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◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『五美と』
24/57

2015-77NOVEL004


   4



 会議室に到着した。そこにはオドデラと、先日、五美を苛めていた生徒らがいた。うんざりした様子のオドデラが云う。

「やっと来たか。とにかく座れ」

 担任は手近なイスに腰掛けた。刃沼は壁を背にして立ったままだ。そこはちょうど、廊下への出入り口と、ベランダへの出入り口の間に当たる。

「お前はいつも反抗的だな? 座れ、と云っとるんだ」

「アンタは自分の思い通りに人が動かせると、思い上がっているのかい? 私は多くを自分で判断し、自ら決める

 オドデラが激昂する前に、担任が一言、云った。

「オドデラ先生、話し合いを始めましょう。とにかく今は、話し合いに持っていくことが肝要です」

 ぜぇ、はぁ、と怒りを吐き出したり吸ったりしているオドデラ先生は、ようやく落ち着きを取り戻す。そして周囲を、ゆっくり見回しながら刃沼に視線を向け、語り出す。

「この生徒らに見覚えはあるかね?」、刃沼に尋ねる。

「あア。ある。五美を苛めていた奴ね」

「五美? それは違うだろ? お前が、この生徒を苛めていた、と、この生徒らは云っているぞ。

「そう」

「どのような苛めをされた?」と、担任が3人の生徒に向かって聞く。

「えっと、な……。トイレで、出会いがしらに、そいつに首を絞められた」

「これは暴行であり、看過できない事態です」、オドデラが主張する。

「本当なのか? 刃沼」、担任も刃沼を怪訝に見る。全員の視線が集まる。

「…………」

 刃沼はモゾモゾとポケットをまさぐる。

「……?」、ますます周囲は訝しる視線を向ける。

 ポケットから取り出したのは、震える機械、マナーモードで着信中の携帯端末だった。

「急用かもしれないね」

刃沼は通話を初めならがら、ベランダに出る。


通話中。

「んー、ああ、それで? ――

なるほど。――

今すぐにかい? ―― ああ、分かった。いいよ


会議室に戻ってくる。すぐさまオドデラが不満を怒鳴り散らした。

「話し合い中に電話に出るとは何事かッ!」

「悪いけど、こっちも忙しいんだ」、刃沼は会議室を横切るように進む。

「おい……! 待て。まだ話し合いは終わっていない」

「えー? もう話し合いは終わったようなもんだろね」

「なんだと」

「調べが足りないんだよ」

「あ?」

「大勢の生徒たちに聞きなよ。真相は容易く分かるさ。

そこにいる奴が、いじめ……いや、暴行かな? もはや犯罪の常習犯だってことも把握してないんだろ?

「…………そうなのか?」

「だから調べなよ。じゃあーね」

 刃沼は立ち去る。


   *


 刃沼は自らの教室に通りかかる。授業中だったらしい。扉を開ける。生徒たちと先生は静まって、皆、こっちに視線を向けたまま固まった。

「ん……? あぁ、どうぞ構わず授業を続けて」

刃沼はデガラシの席まで行く。

「デガラシ、私はしばらく、ここを離れるから」

「……え。今度はどのくらいの期間になりますか」

「分からないね」

「そうですか。……ところで、そういう話は、学校が終わってから話して頂けると」

「今すぐ旅立つ」

「はい。……分かりました」

 デガラシは刃沼の手を握りしめた。

「くれぐれも気を付けてください。今度も、元気な姿で帰って来て下さい」

「あぁ。運が受けりゃアね」

 刃沼は教室から出て行った。

……

 しばらくデガラシは、授業の内容も聞いておらず、ぼーっと正面を見るばかりだった。

 五美が筆記で尋ねる。

”大丈夫 ですか ?”

 デガラシは無言のまま、穏やかな笑顔で返事した。


   *


 下校。

「では、五美、帰りましょうか」

 五美は頷く。

 五美はデガラシと一緒に帰るようになっていた。一部生徒からは、「カップル? 恋人? 付き合ってるの?」 等々、揶揄やゆされるが、デガラシは さして気にしていないらしい。

「ここでお別れですね。また明日、会いましょう」

 分かれ道で二人が別れるとき、デガラシの服を五美がつかんだ。

「……? 何か忘れ物でしょうか?」

 五美は、焦るように、カバンから筆記具とノートを取り出そうとする。デガラシは穏やかにそれを待つ。そして五美は筆記で問う。

”オレと いっしょに いて デガラシさんまで いじめられる”

 デガラシはゆっくりと読み、少し考えたのち、慎重に答えた。

「それでも一緒にいますよ。いいえ、むしろ逆です。わたしが一緒にいなければ、余計に五美だけが、いじめられるのではないでしょうか

 五美はうつむいた。

「……?」

 地面へ水滴がポタポタ落ちていた。

「……。大丈夫です、大丈夫」

 デガラシは手をつなぎ、五美の家まで一緒に付き添った。


 玄関先で待っていると、五美の母が出てきた。

「まあ、デガラシちゃん、いつも五美の面倒見てくれて、ありがとね」

「いいえ……」

「ありゃまぁ、どうしたの五美? 涙ポロポロ流して? 転んだの? 全くアンタはもう――」

「あの」

「エエ……?」

「……そっとしてあげて下さい」

「ええ……、エエ」

 五美の母は、訳も分からなかった様子だった。そして扉は閉まった。

 もう日が暮れ、暗くなった道を、デガラシは一人、刃沼のいない刃沼の家に帰って行った。

(こういうときになって気づかされます。心細さに)

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