意を寄せている事を悟れないほど俺はラブコメの主人公じゃない。今日何を守から伝えられて、俺が何を返すのかは家を出るより早くから決めていた。本人には申し訳ないが、それ程まで決断は容易だった。下手すればもう守とは友人でいられないかもしれない。そんな覚悟をポケットに仕舞って来たのだが、奴の第三声はさっきのものだった。

「いやふと気になって、花火って開花に見えて実は散ってるんじゃないかなって、ボクが勝手にそう思っただけだよ。」

「じゃあ打ち上げ花火は風媒花って事か?それにしゃ随分派手に見えるけどな。」

「もののたとえだよ、ほら花より実の方が有名な植物も多いじゃん?茄子とか。」

『無花果』じゃないのかと思ったが、あれはあれで花が有名なのかもしれない。

しかし何とも花火を実際の植物として見立てたことはなかった。どうしてこうも俺の周りには変なことを真面目に考える奴らばかりなのだろうか。類は友を呼ぶというのか、何とか使いとなんちゃら使いは引かれ合う的な物なのかもしれない。

「そ…そんな難しい顔しないでよ!ほらあれ、射的だってやろやろ。」

守は悪くなった空気から逃げるように俺の手を引いて近くの屋台に駆け込んだ。浴衣からほんのり花の香りがした。


祭りが始まってから小一時間たった頃だろうか、守がトイレに行くと言って場を離れていた。今思えば人込みの激しい夏祭りの会場で単独行動を取るべきでは無かったかもしれない。ぞわっと嫌な予感が迫ってきた時にはもう遅かった。地面に落ちて雑踏と化した綿菓子の様な嫌な甘ったるい声が右から左へ通り過ぎる。

「先輩♡」

「っ──!!」

態々語るまでもない、背後に立っていたのは俺の後輩重平百合花(しげひらゆりか)だった。

「今年は暮茅さんと来たんですね、来年には私が誘ってもらえるんですか?」

「悪いけど俺は友人を誘っているだけだ。お前とは生涯において一度も二人きりで出かけるつもりはないよ。」

前にも言ったが俺は重平が嫌いなわけではない。ただ只管に苦手なのだ。何考えているかわからないくせに、こっちの考えは筒抜けだと言わんばかりの態度をとってくる。気味が悪いったらありゃしない。

「そんな邪険にしないでくださいよ、二年前まではあんなに仲良かったんですから。」

「じゃあお前はいまだに伊達(いたち)後祭(あとのまつり)と仲睦まじくやってるのか?」

「いえ。」

即答だった。そういえば去年後祭にあったがそもそも学校が違うだろうし、重平は高校に通っているのかもわからない。海呑(うのみ)高等学校に在籍はしていないようだが、矢部がこいつから目を離すとも思えない。冷静に考えると妖怪みたいなやつだ。

「だって私、宮古先輩と虎古(もこ)先輩、あとおさみん以外どうでもいいですから。それ以外たまたま同じ世界に生まれてきただけの存在、宮古先輩だって偶然同じ車両に乗った乗客と友達にならないでしょう?」

「ひねくれたDA P〇MPみたいなこと言うな。ちょっと意地悪をやり返したくなっただけだよ。」

「知ってますか先輩、男の子が女の子に意地悪するのは好きの裏返しなんですよ?」

まだ何か言いたげな様子だったが、俺の後方に何かを見つけて逃げていった。当然重平が見つけたのはトイレから帰ってきた守だ。

「律?今のって…」

「さあな、多分不審者だから今度見かけても無視しておけ。」

守はすでに見えなくなった重平の背中を見つめている。一年前に守が海に来れなくて心底よかったと今思えた。

「あんまりそういうのやって欲しくないかも。」

「心配しなくても俺に心以外の異性の友達はいねぇよ。」

ふとどこかの校舎の保健室から念を感じたが、きっと気のせいだろう。

気持ちを祭りに切り替え、もう一度反対側へ来た道を戻ることにした。ハンカチを探す守の手を強引に引いて人込みに入り込む。下手な塗り絵の赤色がどこか無性に愛おしかった。


やけに○○焼きって名前の多い屋台で夕飯を済ませ、午後19時が近づいたことでさながら月の引力に作用される波のように人込みのベクトルが突然とマイナス方向に変わった。彼らを引き付けていたのはそう、打ち上げ花火だ。もとより場所を取ることを諦めていた人たちが少しでも鮮明に花火を見ようとしていたのだ。去年はこの人込みを嫌って校舎に忍び込んだが、守は基本真面目なためそういう行為は好まない。となれば周りに合わせるか、別の場所を探さなければならないがそんな都合の良いところがあるなら既に誰かに取られている。そんな状況の中、もしかしたらと思い俺は頭の中にある目的地まで何分かかるかを調べていた。

「守。少し移動するけど足に余裕あるか?」

「これでも陸上部だからね、いつもの靴と違うから歩きにくいけど問題ないよ。」

まあそりゃそうだと思った。華奢なせいで忘れるが単純な体力なら俺よりあるだろうし、むしろ心配すべきは帰宅部の俺の方なのかもしれない。

「で、どこ行くつもりなの?あとちょっとで花火始まっちゃうけど。」

「ネタバレするなら江戸川だな。当たり前のように人はいるだろうけど、少なくとも狭いここよりはいいだろ?」

名前でなんとなく察しはつくだろうが、海呑(うのみ)高等学校は東京湾の近辺に建っている。その近くにある今回の祭りの会場の神社から江戸川はそう遠くない。特段高い建造物もないため、距離が跳ねれても十分に花火を望める。そうして公共交通機関を乗り継ぎ、10数分歩いて俺たちは目的の場所についた。やはり人影は少なくなかったが周囲に聞かれない程度の話ができるくらいのスペースは確保できていた。当然何の目的も狙いもなくこんなことをしたわけではない。優しさとは違うが確かな慈悲。俺は今日ここできっぱりと守をフルつもりだった。無論守が告白をするつもりならなのだが、それが分からないほど守とは他人でないつもりだった。次第に花火が上がり始め、周囲の人間の五感は場の空気に飲み込まれていた。その中で確かに二人の目が合う。ちかちかと守の白い肌がにほう。青緑に残り火の様な朱色が差し、守は花のヤクを摘まみそっと指に力を籠める。

「…、……。」

何かを口にしようと唇が一時的に弛緩し、また強張った。

「知ってると思うけど、10回目に会った時から好きだよ律。」

「知ってるよ。でも俺は」


『高校を卒業したら死のうと思っている。』

何度も守に話そうと思って話してこなかった。二人を連れて家を飛び出してきた時から決めていたことだった。一人になったら俺は何のために生きれば良いのかわからなくなってしまう。目的のない人生を他人のせいにするのが楽だから、それができなければ。そうやってろくでもない楽な生き方を探していた。『もう生きる気力がないから気持ちには応えられない』それは美しいようで余りに相手に失礼な話だ。それではまるで俺の人生において守が何の価値のない人間みたいじゃないか。

宮古律にとって暮茅守は何者だろうか。仲のいい友人だろうか、無条件に自分を認めてくれる都合の良い承認欲求を満たすための存在だろうか。

返事に詰まる俺を見て、守は少し安心したような顔で後ろを向いてしまった。

「返事は今度でいいよ。今更急かすボクじゃないしね。」

ゆっくりとその花の背中が遠のいていく。間髪入れない破裂音が頭に重く響き、俺は無意識にピンと張られた守の袖をしなやかな腕ごと掴んでいた。

「卒業して!美琴と凌と別れて、その時が来たら──」

視界の端で誰かがこっちを見ている気がした。以前ならこそばゆく思っただろうが、今はただ青い時分が誇らしかった。

「守を生きる言い訳にしてもいいかな。」

守はしばらく何も言わなかった。終わりを告げる一段と大きい光の花弁がお互いの目元を煌びかせた。それがどこか可笑しくて、奥ゆかしくて。どっちかわからない微笑が零れて次の盆に集まっていった。

今はまだ定かじゃないが、俺は確かに守が好きだ。

例のコーナー

今でこそ暮茅がメインヒロインやってますが、メインヒロイン役は当然ほかにもいました。以前どこかで書きましたが『君のソナタ』は特に物語をマルチエンディングに構想を練って作ってます。大まかにグッドエンドが橋李、トゥルーエンドが暮茅、バッドエンドが黒井になってます。他にもメインヒロインに成りえたキャラ(もう記憶にないかもしれませんが思馳瀬とか)もいますし、別に橋李がメインヒロインになったからって必ずしも幸せな最期になるってわけじゃないです。

話を変えて、エピソードはこれ以上追加するつもりはないのでこのまま『みこと』『外川と恋澄』『重平』『律』『凌』の話を書いてこの物語を終える予定です。順調にいけば年末年始にはこっちか「仮定(以下略」のどっちかを終えられると思います。それまでもう少し子供の黒歴史にお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ