2015-77NOVEL002
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刃沼が寝て過ごしていると、いつしか授業は終わり、昼休みになっていた。
「そういえば刃沼、昼食はどうするんですか?」
「昼食?」
寝ぼけ眼で聞き返す。
「お昼ご飯、わたしは売店で山菜パンを買ってきますが」
「私はいらない」
「何か、食べた方がいいですよ」
「これがある」
と、刃沼は懐から、ポリ袋に詰まった錠剤の山を取り出した。
「薬……?」
「水なしでも服用できる栄養錠剤」
「はぁ……」
「便利だよ。3度の食事も数秒で済む」
「ん~……」
デガラシは しばし難しい顔をしたものの、何も云わずに売店の方へ歩いて行った。
昼休み、学校は当然のごとく、お子様の喧騒の真っ只中だった。
「さてと」
刃沼はカバンからヘッドホンを取り出し、装着した。そして、ヘッドホンの先につながる装置の電源を入れた。刃沼の聴覚はBGMで塞がれた。
「耳栓替わり」
隣では、五美がユラユラと、どこかへ立ち去っていった。
教室では生徒たちが会話する。眠る刃沼の方をチラチラ横目で見ながら。
「体育祭の準備に協力させなくていいのか?」
「でも……、どう云ったらいいの」
教室には生徒がチラホラ見えるだけの人数になった。体育祭への準備の段取りが悪いために、昼休みにも関わらず、作業をせざる得ない・させられている有様だった。
「それに協力してくれなさそうじゃない?」
「いいじゃん。放っとけよ」
*
昼休みが終わり、5時間目の時刻が過ぎるも、教室には相変わらず、生徒が少ない。のみならず、皆、何らかの作業をしていた。授業らしいことはしないようだ。
「ふ~ん」
刃沼が見た所、色つき画用紙に文字を書いたり、糊で貼りつけたりする、何の為の作業か、分からないことをしていた。
(とりあえずは教室に居続ける必要もなさそうだ)
刃沼は校内を散歩することにした。廊下でも、邪魔になるくらいに人が屯しつつ、作業をしていたり、お喋りしたりしていた。
(それなりに混沌としている)
とある広間へ来たとき、掃除中のデガラシを見つけた。
「あ、刃沼」
「もう授業は終わったようだから、先、帰るね」
「ちょっと待ってください。まだ体育祭の準備が終わってません」
「ん? なんだいそれ」
「みんな、体育祭の準備のために作業をしているんです」
「へー」
そこへ先生が通りかかる。
「おっ、刃沼。今、何やってるんだ?」
「散歩」
「え?」
「……?」
「何の、準備作業をしているんだ?」
「さぁ」
「つまり何もやってないんだな。じゃあ、ちょい手伝ってくれ」
先生は手招きして歩き出す。
「手伝い? 何を」
「来れば分かる」
と、云って、先生は一人でどこかへ去って行った。
デガラシが口を開く。
「……ついて行った方が良かったのではありませんか」
「私は訳も分からず、云われるままに動いたりしないよ」
「そういえば、五美の様子はどうです? 大丈夫でしょうか」
「知らないよ」
「見守ってください。お願いします」
刃沼はまた、散歩を始めた。
(散歩がてら、様子見)
*
刃沼散歩中。トイレから、苦い顔をして生徒が出てきた。開いた扉の向こうに、五美が壁に追いやられているのを見た。
「入るか」
スタスタとトイレに入る。五美の周りには人相の悪い生徒が3人いた。その生徒は、近づく刃沼を睨みつけた。
五美を良く見れば、髪はグシャグシャに乱れ、床には抜けた髪の毛が散乱していた。また、服の所々、汚くなっていた。そして、カタカタと、わずかに震えていた。
「五美、外に出よう。トイレは長居するもんじゃないよ」
「何、コイツ?」
そばにいる生徒が喋る。無視して刃沼は五美に近づき、服をつかんで引き歩いた。
「ちょ、勝手なことすんなよ」
生徒の一人が刃沼の腕をつかむ。――が、その一瞬、その生徒の首もつかまれた。つかんだのは刃沼の手だった。
「手を離せば、こちらも離すよ」
刃沼は相手の首を、さらにもう少し強くつかみ、絞めつけた。相手の手は、刃沼の腕から離された。と、同時に、刃沼の手も下に降ろされた。
「ひでぇ」
横で唯見ていただけの生徒が呟く。
「じゃ、行こうか」
刃沼は五美を連れてトイレを出た。
*
「で、私はアンタをどこへ連れて行けばいい?」
「うッ……ト……ェ……」
「ふむ」
「ヒト……リで……」
「一人にして、放っておけばいい、と?」
五美は首を傾げつつ、曖昧に頷いた。
「じゃあ、これ持ってて」
刃沼はキーホルダーを渡した。
「?」
「これは防犯ブザー。発信機付きだ」
「ェ……」
「ピンチの時に、それを押したら、そしたら誰か駆けつけてくれるよ。多分」
「……」
五美は怪訝な顔をした。
「それは発信機にもなっていて、位置も把握できる。受信機は、私の他、デガラシと……、それと、信頼できる奴がいたら、順次渡していく。
まぁ、実の所、専用受信機じゃなくても、携帯端末にアプリをインストールすれば、いいだけなんだけどね
」
五美は、渡された発信機付き防犯ブザーを掲げて、尋ねるようにした呟いた。
「ス……うぅっ。すとー、かー……?」
「ストーカーかな。ん、なぜ?」
「う、ぁ……、ット……」
五美はカバンを漁り始める。ノートと筆記用具を取り出して、文字を書き始めた。刃沼に見せるように。
”ストーカーに悪用されませんか?”
「ストーカーにも狙われていたのか」
”ハイ。たぶん さっきの奴らと同じ・・・と思う”
「ふーん。『奴ら』っていうものの全容を知りたいところだね」
「……」
「あとで、五美を苛める奴ら、リストアップしてくれ。今のように紙に、箇条書きに書いて」
「…………」
”OK”
「で、さっきの質問、ストーカーに悪用されないか、だけど。そのときはパスワードを変えて分からなくするよ」
”電波の発信源で、位置がバレル・・・”
「ありふれた電波の周波数帯を使っているからね。携帯電話が氾濫した世の中じゃあ、気にすることないさ」
”?”
「大丈夫ってことだよ」
”!”
「便利だね。今度からは筆記で意思疎通するのがいいかもしれない」
”^_^”
「手話というのもあるよ? 手話なら紙も鉛筆もいらなくなる」
”~_~”
「まぁ私は、五十音の手話しか知らないけれど。……にしても顔文字が上手いね」




