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◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『五美と』
23/57

2015-77NOVEL003


   3



 校内放送が流れた。

「XX年XX組の刃沼さん、XX年XX組の刃沼さん、至急、職員室のオドデラまで来なさい」


「刃沼、呼ばれてますよ?」

「私は呼んだ覚えはない」

「そうじゃなくて、呼ばれている方ですよ」

「放っときなよ。用があれば向こうから来るんだから」


   *


 授業中、一人の先生が教室へ訪ねてきた。生徒のヒソヒソ声から、「オドデラだ……」という呟きが聞こえた。

「刃沼、来なさい」

「ん、なぜ?」

「いいから来なさい!」

 怒号に、教室が静まった。

「そう」

……

「早く来い云ってんの、聞こえねェのかッ!!!」

 激しく激昂して、騒ぎ立てた。

 刃沼はじっと、相手を見据えて、「うるさい。静かに」、と云った。

 デガラシは心配そうな眼差しを刃沼に向けた。

 しびれを切らした、そのオドデラ先生は、ズカズカと教室に入り、刃沼の頭を、片手でガシリとつかみ、イスから立たせようとした。この学校では見慣れた『しつけ』の光景らしい。

が、刃沼はそれをかわす。

「おい、避けるな」

 オドデラは刃沼の胸ぐらをつかもうとするが、それも、刃沼はイスから立ち上がりつつ、さける。

「おいコラ!」

 それから一呼吸の間を置いて、刃沼が口を開く。

「私は、加害を許さないよ?」

そう云い終わる前に、オドデラは刃沼の頬をビンタしようとした。が、その勢いは刃沼に利用され、体勢を崩しつつ、横に吹っ飛ばされた。オドデラの踏ん張ろうとする片足さえも、蹴飛ばされ、重心を支えられなくなったオドデラは、倒れるしかない動きの流れだった。

 そこで担任の先生が間に入る。

「まぁまぁ、二人とも……。もっと穏やかに」

オドデラは顔を赤くして、手を握りしめ、その拳で刃沼に向かっていく。

「ストップ! ダメです、オドデラ先生! そこまでです」

 担任がオドデラを制する。そして双方へ交互に顔を向けながら云う。

「まぁ、今回は、まぁ……。オドデラ先生の用事は、また今度、落ち着いてからに、ねぇ?」

「……えぇ。キノサキ先生がそう仰るなら、はい……」

(担任はキノサキという名か……)

 刃沼は始めて聞いた気がした。


   *


 授業は潰れた。休憩時間の生徒のヒソヒソ声。

「なんでアイツ、そんなに強情なの?」

「自己中」

「あいつのせいで、授業が受けられなかったんだけど? 賠償してくれるの」

「なぁ、オレにじゃなく、本人に云えよ」

「ウチはオドデラにムカついていたから、むしろスカッとしたんだけんど」

「でもさ、協調性ないじゃん? 何つうか、和を乱す、っていうか」

「長いものに巻かれろってか」

「そうそう」

「結局、お前たちと刃沼じゃ、違うんだよ」

「↑何がw?」

「↑そういう品の低さ」

「はぁ……」


 生徒たちは、どこか、自分たちで作り出した毒に、自分たちで侵されているような、どうしようもなさがあった。


「何か?」

 生徒たちが見た先には、ヘッドホンを外した刃沼がいた。

「…………」

「おい、何か云えよ……」、小声で生徒同士、発言のなすりつけるようなことをしている。

「まァ、良く分からないけど。不満や文句があるなら、自分たちで何とかするんだね」

 刃沼はまたヘッドホンをかぶった。小柄な刃沼には、やけに大きなヘッドホンだった。

「何かムカつくんだけど」

「おい……」

「何さ?」

「また聞こえるぞ」

「……」

生徒の駄弁りは続く。

「やっぱりオレたちさぁ、小物だよなぁ」

「↑お前がな」

「ああオレもさ。だがお前もさ」

「一緒にしないでくれる?」

 間の抜けた哄笑と、軽い暴力とが、続いていた。


   *


「刃沼、今ちょっといいか」

 担任から呼ばれる。

「何が?」

「ちょっと用がある。来い」

「そういうときは、予め要件の内容を、触りだけでも云っとくもんだよ」

「う~ん……。お前にいじめられた、っていう生徒がいるんだ。そのことでちょっと話し合いをだな」

「身に覚えがないね」

「まず話し合いに顔を出すだけでもしてくれないか? 刃沼がいないと、話が始まらないんだ」

「場所は?」

「第1会議室。今から案内する。来てくれるな?」

「分かった」

「そうか!」


   *


 担任と移動中。。。

「ところで刃沼、お前、目上の人には敬語を使った方がいいぞ」

「そう」

「そう……っておい、聞いてるか」

「聞いてる。話がズレてるね」

「んーと、なんだ、どういうことだ?」

「先生方が参考例になっていない」

「ン?」

「そもそも先生が敬語で話していない」

「そりゃお前、目上のものが目下のものに話すときはいいんだよ。問題は目上の人に話すときだ。気付かねえか? 俺だって校長先生や教頭先生、先輩方と話すときは、ちゃんと敬語になっているでございますよ。

「そう――」

「つまらなかったか」

「何が」

「いや……」

「ああ、確かに、教師の話には面白味が足りない場合が多いかもね。

でも別に今はそんな話、どうでもいい。

「……」

「自分より目上か、目下かで、態度を変えること、それが良くないんだ」

「そうかぁ?」

「ああ。もちろん生徒にも悪影響だろうね。教師によって態度を変える生徒なんて、五万といるだろ? ――そういうことにもつながってるんじゃないかな、と思うね私は

「そうかそうか」

「……」

「じゃ、何か? 生徒も上司も、大人子供 誰彼構わず、同じ態度で接しろって訳か? そりゃ非現実的――

「そう。相手が誰であっても、同じ心構えで接するのが基本」

「でもなぁ……、それは理想論だよ。現実は、そうはいかない」

「……。先生は、そして大人は『現実』という言葉を、かなり使っているけど――、そもそも、『現実的』と云う言葉はナンセンス。自分の信じた世界が現実になる。その人の認識に過ぎない。

「だが今の話は、人がそれぞれ違うのに、同じ対応をしろってな? そりゃ無理だ」

「違う。同じ『対応』ではない」

「え」

「同じ心構えだよ。人を差別しないだけで、皆、同じ対応にはならない。

その相手の言動によって、合わせてこちらも、それなりの対応になる。

重要なのは、相手の外見や年齢・役職という表面的なことで、態度を変えたりしないこと。

「はぁ……俺には、その自論、滅茶苦茶云っているように聞こえる。

「年齢や性別、国籍、人種によって態度を変えず、人間性によってのみ態度を変えなさい、ってこと……!」

「分かった、分かった」

「……」

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