2015-77NOVEL006
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「武器はどこだ」
「1階の、えっと……こちらです」
ピクルスの案内で、建物の一室に入る。そこにはズラリと銃器と刃物が並ぶ、物騒な部屋だった。そして強面の中年男性の受付がいる。
(まるで雰囲気作りのために、この人に受付させているんじゃ……?)
「武器をお求めで?」、だみ声で尋ねられた。
「もちろん。にしても、値札が見たらないけれど」
「無償の貸し出しになっております」
「弾丸は、使った分だけ、後で請求?」
「いえいえ、そんなことはありません」
「壊しちゃったら?」
「そのときは、弁償をお願いします」
「……だ、そうだ」、刃沼はピクルスに云う。
「あ、はい。僕は知っております」
「そっか。知らないの、私だけか」
受付というより店主っぽいオヤジさんが聞く。
「で、どう致します? こちらで適当に見繕いますか?」
「ええ、お願いします」と、ピクルス。
「ちょっと、それでいいのかい」、刃沼が制する。
「銃器については疎いもので。弾が発砲できれば、それでいいかな、と」
刃沼は呆気にとられた。
「なぜ、それで、この仕事をやっているの……」
「何分、新人なもので……」
「新人と云うより素人じゃないかな」
「はい、素人です」
「そっか」
店主が急かす。
「あのお二人さん、後ろが見えませんか? 貴方二人に時間をかけてばかりもいられないんですがね
」
後方に人が列をなしている。
「もう少し待ちなよ。大事な仕事道具は、そうやって急かされて決めるもんじゃアない」
「……」
「ピクルス、アンタの武器も私が選ぶ、いいかい?」
「え……いや、ヌルさんよりは、そちらの受付さんに決めて頂けたほうが安心……」
「もういいや。私が決める。店主! これと、これ、それと、そして、こいつ、借りる」
その後、店主と刃沼は、それぞれの物品に対し、いくつか確認を繰り返して、その部屋から出た。
ピクルスが開口する。
「いや……凄いですね。あんなにテキパキ、カスタマイズしてしまうとは」
「カスタマイズ? 分からないけれど、他の人とそう変わらないよ。
それで。その分じゃ、銃も刃物も、満足に扱ったことないだろ?
」
「包丁さばきの方なら、多少……」
「今回は料理じゃない」
「…………」
「まぁ、いいさ。狩ったモンスターが食えそうだったら、調理を頼むよ」
*
建物から出ようとしたとき、声をかけられる。
「よ! ワタシも交ぜてよ!」
「これは、どうも、キクコさん」
「誰……?」
刃沼はピクルスに尋ねる、とともに、空気が少し悪くなったようだ。
「アンタ、新人の癖して、先輩の名も覚えられないのか?
いや、ちょっと待ってよ。アンタそもそも、挨拶回りしてなかったよね? 何様のつもり?
」
「知らないな」
「知らないじゃないわよ。そんなんじゃ、この世界でやっていけないの! さ、今からでも回って、挨拶していくんだよ?
」
「アンタは、アンタ自身に集中することだ。私の行動は私が決める」
「ま……いいけどね。で、そっちのチームにワタシも入るけど?」
「図々しいな」
「先輩だもん」
「ああ、ワガママが先輩か」
ピクルスが刃沼に云う。
「ここはキクコさんに協力を頂きましょう」
「なんでだ」
「キクコさんは、とても戦力になる、頼りがいのある先輩です」
「そうそう。なにせ基本的には一人でも戦えるほどだからね」、と、キクコ本人も得意気だ。
「だったら一人で戦えばいいじゃないか」
「ヌルさん、一体何がご不満なんですか?」
「その高飛車な性格だよ」
「ま、別に、イヤと云うなら強要はしないわ」
「あの、ヌルさん……」
……
(ピクルスは、どうしてもキクコの協力が欲しいらしい。反面、自分は情報の出入りが欲しい。今の所、不明なこと多く、誰かと一緒に居た方がメリットなのかデメリットなのか判断しかねるが……、まぁいいや、今は流れに従ってみる。
)
「OK」
「いいんですか。分かって頂き、ありがとうございます」
*
「で、自称先輩さん、レクチャーをお願い」
「人に物を頼む態度とは思えないわね」
「キクコさん、まず西の森に行くのがよろしいでしょうか?」、ピクルスが尋ねる。
「ええ、そうね。そこが無難でしょう」
「強いモンスターを狩る方が、得点は高いのかい?」、刃沼が聞く。
「得点って……」、キクコが呆れる。
「ええ、そうです。ですがもちろん、危険ですので、今は避けましょう」
「仕方ないね」
「ワタシ単独だったら、どこへ挑んでも問題ないだけれど」
「そっか」
徐々に聞いたこともないような鳴き声が、縦横無尽に聞こえてくる。その中を3人は歩いている。
「今『モンスター』って云っているのは、バイオテクノロジーの悪用の産物かな?」
「まぁ、そんなところね」
「テキトーに云ってみただけだったんだけど」
「生物を軍事目的に利用しやすくするための研究。その研究の過程で出てきてしまったもの、って聞いてるわ
」
「あァ、ありがちな話だな。技術が進歩すれば、その悪用例もズラズラと出てくる」
今だモンスターとの遭遇はない。森の中は進むだけでも手間を取る。
「何かゲームみたいですね」、とピクルスは云った。
「ゲームじゃないわ。ゲーム感覚でやってたら、死ぬよアンタ」
「申し訳有りません……」
「私はゲーム感覚で仕事をしているよ」、と刃沼、云う。
「あのねぇ。遊びじゃないのよ? 分かってるの? ヘマしたら、こっちまで迷惑をこうむるんだから
」
「人生は生死をかけたゲームのようなものさ。じゃなきゃア、人生を楽しめやしないよ
」
「ワタシには分からないわ、そのトチ狂った感覚」
「神経を尖がらせて生きるより、気楽に生きるのが幸せさ」
*
モンスターが現れた! バスケットボールが口を開いたかのような怪物が、こちらに敵意をむいて近づいてくる。
「ああ、どうしよう、どうしよう。敵です! 敵!」、ピクルスは焦っている。
「ふーん」、刃沼は他人事だ。
「ちょっと待ってなさいよ」
キクコは撃とうとした、が、不発だった。慌てて銃をいじるも、間に合わないと考え、剣を両手に、バスケットボールを叩き切った。
息を切らすキクコ。落ちついてから、怒鳴り散らす。
「しっかりしなさいよアンタら! ワタシがいなかったら、やられてたわよ!」
「すいません! すいません! すいません!」
ピクルスはしきりにペコリペコリ謝った。
「アンタも、何、高みの見物してんのよ? 敵が出たのよ?」
「あァ、見りゃあ分かる」
「攻撃しなさいよ!!」
「私はアンタがどう出るかを観察していたんだ。何しろ新人だからねぇ。先輩さんの見学さ
」
「ったく……」
その後も数度、弱小モンスターが現れては、その度に一人除いて大騒ぎしていた。
「ふわぁぁぁっ、と」、刃沼は欠伸をした。
「ごめんなさい! 本当にすみません……! 何もできなくて」、ピクルスは謝り続けて、謝り疲れている。
「全く……本当よ。そして、もう一人は、何もしないし……」
ジロリと刃沼をにらむ。
「あぁ、お仕事、ご苦労さん」
「何様よ! ……いや、もういい、疲れた……」
(もう既に分かったことがある。このキクコという人、一人でこの仕事をこなすのは、この付近にいる弱小モンスター相手で手一杯だ。とても満足に戦い続けることはできそうにない
)
頭上の木から、葉っぱの擦れる音、枝の弾く音。キクコが頭上を見上げると、
「危ない! 避けて!」
ツララ状の、割と大きいモンスターが、ピクルス目がけて突っ込んできた。
「何でこの敵が、こんなときに。間に合わない!」、キクコはピクルスの手を引こうとするが、スルリと、その手は空を切ってしまった。
「しまった……!」、致命的ミスだった。
(上からか)、刃沼は既に攻撃体勢に入っている。
キクコは目をつむる。ピクルスはようやく上を見て、状況に気付く。
!
キクコが目を開いたとき、無残な姿にはならなかったピクルスがいた。
「ァ……?」、キクコ、うろたえる。
横の茂みに、コンバットナイフで一突きにされたモンスターが横たわっていた。全く微動だにしない。寸分違わず急所への一撃であった。
「……初めて仕事をしたわね」、キクコが刃沼に云う。
「まぁ、アンタが間に合わなそうだったから」
「…………」
「もう暗くなってきたし、今日はここまでで」、キクコが云った。ぜぇぜぇと、息を切らしている。ピクルスの方も、あまり表には出さないが、相当、疲れているようだ。多分その多くは気疲れの方で。刃沼は、このまま何日か、山を歩き通しても大丈夫そうだった。
(今日は山歩きをしたおかげで、新鮮な空気もたくさん吸えたし、健康的だ)
むしろ、ここに来たときよりも疲れが取れているようだった。
帰途の途中、キクコが徐に聞いた。
「アンタ、ヌル、だっけ?」
「そう」
「全然、その名前、聞いたことないんだよね」
「あ、そう」
「前はいったい何をやっていたんだい?」
「さぁ……」
「いやゴメン、ワタシの尋ね方が悪かった? 気に障らないよう聞いたつもりだったんだけど……
」
「じゃあ、ニート。ニートだったってことにすりゃいい」
「いや、アンタのようなニートいる訳が――」
「じゃあフリーター」
「……云いたくないって訳ね。そっか、そもそも、自分のこと云わずに、根掘り葉掘り問いただしたのが不快だったかな? ワタシはね、元々――
」
「いいよ。聞く気もない」
「…………」
「ピクルス、大丈夫か?」
「え……? あ、はい……」
「大丈夫でしょ、そいつも結局、何もやってないんだから」、とキクコ。
「すいません……」
「キクコ、もう余計なこと云わないで欲しい」
「なにさ」
「自らの疲弊のために、仲間のことに気付かないらしいな。ピクルスの顔色を、よく見てみなよ
」
「……見たわ。どうかして?」
刃沼は、少し参ったという気持ちになった。
「顔が青ざめているんだ」
「あの、ヌルさん、僕は、平気ですから……、それよりキクコさんのことを」
「キクコは元気だ」
「ワタシ、凄く疲れているんですけれど」
「その疲れも、もうここまでの帰途で、回復が見えている。だから大丈夫だ。
でも、ピクルスの方は、疲れがたまる一方だ。おそらく精神的な疲れ、気疲れだと思う。
部屋で一人にし、休ませた方がいい。
」
「申し訳……ありません」
「もういいんだ、謝らなくて」
(キクコとの組み合わせが、ピクルスの気疲れに拍車をかけてしまったな)
「ワタシのせいだって云いたい目ね……?」
刃沼は何も云わなかった。
*
ピクルスのために借りた部屋にて。ピクルスを部屋に案内したのち、刃沼は出て行こうとした。
「ヌルさん、今日は本当に、色々と、ありがとうございました」
「……ゆっくり休みなよ。余計なことでクヨクヨ悩まず、な」
扉を閉めた。
ロビー…と思われる広間にて。
「ホラ、アンタの部屋のカギ」、キクコが刃沼に、どでかいキーホルダー付きのカギを放り渡す。
「ここでは部屋も無料で提供するのか。気前がいい」
「何云ってんの。各社が共同で出資しているんだから、結局、タダじゃないのよ?」
「アンタはいちいち、言葉がトゲトゲしいよ」
「そう……? ワタシはいつも普通に話しているだけだけど?」
「明日からは、特にピクルスような、相手の言葉をモロに受け取るタイプの人には、穏やかに話すこと、気を付けて欲しいもんだね。
」
「そんなこと」、少し呆れたふうにキクコが云う。
「どうでもいいことだと思っている?」
「ええ、どうでもいいわ。そんなこと」
「そっか。アンタの言葉は、一部の人にプレッシャーかけ過ぎる」
「それが職場ってもんでしょ?」
「過剰なプレッシャーはパニックになる。パニックの矛先は、時に自分に向けられる。それが危険なものを扱うハンターなら、なおさらだ
」
「何のこと?」
「銃器、刃物という危険な道具も使う仲間を、精神的に追い込んで、何になる?」
「だって! 仕方ないじゃん。上手く出来ない奴を叱りつけるのは」、キクコは少し笑いながら話す。
「ダメだなそれは。人は誰しも、初めは初心者だ。失敗して当然だ。失敗を責めてはいけない。
」
「そんなの、無理~」、またキクコは、呆れがちに云う。
「責めれば、上手く出来なくなるよ。余計にプレッシャーばかり、かけてるだけなんだから。で、ますます不手際が目立つようになるけれど、そこでキクコは、また叱るだろね。じゃあ、もっと相手は調子を悪くする。悪循環さ。
」
「…………」
「その行き先は、仲間に銃口が向けられることにも、なりかねないかな」
キクコは神妙な面持ちで黙り込んでしまった。
(真面目に考えだしたようだ)
――未完――




