♯25,君は彼方3
お久しぶりです夏休みに入ったものです。
唐突だが、祖父母の名前を知っているだろうか?
いきなりであるが、両親の名前を漢字で書けるだろうか?
驚かずに聞いてほしいのだが、親の旧姓を知っているだろうか?
どれもこれも知る機会に日々満ちているのに、どうしてか知らない人は少なくない。両親が実家を大胆に離れていれば、もしかしたらすべて知らずに終わるかもしれない。最後に一つ質問ではなく問いかけたいことがある。もしあなたが人称代名詞で家族のことを呼び続けた際、思春期を迎えたとき家族をなんと呼称するだろうか?存外家族間の興味というのはその程度のものなのかもしれないし、あるいは
夏休みではあるのだが俺は相も変わらず学校に居た。と言ってしまえばあたかも文化委員の仕事にいそしんでいるように思うかもしれないが、今日は違っていた。どうやら陸上部で謎の夏風邪が流行っているらしく、「しばらく室内トレーニングになるから付き合ってくれないか。」と守に誘われていたのだ。つい最近までは何かに躍起になりたくて只管にアルバイトに勤しんでいたが、最近は俺も少しづつ一般的な高校生らしく友人との交流に時間を割くようになっていた。(とはいうものの9割くらいは守だ。)夏バテの対策と建前をこじつけ、蒸し暑い道中を10数分歩き描写する時間軸が現在に帰結する。
「…あのさ、せめてお前はまじめに筋トレするべきじゃないか?」
遠回しにだらだらと現状何が起きているのかを書き綴っていたのにも理由がある。ランニングマシーンの動いていない両端に足をつけ、その隣でプランクをする俺を守るがなぜかかれこれ4,5分見続けているのだった。
「いや、律って普段運動してないっていう割にはエ…筋肉質だし、なんか体に秘密でもあるのかなぁって。」
「別に運動部ほどじゃないけど、バイトだって仕事によりゃそれなりに運動になるしな。そういう守こそ陸上部とは思えないくらい足細いけど走れてるのか?」
『エ…』ってなんだよというツッコミを今すればこれで計7回目になってしまうため、今回の俺は見送っていた。
「ボクは長距離専門だからね、筋肉が靭やかなんだよ。なんなら同じ長距離やってる橋李さんより細い自信があるね。」
ふんす。という鼻息が聞こえそうなドヤ顔て守は胸に手を当てる。まぁ橋李は短距離も並の男子より速いし、アイツに関しては長距離の人って言うより体力がえげつない短距離の人って感じだ。本人がやってるのか知らないが800m…もしかしたら1500mを走っても普通に世界級だ。そういう『呆れ』を込めた視線で依然として空回りするランニングマシーンを見つめていた。
「り、律?あんま見つめられると流石に恥ずかしいって言うか…」
しかし視線は直ぐ別のものに移った。このトレーニングルームは運動部全般が共同で使うため、グラウンドと体育館に隣接するように校舎の一番端に設置されている。そのため運動部以外はここに立ち入らないし、グラウンドを一望でき、二階と三階の間にある体育館棟の、ここの真上に設置された体育館の振動から運動部かいるか居ないかを判断できるのだ。今日に関しては何処もかしこも居ないと思っていたが、グラウンド側の窓に不審な人影が数回見え隠れしていたのだ。間接的に描写したが、このトレーニングルームは二階にある。そんな場所で窓に人影が見えたら普通に怪奇現象だ。しかし現実として見えている。俺は換気のため開けた窓を念の為閉めようかと立ち上がった。
「律!?その、いくら人が居ないからって初めてがこんな場所って言うのは──」
「危ない!!」
俺は咄嗟に守るの手を引いてその場を離れた。何が起きたのか?そんなものこっちが知りたいが、どうやら何かが窓から勢いよく侵入し、俺の反射神経がそれを勝手に察知したって事らしい。その何かの正体が俺と守を不思議そうに見ている。
「あれ?暮茅が居たから驚かせようと思ったのに、他に人が居たのか。」
何言ってのか分からない(2つの意味で)が、俺はこの何かを知っている。
「羽々滝翔真だよな?ここ二階だけど何してんだ?」
「え…いや、別に…普通にジャンプしただけっていうか…暮茅をびっくりさせたかっただけで宮古君にどうこうしようって訳じゃなくて…」
早口なのに途切れの悪い不思議な話し方。海外のオタクみたいだなという偏見という名前のツッコミは(以下略
そしてどうやら二階にジャンプして侵入してきた事について説明しようとはしないらしい。というかついさっきのクールキャラみたいな口調はどこに行ったのだろうか。俺の困った顔を見ても羽々滝は何も話そうとせず、先に口を開いたのは守だった。
「あぁそういえば、律は羽々滝とあったことないんだっけ。」
「去年も同じだったし、陸上部ってことしか知らないな。」
そうだ思い出した、去年体育祭をバックレたときに選抜に選ばれていたやつだ。背はあまり高くないがバレー部として活躍していて、陸上部には大会くらいにしか参加しないが当然の様に好成績を残して帰ってくるので学校側から何か言うこともないらしい。その後続いた守の説明も俺の記憶に準じたものだった。
「──で、こいつは正真正銘の小心者で人に見られると足がすくんで本気を出せないんだとか。人がいないとみるとこうやってジャンプして二階や三階に侵入してるらしいよ。」
「や…でも今回はちょっと確認が足りなかっただけで悪意があったわけじゃなくて…」
守の説明に反応して羽々滝が口をはさんだが、そんなことよりも気になることがあった。
「なんで当たり前のように世界記録超えてんの?」
「誰も見てないときにしか飛べないから本当に垂直飛びしてんのかわからないんだよね。人の視線ってのがアレルギーらしくて、飛貴がこのまえこっそり双眼鏡で羽々滝を観察してたら『誰かにつけられてる』って相談の電話が来たって。動画も、結局は人に見られると思うと緊張するらしいよ。」
「でも大会で好成績取ってるんだろ?」
守は呆れたようなこちらに同意しているような、そんな難しい顔に皺をよせた。
「本人曰く『自分は緊張して漸く天才までレベルが落ちる。』なんだって。ムカつくよね。」
確かに鼻にはつくが実際数字と記録と記憶が、十分に羽々滝を天才足らしめてはいる。それが全力に全く達していないと言うのだ。記録を残さない奴が言うのならば鼻で交響曲一つ歌い終えられる程の嘲笑いが込み上げるだろうが、知らない間にオークションは最終局面に入っていたらしい。静かに目の前の男を分析していると、何かに取り憑かれたように突然と羽々滝は目を輝かせて俺の手を両手で握った。
「そういえば、宮古君はたしか外川さんと仲いいんだよね!?そうだよ思い出した!ずっと話しかけたかったんだよ。」
「外川さん?まさか外川信光のことじゃ無いよな?」
「まさかも何も無い、その通りだよ!」
羽々滝の鼻息が捕まえられた手に当たるり少し気分が悪い。だがそれを黙ってでも続きを聞か無ければならない。と頭の中の冷静な部分が判断していた。恋澄以外から奴の名前が出てくるのは俺の記憶の中では二人目だ。無論教師は除く。二人の仲を取り持つと約束した今何か知っているかも知れない羽々滝と仲良くしておくのは悪い判断ではない。
「因みに羽々滝にとって外川は何に当たる人物なんだ?態々さん付けで呼んでるみたいだけど。」
「憧れ。」
ふと羽々滝の顔が何かに重なった気がした。いや、たぶん今初めて羽々滝の顔を正しく認識できたのだろう。その顔は緊張か高揚か明らかに赤らんでおり、何処か幼いようにすら感じた。そんな事を考え黙っている俺の事を話し待ちだと思ったのか、羽々滝はさっきまでより更に早口で話しだした。
「そう、そうだよね。先ずは何で憧れてるのか話さないとね。えーと、俺…っていうか僕は中学時代はバスケをやっててね、背は高くないけどそれなりに活躍はしてたんだよ。でその当時千葉で有名な中学生がいたんだ。公式戦での得点はゼロなのに基本毎試合出場の1年レギュラーで、そのくせしてボールの支配率が異常に高くて彼のチームの攻撃の六割近くはその選手を初めとしてるんだ。中でも異質なのはリバウドに有って、その選手のシュートは必ず外れるんだけど、そのかわり絶対に味方のいる場所へ跳ねるんだ。リバウンドを操るっていう唯一無二の才能があったんだろうね。他にもバックステップが得意で全国区に行っても外川さんのシュートには触れられなかったん…あっ、言っちゃった。とにかく、外川さんは中学時代規格外って名前で有名なバスケ選手だったんだよ!」
興奮が過ぎたのか普段もっとキツイ運動をしているであろう羽々滝が肩で息をし、部屋の湿度が上がった。そんな気がする。しかしなんというか、聞けば聞くほど今の外川とは大違いだ。同姓同名の方が些か現実的だろう。
『そこまで凄い選手だって言うなら、何で外川はバスケを辞めちまったんだ?』
そう聞こうと思って飲み込んだ。それはきっと外川本人から聞くべきだからだ。少なくとも、俺が外川を友人だと思っているなら。
「で?外川くんは何で辞めちゃったの?」
「守!?」
先程の染み染みとした決意も、羽々滝の興奮も蔑ろにする乾燥剤のような、それでいてカラッとした気持ちよさのない言葉によって湿った空気が乾いていく。
「外川さん、包帯巻いてるでしょ?」
羽々滝も少し呆れ混じりに話を続けた。
(強く意識して認識したことはないが)確かに外川は腕に包帯を巻いている。普通のものではなく赤色のをだ。理由は聞いたことがなかったが、そもそも外川が中二病を演じていたのはあいつの唯一の友人で弟分の焦柄偉滝の夢を壊さないようにするためだ。それ故に外川が腕に包帯を巻いている理由なんて単純に偉滝の見ていたというアニメだか漫画だかのキャラである『外界に住まう者』ってキャラの見た目がそうだからだろうと考えていた。しかし、『外界に住まう者』でなく『規格外』。ここが嘘だとするならやはり理由は一つしかない。
「怪我…したのか?」
俺の言葉にすでに何度も受け入れてきたはずの羽々滝の顔を曇らせた。
「近所が火事になって、中にいた子供を助けに行ったらしい。そこで利き手を火傷して、ウィンターカップまでまだ時間があったのに、そのままバスケは引退。気づけば千葉の有名人といえば外川さんだったのに、『九十九里のラシード』とかふざけた名前したヤンキーの方が有名になって。もはや当時バスケをしていた一部の人にしか覚えられてないなんてバッドエンド…」
ひとしきり話を聞いて、隣で少し気まずそうにしている守と違い…いや多分これ俺と同じで笑っているな。羽々滝には申し訳ないがここにきてあの恋澄が元ヤンという謎がすこし解明されてきたことに少し笑ってしまう。しかしやはり恋澄と外川の間には少しばかり込み入った事情があるようだ。
続く言葉を迷っていると再び湿った空気を扉が勢いよく開かれる音でかき消された。
「遅刻しましたぁー!!って…なにこれ、なんで男だけなの?」
げんなりした顔でトレーニングルームに入ってきたのはどこかで見たことのある顔だった。
「虎古ちゃんは?」
「外走ってくるってさ。ボクもどこ走ってるかは知らないけど、時間的にもう原付でも追いつけないんじゃないかな?」
数分程守と新しく入ってきた人物が話していたところでふと思い出した。足立海奈。同じクラスの女子で陸上部、低めの身長に可愛らしい童顔によりそれなりの人気を誇るがきつめの性格のせいか男の影は一切ない。(心曰く小動物みたいで話してると癒される。でも腹筋は八つに割れている。)実際に話したことはなかったが噂の衝撃が激しくよく覚えていた。それが無意識にも非情にぽろっと零れてしまったのだ。
「あぁ腹筋が八つに割れてるっていう…」
しん。と鳴らない音がした気がする。守は苦笑いをしており羽々滝はすでに避難していた。
「そんなに割れてないもん!六つだもん!!」
電話に出る母親(最もそんなものは見たことも聞いたこともないが)が如く、声を数段高くして叫び、目の端には小粒のガラスが乗っていた。通常女の子を泣かせるというのは男側からしてもトラウマになりかねない後悔になるが、『いや変わらなくね?』と思わざるを得なかった。
「というか、宮古君はなんでここにいるわけ?」
聞き覚えのある質問にまた説明するのかという億劫さより、俺と守って外から見ると仲良くやってるように見えないのか?という疑問が浮かんでくる。いや、幾ら仲がいいとしても部活については来ないのか…
「俺は暇だから守に付き合ってただけだ、な?羽々滝──」
横を見ると羽々滝はそこに居なかった。
「よくわかんないけど、あんまジロジロ見てくるようならぶん殴るからね、だからトレーニングルームは男女別にしろって言ってるのに。」
「心配しなくても基本守しか見ねぇよ。」
守が何か言いたそうにしたので先手を打って口を塞ぎ、俺は黙って足立に距離をとれとジェスチャーを送った。彼女も何か言わんとしていたがぐっとこらえているようだ。唇を噛む姿は絵巻物のようだと思ったが、目がまた泣きそうになっていたのでそれ以上見ないことにした。
数10分程雑談をしながらトレーニングを続け、ふととあるものを思い出した。
「そうだ守、8月頭に夏祭りやるだろ?今年は予定ないんだけどいかないか?」
「行く行く!なんだ今年は誘ってよかったのか。それならもっと早く言ってくれればよかったのにぃ。危うく浮気しちゃうところだったよ。」
去年は心といったため守の誘いを断ってしまったが、今年はその穴埋めをしようと思っていたのだ。危なかったのが今年は神社を立て直すそうなので去年より3週間ほど日程を早めていたのだ。
「えっへへ、浴衣採寸してこないとなぁ。」
「喜んでもらえるのは友人冥利に尽きるが、テンション上げすぎて熱出すなよ。」
守が筋トレを完全に停止し、スマホを操作しだした。ちらっと見たメモにド〇キに行くと書いてあったが守がヘリウムガスを買ってくるという大穴を信じて俺は目を瞑った。
結局その日はそれ以上何かイベントが起こるでもなく守を駅まで送って帰宅した。通過した電柱が7本目に突入するまでは。
「宮古先輩♪奇遇ですね。」
「重平、何してんだ?」
駅から見れば7本目だが学校から見れば1本目。どうやら待ち構えていたようだ、今回ばかりは守を見送ったことに後悔した。
「いえ別に、何か迷惑をかけようってわけじゃないですよ。寧ろあらん限りの賞賛をぶっかけに来たんです。」
重平が変なことをするのはいつもの事だし、それで俺に迷惑をかける事も協力してくれる事もあったが、俺を褒めることなんてなかった。せいぜいからかって来るくらいだ。俺が守を送るより後に待ち構えたってのも重平らしくない。要はいつもとやってることが違いすぎて気味が悪いのだ。重平のことは面倒に思っているし気味悪がってるが嫌いじゃない。だが今日は違う、今すぐその場から逃げ出したいほどの嫌悪感に近い何かが重平から漂っていた。
「賞賛つっても俺はお前に何かしたつもりはないぞ、当たり屋でも始めたんなら帰らせてもらう。」
自転車を抜かす自動車のように重平を避けて帰ろうとしたが、これから告白でもされるんじゃないかと言わんばかりに袖を掴まれた。
「黒井心はもうあなたの前には現れませんよ。私もおさみんも安心しました、ようやく宮古先輩が黒井心と距離を取ってくれて。」
「何言ってんだお前、どうしていきなり心が出てくるんだ?」
何かが怖くて重平の顔を見れなかったが、いざ視線を上にあげると重平はただ笑っていた。頬を赤らめ口角を上げ、心底安心した顔で。まるで恋する乙女が恋敵の敗北を知ったような安堵に顔を染めていた。
「────────────────。」
夏の日差しに当てられたのか、体をめぐる血液が酷く冷たかった。
ちこここ
↑は「ちこっと小話のコーナー」の略称です、なんか思いついただけです。
私がキャラを作るとき何とかキャラを生かすため「自分に似てるとこ」「自分と真反対なとこ」「性癖」を必ず一つ混ぜ込んでるんですよね。例えば律は性格が私と真反対で、ツッコミとかの感性やユーモアは私よりにしています。自分ならこうする、逆に自分なら絶対にしないっていうのがやっぱ欲しいんですね。でもそれだけだとやっぱキャラ(性格的なニュアンスで)が偏っちゃうんで、敢えて「性癖の逆」を与えているキャラもいます。それが重平百合花です。主人公が苦手なキャラだからってそうしたんですが、そのせいで毎回重平出すたびに「こいつここで殺そうかな」って思ってます。なんなら「男に媚びる感じ」が苦手なので(私はツイフェミでもなければ女でもない)実は守も苦手です。というか恋愛描写(百合、薔薇は除く)が基本嫌いなのでそれがある奴は基本嫌いです。この面倒な性格のせいで最近始めたはいいものの学園アイドルマスターがそこまで楽しくない(私はプロデューサーが性同一性障害で性自認が男なだけであの作品が百合であることをまだ信じている)。
まじめな話、美琴の話が終わるまではゆっくり進めますが、それ以降は多分しばらく投稿が止まります。なぜなら過去の私のせいで「鈴音」と「君のソナタ」が支離滅裂になりそうだから。




