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◆ボツ文たち  作者: ワイヤー・パンサー
『五美と』
21/57

2015-77NOVEL001

   『五美と』   旧タイトル案:【依然自殺】   第4版



   1


” XX県XX町で13日、中学2年男子生徒(13)が電車にひかれて死亡する事故があった。”

” この生徒が書き込んでいたと思われるブログには、いじめを受け「氏(死)にたい・・・・」とも書かれていた。”

” 校長は、いじめを把握していなかったと言い――”


 刃沼は新聞を読んでいた。

「また、いじめ自殺が起きたらしい。割と近い地域で」

「えっ?」――、刃沼はデガラシに、新聞を放り渡した。

デガラシは、記事を慎重に読み進め、そののち、二 三度、読み直しているようだった。目元が少し潤んでゆく様子が見えた。全くの見ず知らずの他人にも、哀しみの念が生じるらしい。


 刃沼は何となしに、携帯端末からニュースサイトを見ていた。いじめ自殺の話題も数件、見えた。記事を流し読みする。

(暴力も振るわれていたらしい。他の生徒たちは距離をおいていた、か。そうかもしれないな)、などと読みながら刃沼は考えた。

 そして相変わらず、その記事の続きにあるコメント欄には、ありがちな残念なコメントが散見された。”弱い者は死んだ方がいい”、”今ごろ加害者大笑い”、等々……。

 読まなければいいものを、気まぐれに無関係な記事も閲覧し、そしてそのコメント欄も目に入れてしまう。

(どこもかしこも、誹謗中傷コメントだらけだね。

……記事から伝わる凄惨さより、それに対しての残念なコメントの方が、人間の哀しみを感じてしまうこと、私だけではないはず

「そんなもんだよね、今の人間なんて」

「どうしました、刃沼?」

 刃沼はデガラシを見て、そして携帯端末に視線を向ける。

「ニュースサイトですか?」

「うん。だが、見ない方がいい、特にコメント欄は」

「ああ、はい……、分かりました」


   *


 デガラシは学校へ。刃沼も学校生徒のために学校へ――行かずに仕事へ。

「今日も不登校ですか」

「まぁ、そういうことだね」

 二人とも、どこかへ出かけて行った。デガラシは定時に帰宅するが、刃沼の方は、帰りが遅かったり早かったり、バラバラだ。今日の場合は、かなり早い方だった。日が頭上に来る前に、家へ帰っていた。

 デガラシが帰る頃には、刃沼は晩飯を作っていた。そういう気が利く所もある。

 刃沼はテレビを見ていた。片足を引き出しの上に置いて、壁によりかかりつつ寝そべる、ぐだ~っとした姿勢で。

「あの、刃沼」

「?」

 少し改まった風で、デガラシが話を切り出し始めた。

「明日一緒に学校に来てくれますか?」

「明日も仕事が入ってるんだけど」

「そうですか……」

 デガラシは沈黙し、そして立ち去ろうとした。

「うんと……? 話を早々に終えないで。何だい。何があったの?」

 デガラシはゆっくりと思い出すかのように、言葉をつないでいった。

「わたしの知り合い……いいえ友達に、『五美』という子がいるのは知っています……?」

「いいや、初耳だったと思う。私が度忘れしてなければ」

「五美が、その…………。スパッと云ってしまいますと、いじめを受けているようで」

「ちょっと前の事件が、頭をかすめるねぇ」

「そうです。いじめ自殺が起きたばかりですし、それとは関係ないのかもしれませんが、……心配で」

 話は一端途切れる。

「それにしても五美? 名前が? ゴミっていうのは、いい名前じゃないね」

「う~ん……。苛めっ子からは名前をからかわれたりもされてるようです。それと、休み時間になると頻繁に男子トイレに連れて行かれていました」

「あぁ、男子だったんだね。名前がね」

「はい、そうです。名前から間違われることもたまにありますが五美は男子生徒です。

先生にも相談はしているのですが、状況は良くならなくて……。近頃は、ひよっとしますと暴力も振るわれているかもしれなくて……

「ふーん」

「それと……」

 デガラシは、横にあるパソコンを操作した。

「これが、五美のブログです」

「へえへえ……」

 デガラシは席を譲り、刃沼は腰かけ、じっくり画面へ注視した。

そこには色々な苦悩が毎日のように綴られていた。時期が最近に向かってゆくにつれ、ブログの言葉は、もはや言葉にはならなくなってゆく。

「へ~、最近は体育祭の準備をやっているのか、面倒だね。あ、食べてていいよ。私はもうちょっと、見てるから」

 じっと待つ体勢だったデガラシを、夕飯へと促しつつ、刃沼はブログを眺めていた。

(――昔よりはいいのかな。こうして、あらゆる人々の内面が吐露されるメディアがあるということは)


   *


 朝になった。デガラシはいつものように登校する所だった。

「じゃあ、行ってきます。刃沼は今日も仕事でしたね」

「あァ~、今日は私も一緒に行くよ」

「いや、それは嬉しいですが、仕事の方はどうするんですか」

「後回しにするさ」

「大丈夫なんでしょうか」

「平気だよ」

 学校までは徒歩で行った。

「こうして一緒に歩くのも久しぶりですね」

「うん」


   *


 学校へ到着した。

「久しぶりの光景」

「そうでしょうね」

 校門付近を歩いているときから、チラホラこちらを見ては見ぬふりする人々が、たまにはいた。

「で、私は何年何組の教室だっけ?」

「わたしと同じ教室ですよ。こっちです」

「相変わらず――」

「なんでしょう?」

「壁とか床とか、小汚いね」

「まぁ……、もう相当に古い建物ですからね。――ここです」

「校長室?」

「教室です」

「そっか」


 教室の引き戸を開き、中へと入るデガラシ、そして刃沼。クラスの部分部分から、驚きの声だったり、沈黙だったりの反応があった。生徒たちの声が、ない交ぜに響く。

「えっ!? 刃沼!? 嘘!?」

「ウぅッ?!!」

「いや、目を合わすなよ」

「久しぶりだよね」

「恐……」

……

(まだ幼さの残る年代は、状況に過敏なんだろうな)

「席は、どこ?」

と刃沼は聞く。

「ここです。わたしの席の後ろですね」

デガラシは一番後ろの席を示す。が、机の上には雑多に物が置かれていた。

「邪魔だね」

「えっと、そうですね……。それで、わたしの席の隣が五美です」

 斜め前の席に目をやると、伏せ目がちにチラチラ、色々な方向を見ている生徒がいた。

「そう」

 刃沼は机の上の物を、適当にひっくるめて、教壇の上に運び置いた。

 席に戻ってきた刃沼に対し、デガラシは紹介した。

「五美、見て下さい。この人は以前から云っていた、私の友人の刃沼です」

「や」

 刃沼は1文字だけの、あいさつをした。

「ア……ぅ、っと……」

「ン?」

「いや、ぇう……」

「いや?」

「五美は、話すのが苦手なんです」

「なるほど、そのようだ、よろしく」

 五美はペコリと会釈した。淡々とあいさつを交わした。


   *


 古びたレトロなチャイムが鳴り響き、間もなくして教師が入ってきた。

 いくつかの生徒が、刃沼に視線を向けたこともあり、割とすぐ教師は存在に気付いたようだ。

「おお、来てたのか。久しぶりだな」

「うん」

 教師は教壇の上に、山が崩れたかのごとく積もった書類等々に気付く。

「あースマンな。物が邪魔だったか」

「いいよ、別に。これからも普段は欠席してるからね」

「何で、いつも欠席してるの?」、生徒の一人が云う。「おい……」、……。

 少しの間があったのち、教師は出欠を取り始めた。

「ふわぁぁぁっ……」っと、刃沼は欠伸をした。


            2015-7-8   続くのでしょうか?

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