2015-77NOVEL004
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会議室に到着した。そこにはオドデラと、先日、五美を苛めていた生徒らがいた。うんざりした様子のオドデラが云う。
「やっと来たか。とにかく座れ」
担任は手近なイスに腰掛けた。刃沼は壁を背にして立ったままだ。そこはちょうど、廊下への出入り口と、ベランダへの出入り口の間に当たる。
「お前はいつも反抗的だな? 座れ、と云っとるんだ」
「アンタは自分の思い通りに人が動かせると、思い上がっているのかい? 私は多くを自分で判断し、自ら決める
」
オドデラが激昂する前に、担任が一言、云った。
「オドデラ先生、話し合いを始めましょう。とにかく今は、話し合いに持っていくことが肝要です」
ぜぇ、はぁ、と怒りを吐き出したり吸ったりしているオドデラ先生は、ようやく落ち着きを取り戻す。そして周囲を、ゆっくり見回しながら刃沼に視線を向け、語り出す。
「この生徒らに見覚えはあるかね?」、刃沼に尋ねる。
「あア。ある。五美を苛めていた奴ね」
「五美? それは違うだろ? お前が、この生徒を苛めていた、と、この生徒らは云っているぞ。
」
「そう」
「どのような苛めをされた?」と、担任が3人の生徒に向かって聞く。
「えっと、な……。トイレで、出会いがしらに、そいつに首を絞められた」
「これは暴行であり、看過できない事態です」、オドデラが主張する。
「本当なのか? 刃沼」、担任も刃沼を怪訝に見る。全員の視線が集まる。
「…………」
刃沼はモゾモゾとポケットをまさぐる。
「……?」、ますます周囲は訝しる視線を向ける。
ポケットから取り出したのは、震える機械、マナーモードで着信中の携帯端末だった。
「急用かもしれないね」
刃沼は通話を初めならがら、ベランダに出る。
通話中。
「んー、ああ、それで? ――
なるほど。――
今すぐにかい? ―― ああ、分かった。いいよ
」
会議室に戻ってくる。すぐさまオドデラが不満を怒鳴り散らした。
「話し合い中に電話に出るとは何事かッ!」
「悪いけど、こっちも忙しいんだ」、刃沼は会議室を横切るように進む。
「おい……! 待て。まだ話し合いは終わっていない」
「えー? もう話し合いは終わったようなもんだろね」
「なんだと」
「調べが足りないんだよ」
「あ?」
「大勢の生徒たちに聞きなよ。真相は容易く分かるさ。
そこにいる奴が、いじめ……いや、暴行かな? もはや犯罪の常習犯だってことも把握してないんだろ?
」
「…………そうなのか?」
「だから調べなよ。じゃあーね」
刃沼は立ち去る。
*
刃沼は自らの教室に通りかかる。授業中だったらしい。扉を開ける。生徒たちと先生は静まって、皆、こっちに視線を向けたまま固まった。
「ん……? あぁ、どうぞ構わず授業を続けて」
刃沼はデガラシの席まで行く。
「デガラシ、私はしばらく、ここを離れるから」
「……え。今度はどのくらいの期間になりますか」
「分からないね」
「そうですか。……ところで、そういう話は、学校が終わってから話して頂けると」
「今すぐ旅立つ」
「はい。……分かりました」
デガラシは刃沼の手を握りしめた。
「くれぐれも気を付けてください。今度も、元気な姿で帰って来て下さい」
「あぁ。運が受けりゃアね」
刃沼は教室から出て行った。
……
しばらくデガラシは、授業の内容も聞いておらず、ぼーっと正面を見るばかりだった。
五美が筆記で尋ねる。
”大丈夫 ですか ?”
デガラシは無言のまま、穏やかな笑顔で返事した。
*
下校。
「では、五美、帰りましょうか」
五美は頷く。
五美はデガラシと一緒に帰るようになっていた。一部生徒からは、「カップル? 恋人? 付き合ってるの?」 等々、揶揄されるが、デガラシは さして気にしていないらしい。
「ここでお別れですね。また明日、会いましょう」
分かれ道で二人が別れるとき、デガラシの服を五美がつかんだ。
「……? 何か忘れ物でしょうか?」
五美は、焦るように、カバンから筆記具とノートを取り出そうとする。デガラシは穏やかにそれを待つ。そして五美は筆記で問う。
”オレと いっしょに いて デガラシさんまで いじめられる”
デガラシはゆっくりと読み、少し考えたのち、慎重に答えた。
「それでも一緒にいますよ。いいえ、むしろ逆です。わたしが一緒にいなければ、余計に五美だけが、いじめられるのではないでしょうか
」
五美はうつむいた。
「……?」
地面へ水滴がポタポタ落ちていた。
「……。大丈夫です、大丈夫」
デガラシは手をつなぎ、五美の家まで一緒に付き添った。
玄関先で待っていると、五美の母が出てきた。
「まあ、デガラシちゃん、いつも五美の面倒見てくれて、ありがとね」
「いいえ……」
「ありゃまぁ、どうしたの五美? 涙ポロポロ流して? 転んだの? 全くアンタはもう――」
「あの」
「エエ……?」
「……そっとしてあげて下さい」
「ええ……、エエ」
五美の母は、訳も分からなかった様子だった。そして扉は閉まった。
もう日が暮れ、暗くなった道を、デガラシは一人、刃沼のいない刃沼の家に帰って行った。
(こういうときになって気づかされます。心細さに)




