97 囚われの身ってわけなのかな?
クリスマスなので2話連続のプレゼントです
頭が少しはっきりしてきて、目も暗闇に慣れてくると、少しだけ周りの様子が分かる。
私は、大きめのベッドの上にいた。部屋は、色々な調度品が置かれているが、生活雑貨が少なそうで。つまり、寝室だ。
日本的に言えば、1DKではなく、寝室が別に設けられる家3LDKとかそれ以上のお家っていうことだ。
こっちの世界的に言えば、山小屋やマーサさんのような庶民の家じゃなくて、ちょっと裕福かそれ以上の家ってこと。
まず、自分の身なりの確認。
衣服に乱れはない。どこか拘束されているわけでもない。
着替えさせられてもいない。スカートの下に隠し持っている鞄も無事。
連れてこられ方こそ乱暴だったが、乱暴な扱いはされていないらしい。とりあえず、ホッと息をなでおろす。
スカートのポケットに手を突っ込む。実は、これは細工してあって、ポケットの底は抜けている。手はそのままスカートの中の鞄に入れることができるようにしてあるのだ。
だって、鞄の中身を出し入れするのに、いちいちスカートめくりあげてたら変でしょ?なんか、こっちの文化だと足を見せるのってかなりのタブーみたいだし。
携帯を手にしてみたが、少し考えてからそのまま戻した。
携帯の光って、暗い中じゃぁ結構目立つ。今自分がどういう状況にあるか分からないから、下手なことはしないほうが身のためだよね。見張られてるかもしれないし。いつここに人が来るかもしれないし。
さて、どうしようか。このままベッドの上にいても、流石にもう眠くはない。
目が慣れたといっても、知らない場所だ。物の位置とかが分からないので、慎重にベッドから立ち上がる。靴はベッドの左側に置いてあった。
少し光が漏れている場所に足を向けると、案の定窓がある。木戸の内側に、ガラス窓がはまっている。
「金持ちか!」
ガラスがあるなんて、裕福な家の証拠だ。ガラス窓を開け、その外側にある木戸も開ける。
月明かりが、部屋の中よりも明るくて景色がしっかり目に飛び込んできた。
「ちょっと!絶景ポイントじゃない!」
どうやら、小高い山の上に建てられた屋敷の4階くらいの高さの部屋に私はいるようだ。
眼下には森と湖が広がっている。
少し首を出して見回すと、まさに屋敷。豪邸。じゃなくって、城だよ。これだけの規模の大きさの建物!
どっかの貴族様のお住まいに違いない。
領主の家?見える範囲から考えると、伯爵の位があるシャルト家のお屋敷と比べても見劣りはしない。
「兄が、あなたに会いたいと……」と、トゥロンは確かに言っていた。
もし、ここがその兄の家だとすると、貴族の息子?トゥロンが?
でも、トゥロンの話に出てきた妹やお母さんの話はとても貴族という様子ではなかった。どんな料理が得意だとか、庭で何を育てているとか、貴族の生活では考えられないことを聞いている。
もしかして、トゥロンのお兄さんが勤めている貴族のお屋敷なのかな?
トゥロンだって、勤めようと思えばどこかの貴族の専属の兵士とか騎士になれそうだもん。
そうだ、こういうパターンもあるよね?トゥロンのお兄さんは、ある日貴族の騎士になりました。そこの娘と恋に落ちて二人は結婚しました。……ある!トゥロンのお兄さんなら、そこそこの容姿と女性の扱いとに長けてる可能性大だもの!
しかし、どうしてトゥロンは私の意識を奪って連れてくる必要があったんだろう?それが分からない。
もしかして、お兄さんのお嫁さんに見つからないように行動する必要があったとか?仮にも会いたい女性がいるとか、嫉妬深いお嫁さんには耐えられないよね?
と、色々と考えてみたものの、多分どれも違うんだろう。
トゥロンの苦しそうな様子。何かもっと事情がありそうだもん。
現状の扱われ方は、さほどひどいものではないから、事情が分かるまで大人しくするしかない。下手に脱出を試みて痛い目を見るほど考えなしじゃない。
それに、もしなんらか不利益をこうむりそうな状況になったら、アレを使うつもりだ。
確か、トゥロンの説明にあったよね?
身元を保証してくれるっていう話の中に、衣食住ツケで何とかなるってことと、害を成すならば敵とみなすってこと。
呪いのコイン。あれを見せれば、ラト家と吾妻家の顔に免じて見逃してもらえるってことだよね?
まぁ、その前提が、ラト家や吾妻家が役に立つ家柄であればだけど……。
そして、呪いのコインが硬貨を発揮する相手、つまり貴族社会の人であればだけど。
あと、やっぱり私はトゥロンを信用してる。何か事情があってのことだと思ってるし、イザとなれば力になってくれると思ってる。
窓の外が、白んできた。
日が昇る。
今日が始まる。
どんなことが私を待っているのか分からない。
だけど、多分大丈夫。きっと大丈夫。
トゥロンの家族にちょっと挨拶して、竜咆の森に行って、日本への帰り道探して、そして、この世界とさよなら。
日本に帰ったら、そうだ、まず里帰りしよう。おばぁちゃんの顔を見に行くんだ。
それから、就職活動再開。今回の異世界の経験を活かして就職って訳には行かないだろうか?
どこかに「異世界経験者優遇」なんて求人があれば、有利だよね。
あるわけないし。
あったとしたら、どっかの神様が、他の異世界へ飛ばそうと手薬煉引いて待ってるってラノベパターンじゃない?
と、どうでも良いことをつらつら考えて、不安にならないように時間を過ごすうちに、完全に日が昇った。
そして、ドアがノックされ、侍女らしき女性が食事を運んできた。
侍女は、無表情に食事の用意をすると、一言どうぞお召し上がりくださいと声をかけただけで、壁際に控えた。
えーっと、話しかけるなオーラ全開なんだけど。
色々と尋ねちゃだめなのかな?ここは誰のお屋敷ですか?とか、トゥロンはどこですか?とか……
チラっと侍女の表情を伺えば、眉毛一つ動かさずに空を見ている。
……。
うん、とりあえず食事だ。お腹空いてるし、腹が減っては何とやらって言うし。
ペロリと完食すると、すぐさま侍女は皿を下げて部屋を出て行ってしまった。
ああ、話しかけるタイミングが!あんまりお腹が空いていたから、つい食べるのに夢中になりすぎた!
美味しい食事も充分にもらえるし、今のところ毒が入っていた様子もないし。
やっぱり、冷遇はされてない。
いったい、私の立場って何だろう?
何のために、連れてこられたの?トゥロンはどうして、謝ってたの?




