2015-77NOVEL001
『五美と』 旧タイトル案:【依然自殺】 第4版
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” XX県XX町で13日、中学2年男子生徒(13)が電車にひかれて死亡する事故があった。”
” この生徒が書き込んでいたと思われるブログには、いじめを受け「氏(死)にたい・・・・」とも書かれていた。”
” 校長は、いじめを把握していなかったと言い――”
刃沼は新聞を読んでいた。
「また、いじめ自殺が起きたらしい。割と近い地域で」
「えっ?」――、刃沼はデガラシに、新聞を放り渡した。
デガラシは、記事を慎重に読み進め、そののち、二 三度、読み直しているようだった。目元が少し潤んでゆく様子が見えた。全くの見ず知らずの他人にも、哀しみの念が生じるらしい。
刃沼は何となしに、携帯端末からニュースサイトを見ていた。いじめ自殺の話題も数件、見えた。記事を流し読みする。
(暴力も振るわれていたらしい。他の生徒たちは距離をおいていた、か。そうかもしれないな)、などと読みながら刃沼は考えた。
そして相変わらず、その記事の続きにあるコメント欄には、ありがちな残念なコメントが散見された。”弱い者は死んだ方がいい”、”今ごろ加害者大笑い”、等々……。
読まなければいいものを、気まぐれに無関係な記事も閲覧し、そしてそのコメント欄も目に入れてしまう。
(どこもかしこも、誹謗中傷コメントだらけだね。
……記事から伝わる凄惨さより、それに対しての残念なコメントの方が、人間の哀しみを感じてしまうこと、私だけではないはず
)
「そんなもんだよね、今の人間なんて」
「どうしました、刃沼?」
刃沼はデガラシを見て、そして携帯端末に視線を向ける。
「ニュースサイトですか?」
「うん。だが、見ない方がいい、特にコメント欄は」
「ああ、はい……、分かりました」
*
デガラシは学校へ。刃沼も学校生徒のために学校へ――行かずに仕事へ。
「今日も不登校ですか」
「まぁ、そういうことだね」
二人とも、どこかへ出かけて行った。デガラシは定時に帰宅するが、刃沼の方は、帰りが遅かったり早かったり、バラバラだ。今日の場合は、かなり早い方だった。日が頭上に来る前に、家へ帰っていた。
デガラシが帰る頃には、刃沼は晩飯を作っていた。そういう気が利く所もある。
刃沼はテレビを見ていた。片足を引き出しの上に置いて、壁によりかかりつつ寝そべる、ぐだ~っとした姿勢で。
「あの、刃沼」
「?」
少し改まった風で、デガラシが話を切り出し始めた。
「明日一緒に学校に来てくれますか?」
「明日も仕事が入ってるんだけど」
「そうですか……」
デガラシは沈黙し、そして立ち去ろうとした。
「うんと……? 話を早々に終えないで。何だい。何があったの?」
デガラシはゆっくりと思い出すかのように、言葉をつないでいった。
「わたしの知り合い……いいえ友達に、『五美』という子がいるのは知っています……?」
「いいや、初耳だったと思う。私が度忘れしてなければ」
「五美が、その…………。スパッと云ってしまいますと、いじめを受けているようで」
「ちょっと前の事件が、頭をかすめるねぇ」
「そうです。いじめ自殺が起きたばかりですし、それとは関係ないのかもしれませんが、……心配で」
話は一端途切れる。
「それにしても五美? 名前が? ゴミっていうのは、いい名前じゃないね」
「う~ん……。苛めっ子からは名前をからかわれたりもされてるようです。それと、休み時間になると頻繁に男子トイレに連れて行かれていました」
「あぁ、男子だったんだね。名前がね」
「はい、そうです。名前から間違われることもたまにありますが五美は男子生徒です。
先生にも相談はしているのですが、状況は良くならなくて……。近頃は、ひよっとしますと暴力も振るわれているかもしれなくて……
」
「ふーん」
「それと……」
デガラシは、横にあるパソコンを操作した。
「これが、五美のブログです」
「へえへえ……」
デガラシは席を譲り、刃沼は腰かけ、じっくり画面へ注視した。
そこには色々な苦悩が毎日のように綴られていた。時期が最近に向かってゆくにつれ、ブログの言葉は、もはや言葉にはならなくなってゆく。
「へ~、最近は体育祭の準備をやっているのか、面倒だね。あ、食べてていいよ。私はもうちょっと、見てるから」
じっと待つ体勢だったデガラシを、夕飯へと促しつつ、刃沼はブログを眺めていた。
(――昔よりはいいのかな。こうして、あらゆる人々の内面が吐露されるメディアがあるということは)
*
朝になった。デガラシはいつものように登校する所だった。
「じゃあ、行ってきます。刃沼は今日も仕事でしたね」
「あァ~、今日は私も一緒に行くよ」
「いや、それは嬉しいですが、仕事の方はどうするんですか」
「後回しにするさ」
「大丈夫なんでしょうか」
「平気だよ」
学校までは徒歩で行った。
「こうして一緒に歩くのも久しぶりですね」
「うん」
*
学校へ到着した。
「久しぶりの光景」
「そうでしょうね」
校門付近を歩いているときから、チラホラこちらを見ては見ぬふりする人々が、たまにはいた。
「で、私は何年何組の教室だっけ?」
「わたしと同じ教室ですよ。こっちです」
「相変わらず――」
「なんでしょう?」
「壁とか床とか、小汚いね」
「まぁ……、もう相当に古い建物ですからね。――ここです」
「校長室?」
「教室です」
「そっか」
教室の引き戸を開き、中へと入るデガラシ、そして刃沼。クラスの部分部分から、驚きの声だったり、沈黙だったりの反応があった。生徒たちの声が、ない交ぜに響く。
「えっ!? 刃沼!? 嘘!?」
「ウぅッ?!!」
「いや、目を合わすなよ」
「久しぶりだよね」
「恐……」
……
(まだ幼さの残る年代は、状況に過敏なんだろうな)
「席は、どこ?」
と刃沼は聞く。
「ここです。わたしの席の後ろですね」
デガラシは一番後ろの席を示す。が、机の上には雑多に物が置かれていた。
「邪魔だね」
「えっと、そうですね……。それで、わたしの席の隣が五美です」
斜め前の席に目をやると、伏せ目がちにチラチラ、色々な方向を見ている生徒がいた。
「そう」
刃沼は机の上の物を、適当にひっくるめて、教壇の上に運び置いた。
席に戻ってきた刃沼に対し、デガラシは紹介した。
「五美、見て下さい。この人は以前から云っていた、私の友人の刃沼です」
「や」
刃沼は1文字だけの、あいさつをした。
「ア……ぅ、っと……」
「ン?」
「いや、ぇう……」
「いや?」
「五美は、話すのが苦手なんです」
「なるほど、そのようだ、よろしく」
五美はペコリと会釈した。淡々とあいさつを交わした。
*
古びたレトロなチャイムが鳴り響き、間もなくして教師が入ってきた。
いくつかの生徒が、刃沼に視線を向けたこともあり、割とすぐ教師は存在に気付いたようだ。
「おお、来てたのか。久しぶりだな」
「うん」
教師は教壇の上に、山が崩れたかのごとく積もった書類等々に気付く。
「あースマンな。物が邪魔だったか」
「いいよ、別に。これからも普段は欠席してるからね」
「何で、いつも欠席してるの?」、生徒の一人が云う。「おい……」、……。
少しの間があったのち、教師は出欠を取り始めた。
「ふわぁぁぁっ……」っと、刃沼は欠伸をした。
2015-7-8 続くのでしょうか?




