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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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96/303

96 兄妹、そしてもう1人

「日が落ちる前に、戻りましょう」

 トゥロンと2人馬に乗る。

「大丈夫ですか、女神よ?」

「うん、ちょっとびっくりしただけだよ。ごめんね、心配かけて」

 トゥロンが困った顔をする。

 何だろう、グランラでのお祭の後の、あの月の晩からだろうか?トゥロンはよくこの表情をする。

「謝らないでください。私の罪深さに比べれば……」

 罪?

「トゥロンの実家はあと街からどれくらいの距離にあるの?」

 何にしろ、人の秘密を暴くようなことは避けた方が良い。触らぬ神に祟りなしだよ。好奇心は身を滅ぼすとも言うね。

 さらっと話題を変える。

「街から、1日ほどの距離ですよ」

「そうなんだ、もうすぐ家族に会えるね」

 家族に会えることは、喜ばしいことだよね。でも、トゥロンの顔は浮かない。

 沈黙が流れる。

「街に着いたらお別れかな?それとも、明日の朝食は一緒に食べる?夕食は一緒に食べようよ!故郷に『最後の晩餐』っていう有名な絵があってね、」

 沈黙が耐えられなくて、立て続けに言葉を発する。

「女神よ……」

 トゥロンが、馬上で後ろから手綱を持ったままそっと抱きしめた。

「最後にはできない……」

 え?どういうこと?

 混乱していると、トゥロンの手にいつの間にか力が加えられた。

 首が、苦しい……そこ、頚動脈?

 遠のく意識で、トゥロンの謝罪が聞こえた。

「すみません……兄が、あなたに会いたいと……」

 え?

 兄?

 妹じゃなくて、お兄さんが私に会いたいって?

 ……

「お許しください……、女神よ……」

 苦しそうなトゥロンの声。

 駆け出す馬の振動。

 そして、意識を手放した。


 夢を見ていた。

「お兄ちゃん、決めた!やっぱり私、医療系の大学に進学するよ!」

「は?医療系って、医者になるってことか?」

「医療系は医療系でも、私が学びたいのは、東洋医学の方なんだよねぇ。漢方についても知りたいし、鍼灸なんかも知りたい。ああ、もちろん西洋医学の知識も欲しいといえば、欲しいけれど、実践するのはなかなかねぇ」

 受験勉強で分からないところがあるからと、兄に問題集を突きつけながら、妹が頭を抱える。

「実践って、おまえ、まさか……」

 妹は、にまぁっと笑った。

「当然でしょ!同じような考えで農業大学に進学したお兄ちゃんに、止める権利なんてないんだからね!」

 ビシッと妹が人差し指を出す。

「こっちはどうするんだ?皆あっちに行っちゃったら、母さん大変じゃないか?」

「大丈夫じゃない?にーには日本に残るでしょ!」

 妹には農大生の兄の他に、ラノベに夢中な年子の兄がいる。

 日本の文化大好きっ子のにーにが日本を離れる可能性は、確かに低い。

 兄は、そうだなぁと、同意の意を表した。

「しかし、おまえ、こんな問題も解けなくて医療系の大学目指すとか、チャレンジャーだな!」

 兄は問題集に視線を戻して妹に軽口を叩く。

「ま、まだ1年以上あるし……頑張る!」

 仲のよい兄妹の姿だ。

 しかし、容姿は似ているところを探すのが難しいほど違う。

 もう1人いるというにーには、どんな容姿なんだろうか?


 トゥロンに兄がいるという話が頭に残ったのか、不思議な兄弟たちの夢を見ていた。

 幸せそうな家族。


 夢から覚めると、まだ頭がぼんやりとしていた。

 もう、馬上ではないようで、ベッド?それなりに寝心地のよい場所に横になっているようだ。

 暗いのと、頭がぼんやりしているので、視界ははっきりしない。


 何があったんだっけ?

 そうだ。トゥロンに意識を失わされたんだ。


 何故?


 兄が会いたいと言っているとトゥロンは言わなかったか?だから、連れて来られた?だけど、どうして?

 こんな強引な手を使って連れてくるのはトゥロンらしくないよね?

 頼んでくれれば、トゥロンには色々お世話になっているんだから何とかしたのに。

 数日の寄り道くらいなんてことないのに。


 どうしちゃったんだろう、トゥロン……。

 でも、兄がいるなんて今まで一度も言っていなかったよね?妹とお母さんの話しか聞いたことがなかったよ。

 まさか、妹の話は嘘?

 それとも、兄というのが聞き間違い?


 ああ、分からない。

 一つだけ分かることは、トゥロンはきっと苦しんでいるんだろうということ。

 だって、そういう顔してた。そういう声してた。

メリークリスマス

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