2015-77NOVEL003
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校内放送が流れた。
「XX年XX組の刃沼さん、XX年XX組の刃沼さん、至急、職員室のオドデラまで来なさい」
「刃沼、呼ばれてますよ?」
「私は呼んだ覚えはない」
「そうじゃなくて、呼ばれている方ですよ」
「放っときなよ。用があれば向こうから来るんだから」
*
授業中、一人の先生が教室へ訪ねてきた。生徒のヒソヒソ声から、「オドデラだ……」という呟きが聞こえた。
「刃沼、来なさい」
「ん、なぜ?」
「いいから来なさい!」
怒号に、教室が静まった。
「そう」
……
「早く来い云ってんの、聞こえねェのかッ!!!」
激しく激昂して、騒ぎ立てた。
刃沼はじっと、相手を見据えて、「うるさい。静かに」、と云った。
デガラシは心配そうな眼差しを刃沼に向けた。
しびれを切らした、そのオドデラ先生は、ズカズカと教室に入り、刃沼の頭を、片手でガシリとつかみ、イスから立たせようとした。この学校では見慣れた『しつけ』の光景らしい。
が、刃沼はそれをかわす。
「おい、避けるな」
オドデラは刃沼の胸ぐらをつかもうとするが、それも、刃沼はイスから立ち上がりつつ、さける。
「おいコラ!」
それから一呼吸の間を置いて、刃沼が口を開く。
「私は、加害を許さないよ?」
そう云い終わる前に、オドデラは刃沼の頬をビンタしようとした。が、その勢いは刃沼に利用され、体勢を崩しつつ、横に吹っ飛ばされた。オドデラの踏ん張ろうとする片足さえも、蹴飛ばされ、重心を支えられなくなったオドデラは、倒れるしかない動きの流れだった。
そこで担任の先生が間に入る。
「まぁまぁ、二人とも……。もっと穏やかに」
オドデラは顔を赤くして、手を握りしめ、その拳で刃沼に向かっていく。
「ストップ! ダメです、オドデラ先生! そこまでです」
担任がオドデラを制する。そして双方へ交互に顔を向けながら云う。
「まぁ、今回は、まぁ……。オドデラ先生の用事は、また今度、落ち着いてからに、ねぇ?」
「……えぇ。キノサキ先生がそう仰るなら、はい……」
(担任はキノサキという名か……)
刃沼は始めて聞いた気がした。
*
授業は潰れた。休憩時間の生徒のヒソヒソ声。
「なんでアイツ、そんなに強情なの?」
「自己中」
「あいつのせいで、授業が受けられなかったんだけど? 賠償してくれるの」
「なぁ、オレにじゃなく、本人に云えよ」
「ウチはオドデラにムカついていたから、むしろスカッとしたんだけんど」
「でもさ、協調性ないじゃん? 何つうか、和を乱す、っていうか」
「長いものに巻かれろってか」
「そうそう」
「結局、お前たちと刃沼じゃ、違うんだよ」
「↑何がw?」
「↑そういう品の低さ」
「はぁ……」
生徒たちは、どこか、自分たちで作り出した毒に、自分たちで侵されているような、どうしようもなさがあった。
「何か?」
生徒たちが見た先には、ヘッドホンを外した刃沼がいた。
「…………」
「おい、何か云えよ……」、小声で生徒同士、発言のなすりつけるようなことをしている。
「まァ、良く分からないけど。不満や文句があるなら、自分たちで何とかするんだね」
刃沼はまたヘッドホンをかぶった。小柄な刃沼には、やけに大きなヘッドホンだった。
「何かムカつくんだけど」
「おい……」
「何さ?」
「また聞こえるぞ」
「……」
生徒の駄弁りは続く。
「やっぱりオレたちさぁ、小物だよなぁ」
「↑お前がな」
「ああオレもさ。だがお前もさ」
「一緒にしないでくれる?」
間の抜けた哄笑と、軽い暴力とが、続いていた。
*
「刃沼、今ちょっといいか」
担任から呼ばれる。
「何が?」
「ちょっと用がある。来い」
「そういうときは、予め要件の内容を、触りだけでも云っとくもんだよ」
「う~ん……。お前にいじめられた、っていう生徒がいるんだ。そのことでちょっと話し合いをだな」
「身に覚えがないね」
「まず話し合いに顔を出すだけでもしてくれないか? 刃沼がいないと、話が始まらないんだ」
「場所は?」
「第1会議室。今から案内する。来てくれるな?」
「分かった」
「そうか!」
*
担任と移動中。。。
「ところで刃沼、お前、目上の人には敬語を使った方がいいぞ」
「そう」
「そう……っておい、聞いてるか」
「聞いてる。話がズレてるね」
「んーと、なんだ、どういうことだ?」
「先生方が参考例になっていない」
「ン?」
「そもそも先生が敬語で話していない」
「そりゃお前、目上のものが目下のものに話すときはいいんだよ。問題は目上の人に話すときだ。気付かねえか? 俺だって校長先生や教頭先生、先輩方と話すときは、ちゃんと敬語になっているでございますよ。
」
「そう――」
「つまらなかったか」
「何が」
「いや……」
「ああ、確かに、教師の話には面白味が足りない場合が多いかもね。
でも別に今はそんな話、どうでもいい。
」
「……」
「自分より目上か、目下かで、態度を変えること、それが良くないんだ」
「そうかぁ?」
「ああ。もちろん生徒にも悪影響だろうね。教師によって態度を変える生徒なんて、五万といるだろ? ――そういうことにもつながってるんじゃないかな、と思うね私は
」
「そうかそうか」
「……」
「じゃ、何か? 生徒も上司も、大人子供 誰彼構わず、同じ態度で接しろって訳か? そりゃ非現実的――
」
「そう。相手が誰であっても、同じ心構えで接するのが基本」
「でもなぁ……、それは理想論だよ。現実は、そうはいかない」
「……。先生は、そして大人は『現実』という言葉を、かなり使っているけど――、そもそも、『現実的』と云う言葉はナンセンス。自分の信じた世界が現実になる。その人の認識に過ぎない。
」
「だが今の話は、人がそれぞれ違うのに、同じ対応をしろってな? そりゃ無理だ」
「違う。同じ『対応』ではない」
「え」
「同じ心構えだよ。人を差別しないだけで、皆、同じ対応にはならない。
その相手の言動によって、合わせてこちらも、それなりの対応になる。
重要なのは、相手の外見や年齢・役職という表面的なことで、態度を変えたりしないこと。
」
「はぁ……俺には、その自論、滅茶苦茶云っているように聞こえる。
」
「年齢や性別、国籍、人種によって態度を変えず、人間性によってのみ態度を変えなさい、ってこと……!」
「分かった、分かった」
「……」




