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◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『五美と』
22/57

2015-77NOVEL002


   2




 刃沼が寝て過ごしていると、いつしか授業は終わり、昼休みになっていた。

「そういえば刃沼、昼食はどうするんですか?」

「昼食?」

寝ぼけ眼で聞き返す。

「お昼ご飯、わたしは売店で山菜パンを買ってきますが」

「私はいらない」

「何か、食べた方がいいですよ」

「これがある」

と、刃沼は懐から、ポリ袋に詰まった錠剤の山を取り出した。

「薬……?」

「水なしでも服用できる栄養錠剤」

「はぁ……」

「便利だよ。3度の食事も数秒で済む」

「ん~……」

デガラシは しばし難しい顔をしたものの、何も云わずに売店の方へ歩いて行った。


 昼休み、学校は当然のごとく、お子様の喧騒の真っ只中だった。

「さてと」

刃沼はカバンからヘッドホンを取り出し、装着した。そして、ヘッドホンの先につながる装置の電源を入れた。刃沼の聴覚はBGMで塞がれた。

「耳栓替わり」

 隣では、五美がユラユラと、どこかへ立ち去っていった。


教室では生徒たちが会話する。眠る刃沼の方をチラチラ横目で見ながら。

「体育祭の準備に協力させなくていいのか?」

「でも……、どう云ったらいいの」

教室には生徒がチラホラ見えるだけの人数になった。体育祭への準備の段取りが悪いために、昼休みにも関わらず、作業をせざる得ない・させられている有様だった。

「それに協力してくれなさそうじゃない?」

「いいじゃん。放っとけよ」


   *


 昼休みが終わり、5時間目の時刻が過ぎるも、教室には相変わらず、生徒が少ない。のみならず、皆、何らかの作業をしていた。授業らしいことはしないようだ。

「ふ~ん」

 刃沼が見た所、色つき画用紙に文字を書いたり、のりで貼りつけたりする、何の為の作業か、分からないことをしていた。

(とりあえずは教室に居続ける必要もなさそうだ)

 刃沼は校内を散歩することにした。廊下でも、邪魔になるくらいに人がたむろしつつ、作業をしていたり、お喋りしたりしていた。

(それなりに混沌としている)

 とある広間へ来たとき、掃除中のデガラシを見つけた。

「あ、刃沼」

「もう授業は終わったようだから、先、帰るね」

「ちょっと待ってください。まだ体育祭の準備が終わってません」

「ん? なんだいそれ」

「みんな、体育祭の準備のために作業をしているんです」

「へー」

 そこへ先生が通りかかる。

「おっ、刃沼。今、何やってるんだ?」

「散歩」

「え?」

「……?」

「何の、準備作業をしているんだ?」

「さぁ」

「つまり何もやってないんだな。じゃあ、ちょい手伝ってくれ」

 先生は手招きして歩き出す。

「手伝い? 何を」

「来れば分かる」

と、云って、先生は一人でどこかへ去って行った。

デガラシが口を開く。

「……ついて行った方が良かったのではありませんか」

「私は訳も分からず、云われるままに動いたりしないよ」

「そういえば、五美の様子はどうです? 大丈夫でしょうか」

「知らないよ」

「見守ってください。お願いします」

 刃沼はまた、散歩を始めた。

(散歩がてら、様子見)


   *


 刃沼散歩中。トイレから、苦い顔をして生徒が出てきた。開いた扉の向こうに、五美が壁に追いやられているのを見た。

「入るか」

 スタスタとトイレに入る。五美の周りには人相の悪い生徒が3人いた。その生徒は、近づく刃沼を睨みつけた。

 五美を良く見れば、髪はグシャグシャに乱れ、床には抜けた髪の毛が散乱していた。また、服の所々、汚くなっていた。そして、カタカタと、わずかに震えていた。

「五美、外に出よう。トイレは長居するもんじゃないよ」

「何、コイツ?」

そばにいる生徒が喋る。無視して刃沼は五美に近づき、服をつかんで引き歩いた。

「ちょ、勝手なことすんなよ」

生徒の一人が刃沼の腕をつかむ。――が、その一瞬、その生徒の首もつかまれた。つかんだのは刃沼の手だった。

「手を離せば、こちらも離すよ」

刃沼は相手の首を、さらにもう少し強くつかみ、絞めつけた。相手の手は、刃沼の腕から離された。と、同時に、刃沼の手も下に降ろされた。

「ひでぇ」

横で唯見ていただけの生徒が呟く。

「じゃ、行こうか」

刃沼は五美を連れてトイレを出た。


   *


「で、私はアンタをどこへ連れて行けばいい?」

「うッ……ト……ェ……」

「ふむ」

「ヒト……リで……」

「一人にして、放っておけばいい、と?」

 五美は首を傾げつつ、曖昧に頷いた。

「じゃあ、これ持ってて」

 刃沼はキーホルダーを渡した。

「?」

「これは防犯ブザー。発信機付きだ」

「ェ……」

「ピンチの時に、それを押したら、そしたら誰か駆けつけてくれるよ。多分」

「……」

 五美は怪訝な顔をした。

「それは発信機にもなっていて、位置も把握できる。受信機は、私の他、デガラシと……、それと、信頼できる奴がいたら、順次渡していく。

まぁ、実の所、専用受信機じゃなくても、携帯端末にアプリをインストールすれば、いいだけなんだけどね

 五美は、渡された発信機付き防犯ブザーを掲げて、尋ねるようにした呟いた。

「ス……うぅっ。すとー、かー……?」

「ストーカーかな。ん、なぜ?」

「う、ぁ……、ット……」

 五美はカバンを漁り始める。ノートと筆記用具を取り出して、文字を書き始めた。刃沼に見せるように。

”ストーカーに悪用されませんか?”

「ストーカーにも狙われていたのか」

”ハイ。たぶん さっきの奴らと同じ・・・と思う”

「ふーん。『奴ら』っていうものの全容を知りたいところだね」

「……」

「あとで、五美を苛める奴ら、リストアップしてくれ。今のように紙に、箇条書きに書いて」

「…………」

”OK”

「で、さっきの質問、ストーカーに悪用されないか、だけど。そのときはパスワードを変えて分からなくするよ」

”電波の発信源で、位置がバレル・・・”

「ありふれた電波の周波数帯を使っているからね。携帯電話が氾濫した世の中じゃあ、気にすることないさ」

”?”

「大丈夫ってことだよ」

”!”

「便利だね。今度からは筆記で意思疎通するのがいいかもしれない」

”^_^”

「手話というのもあるよ? 手話なら紙も鉛筆もいらなくなる」

”~_~”

「まぁ私は、五十音の手話しか知らないけれど。……にしても顔文字が上手いね」

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