表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『五美と』
25/57

2015-77NOVEL005

   5


 刃沼は雑居ビルの一室にいた。そこでオーナーと呼ばれている男と話をしていた。

「今回の仕事内容は大体把握したよ」

「よし。で、これが必要な書類など、一式だ」

「ありがとう。ふ~ん、私は今回『ヌル』って云うのか」

「そうだ。地方の中流階級のご子息、という設定だ」

「設定ね……」

「上手い具合に演じてくれ」

「で、そのヌルちゃんが、モンスター討伐に挑んでいく、と。どういう流れで そんなことに?

「さぁね」

「さぁね、って。そんな不自然じゃ、偽装がバレちゃうよ」

「いや、大丈夫だろ。今は割と、どっからでもモンスターハントに手を出す輩が、滅多やたらにいる

「へぇ、モンスターハントって云ったりもするの?」

「モンスター討伐、モンスターハント、怪物討伐、化け物殺し、云い方は色々だな」

「云い方によって、穏やかな印象がするのがいいね」

「だがやってることは殺害だ」

「まぁ、そりゃそうだ」

「そして、……まぁ、どこにでも起こることだが、ここもまた不正がチラホラ現れ始めてるらしくてな」

「その証拠を握ってこい、と、早い話そういう訳?」

「そうだ。その詳細は、さっき渡した書類で確認してくれ」

「分かった」

 今回、刃沼は『ヌル』という偽名を用いて、モンスター討伐に関わる仕事に手を出す。そうしつつ、適宜、不正に関わる情報等を盗み出す、そんな所だった。その不正が何なのかすら、まだ良く分からないけれど、

(何とかなるさ)

何とかなるさ、という感覚が大事だと、刃沼は心得ている。


   *


 地方の田舎町から、バスで揺られていた、現在 ヌルという名の刃沼。このバスには、多分同じ仕事を目指している者たちが乗っていた。

「アンタも賞金を稼ぎに、この仕事を?」

 唐突に隣の席から尋ねられた。

「賞金稼ぎ? モンスターを倒して?」、刃沼が尋ね返す。

「いや、それくらい知ってるだろ」

「……私は人から勧められて、現在に至る。良く分からないんだ。色々教えてくれると幸い。

「オイ! こいつ、何も分からないで、ここにいるんだと!」

(尋ねる相手を間違えたかもしれない、な)

 刃沼の周りに人がワラワラと集まる。

「モンスターって知ってる?」、誰かが尋ねる。

「当たり前だろ」、誰かが答えた。

「いいや、そこから説明してくれると、ありがたい」、刃沼が云った。

「じゃあ、オレが説明する」、「いや、私が説明する!」

 やけに元気の良い人々だった。

「コホン、モンスターというのは……、人を襲う猛獣」

「猛獣? いや、違うだろ?」

「モンスターっていうのは、モン星、惑星の一種だ」

「何を冗談抜かしてるんだ」

 ワイワイ、話していらっしゃる。まともに会話は出来ないと、刃沼は諦めて、単純な質問だけをした。

「モンスターを倒せば、どこから賞金が手に入る?」

「どこって、そりゃ……上から」

「いやいや、それは――」

話は横道に逸れに逸れた。

(もういいや)

 刃沼は話すことを止めて、車窓の風景を眺めることに徹した。

(そのときになれば、分かる)


   *


 バスが到着した先は、森の中にある木造ビルだった。ビルとは云えないほどに、小柄な建物かもしれないが、木造ビルディングだ。そう説明された。木造、というのが刃沼にも少し気に入った。

 中に入ると、解放感のある空間が広がっていた。所々、ガラスの壁が使われていて、それがなおさら、閉塞感の無さを表わしているようだった。ぞろぞろと入った人だかりは、湾曲したテーブルに並ぶイスに腰掛けたり、忙しなく挨拶へ向かったりしていた。

「XXコーポの大島です! よろしくお願いします!」

「ああ、よろしく」

「UUの水幸です、お見知りおき お願いします!」

「あぁ、新人さんね。よろしく」

(どうやら、どこかの組織に所属している人が結構いるらしい。派遣みたいなもの?

で、挨拶されるばかりの人は、同業の先輩さん方、というところかな。

 横から小柄な者が、刃沼にぶつかってくる。

「すみません!! すいません!」

 しきりに頭を下げてきた。

「ああ、平気」

「申し訳有りませんでした……。あっ、僕は、DIGのピクルスと申します。今後とも、よろしくお願いします。

 ぺこり、と頭を深々下げた。

(DIG? いや分からないが、名前だろうね、社名とかの)

「私はヌル。よろしく。それしても全員に挨拶回りか。大変だねぇ」

「あ、いえいえ……。お気遣い感謝です」

 ピクルスと名乗った その人は、また別の人へ駆けてゆき、また頭を下げていた。

(そういえば。皆、社名らしき組織名を名乗っていた。と、すると自分の方にも、そういう設定が用意されているのかな?

 刃沼は荷物を漁ると、手帳が出てきた。開くと、身分証らしき表示があり、『解毒社』の所属だと書かれていた。

(へぇ~。解毒社のヌルです、と自己紹介すればいいのかな。面倒臭い)


   *


 建物の中には、立派で清潔なカフェも隣接していたので、そこへ行き、一杯のエスプレッソを注文した。

 のんびりくつろいでいると、いつしか近くの席に、先ほど見かけたピクルスとか云う人が座っていた。肩が強張り、見るからに緊張し、コップを持つ手も震えていた。

「ピクルス、だっけ?」

 ガチャン、という音を立てて、ピクルスはコップを皿に置いた。とても驚いた表情でこちらを見ていた。

(神経過敏すぎやしないかな……)

「えっと、えっと、えっと…… ええと……!」

 なぜか、言葉が出ずに、とても焦っているように見える。

「すいません、……えっと、その……」

「いや、用というほどの用はないけどね。これから皆、どうするのかと思って」

「え……っと、もしかして、新人さん、でしたか……?」

「新人? まあ何も知らないんだから、そうなるだろうね」

「そうでしたか……」

 ピクルスは落ち着いたらしい。

「すいません、実は、貴方の名前を忘れてしまいまして。すいません、また教えて頂けないでしょうか

「えっと。そうだ、ヌルという名前だった」

「……? ヌルさん、ですね」

「そう、ヌルだ。ヌルに違いない」


「えっとですね」

 そう云って、しばしピクルスは説明を考えた。

「まずチームを作る必要があります」

「ほうほう」

「そして、武器を借りて、このあたりのモンスターを倒してゆくようです」

「RPGゲームか何かみたいだ。チームと云わず、パーティと云えば それっぽかったのに」

「しかし、チームを組むには、それなりの力がある人と組たくて……。でも、そういう方たちは僕のような新人を相手にして下さりません。

他の新人さん方も、コネがあるならまだしも、そうでない方たちは、力のない方々の集まりで。

「何か問題が?」

「それだと余り儲けられないんです。そして、ある一定以上ダメダメだと、今度から呼ばれなくなります。それが怖いです。

「へ~? 別に呼ばれなくてもいいんじゃないかな」

「僕にとっては死活問題なんです。仕事がなくなります」

「ふーん。で、今アンタは、どういう人たちとチームを組んでいる?」

「…………」

 ピクルスは無言だった。

「ん? もしかして、それは他言してはいけないことだったのかな」

「……誰もいません。まだ僕一人です」

「なるほど」


 刃沼は、カフェの店員に注文した。

「おかわり。今度はコーラね。――飲む?」、ピクルスにも聞く。

「いいえ、もう結構です」

「じゃあ、コーラ一杯、お願い」

「はい。かしこまりました」

 刃沼はピクルスの方へ向いた。

「――で、チームってのは一人でもいいのかい?」

「いや分かりませんが……。チームというからには普通二人以上だと……」

「ふーん」

「それに、一人じゃ仕事になりませんよ」

「そうかな」

「そうですよ」

「じゃ、ピクルス、私とチーム組んで頂戴」

「ええ?!」

「私も相手がいない。チームが要るなんて聞いてなかった」

「ええ……まぁ、僕は、人数が多ければ多いほど歓迎しますので、良いですが」

「良く知らない相手なのに、チームに入れるのかい」

「そう云われると……、問題がありそうですが。ですが、そもそもチームが作れないのでは、話になりません

「そっか」

「しかし、どちらにいろ弱小チームで、……。僕たちは今回限りのお呼ばれでしょうね」

「なんでだ」

「毎度のパターンなので、僕には分かるんですよ。いつも先輩方で、9割は持っていかれます。

「何が?」

「すいません。報酬の9割です。報酬は出来高と、それに大御所ほど、さらに掛け率が高いようです

「よく分からない。この分野にも大御所なんてあるの?」

「ええ、いますとも。例えば、刃沼さんとか、他に――」

「――え!? なんて?」

「どうかしましたか」

「いや……。その刃沼って人は、初耳でね。詳しく聞きたいもんだね」

「少し前に現れ、急速にのし上がっていった凄腕のハンターです。ただ最近では、どうも経歴が嘘だということが疑われいるという、悪い方で有名になってきています。

「ああ、なるほど。(なんでその名を使うんだ)」

「僕も調べてみたんですが、どうやら『刃沼』というのは、伝説化している人のようですね

「知らなかったな……」

「色々と伝説が作られているようです。恐らく、ほとんどが創作でしょう。

赤ん坊のときからゲリラだったとか。

たった一人で一晩で、軍事施設を壊滅させた、とか。

変装の名人。実はまだ小学生で普通に学校に通っている、というネタもありますね。

 刃沼は少し、頭のクラクラする感じがした。

「あぁ……、あァ、ファウスト伝説のようなものだろうね。ゲーテさんも参考にした」

「そちらは知りませんでした」

「いつの時代でも、何ごとも解決してくれるスーパーマンのような超人を切望したりするもんだよ

「そうでしょうね。現実は……みんな人並みの力で、せっせせっせと頑張るという、地味なものですからね


 話も一段落してきた頃、刃沼は聞いた。

「それで、肝心の狩りは、いつ始まるの?」

「いえ、いつということもなく。用意が出来た人たちから、すぐにでも――」

「何だよ。てっきり向こうの準備が終わるまで待たされてるんだと思ってた。

じゃあ、すぐ出るよ、ピクルス!

「いや、ヌルさん! まだ二人なのに、出て行くと云うのは無謀ですよ。返り討ちですよ。

「二人いれば十分。行くよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ