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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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92 ふたつの守護されし者の印

 何で、今まですっかり忘れていたんだろう。思いつかなかったんだろう。

 吾妻さんは日本からこの世界へ来た人だよね。それは間違いない。

 ユータさんと同じ。

 何年くらい前にこちらの世界に来たのか分からないけれど、携帯電話の電話の寿命がやばくなるくらい前ということは、結構前であることは間違いない。

『日本へ帰りたいのですが、帰り方を知っていますか?何か知っていれば教えてください。また、どうすれば帰り方を見つけられると思いますか?考えがあれば聞かせてください』

 吾妻さんだって、日本に帰ろうとしたんじゃないかな?

 日本に帰る為にどうすれば良いのか、色々考えたんじゃないかな?

 私は運良く、ユータさんのヒントを見つけることができたけれど、吾妻さんはどうなんだろう?

 吾妻さんと協力したほうが、早く日本に帰れるという可能性もあるんじゃない?

 何で、何で今まで、吾妻ささんに「日本へ帰るための話」を一切しなかったんだろう。

 自分でも、うっかりしすぎだと思う。

 吾妻さんは日本とのつながりを保つために、携帯電話を欲しがったと考えれば、帰りたいと思っているんじゃない?

 メールの返信がすぐに返ってくることは期待せずに、送信ボタンを押してすぐに寝ることにした。

 明日は2時間も山登りをしなければいけないのだ。体力命だからね。


 朝食は、きのこのシチューにパンだった。

 きのこ、美味しい!山道を行くと、たくさんのきのこを目にする。朝食に食べたきのこが美味しかったので、採取したくなる。

 しかし、そこは良識ある大人として我慢。

 だって、きのこだよ!きのこ!

「女神、これは今朝シチューに入っていたきのこですから、食べられますよ?」

 え?

 じーっときのこを眺めていた私に、トゥロンが声をかける。

「これ、食べられるの?そっくりな姿をした何とかもどきとかって毒きのこの可能性はない?」

 私は、あくまで慎重に、きのこと対峙する。

 知ってる?きのこって日本の公園や市街地近くのちょっとした林にだってたくさん生えてるんだよ。何百何千と種類があって、名前が付いていないものも多いんだって。新種発見で即命名とかしないのは不思議だよね。でも、それくらいきのこってまだ分からないことがたくさんあるらしい。そして、きのこは美味しいものもあるけど、その反面猛毒のものもある。腹痛くらいじゃすまないんだよ?一つ食べただけで、内臓不全起こして死んじゃうのもあるんだから。

 暗殺とかにトリカブトとかよく名前出されるけど、きのこ殺人だってしようと思えば絶対可能だと思う。

 で、まさか毒キノコだなんて思いませんでしたとか言えば、完全犯罪成立なんじゃない?怖い怖い。

「大丈夫ですよ。毒キノコで気をつけなければいけないものは、あちらに生えているものと、そちらのものですね。あのきのこも食用ですよ。ただ、味気ないのであまり食べませんが」

 トゥロンは、目に付いたきのこを次々に指差して説明してくれた。

「トゥロンは博識だね。すごい!」

「何をおっしゃる。女神こそ、驚かされてばかりですよ。山登りにも慣れているご様子ですし」

 んー、まぁ、それは山小屋への往復をしていたから鍛えられたというか。日本では山ガールは断念した口なんだけどねぇ。

 山小屋かぁ。

 ラト、どうしてるかな。私が旅に出るというのは理解していたようだけど。

 最後に、ラトとした会話はどんなんだったかな。

 さようならって、言ったかな。

 言ってないね。そうだ。私、最後に何もラトに話しかけられなかった。

 ラトの言葉に、うなづくしかできなかったんだ。

 口を開いたら、涙で震える声が出そうで。

 ラトは、最後まで私のためを思ってくれていた。

「……今はそれしか力になれない……」と、力になれる方法を考えてくれていた。

 あれ?何が力になるんだったかな?

「守護?印?……?」

 思い出そうとつぶやいた私の言葉を、トゥロンが拾った。

「守護されし者の印ですか?」

「ああ、そうそう、確か、そんな名前だ。それって何?お守りみたいなもの?」

「いいえ、お守りというよりは、身分証明書みたいな物と言えばいいでしょうか」

「身分証明書?」

 その単語で思い出すのは、運転免許証や保険証やパスポートなんだけど。ファンタジー小説だとギルドカードとか?

「貴族社会にしか通用していませんから、あまり一般的とはいえませんが……例えば、私が貴族だとしましょう」

 トゥロンの貴族姿を想像してみる。うん、意外と似合うかも!

「そして、トゥロン家の印が刻印された『守護されし者の印』を女神にお渡ししたとします」

 トゥロンは、ポケットからコインを一つ取り出して私の手の上に乗せた。

「女神は、トゥロン家の大切な人だという証です。女神に害を成す者は、トゥロン家を敵に回したことになります。もし、女神が助けを求めるのであれば救ってください。お礼はトゥロン家が必ずいたします……と、まぁそんな具合です」

「つまり、困ったら、貴族の家に言って助けを求めれば助けてくれるってこと?」

「そうですね。例えば、お金が無くて貴族の所へ行って、守護されし者の印を見せればお金が借りられます。返済はトゥロン家が行う約束で」

 そうか、旅先でお金がないとか、宿がないとか、そんな場合でも全然平気なんだ。いわば、ツケで飲み食い宿泊できちゃうってことだね。

 っていうか、そんな便利なもの、ラトから受け取ったっけ?

「それで、守護されし者の印って、どういう形してるの?」

「私も、実物を見たわけではありませんが、少し大きな硬貨のようなものだと聞いています。肌身離さず持ち歩けるよう、ヒモを通す穴が一つ開いていて、表に十字と丸、裏に家紋が彫られているとか」

 ……それって……

「呪いのコイン……」

「え?」

 呪いのコインのことかぁーーーーっ!

 ラト、ちゃんと説明しろよ!貴族社会では常識かもしれないけど、私は全く使い方とか知らなかったんだぞ!

 人に見せるなとかなくしたら大変なことになるとか、禍々しいことばかり伝えおってからに!

 まぁ、確かに、庶民が持ってたら怪しまれそうだし、悪用しようと思えば悪用できそうだからあまり人に見られては困るのは確かだろうけど……。

 ん?ちょっと待てよ、吾妻さんからも貰ったぞ?

 なんで吾妻さんが??

 吾妻さんも貴族社会の一員ってこと?


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