87 ユータさんの置き土産
旅のことを考えすぎて、水戸黄門の夢を見て目覚めた。
ご老体にも旅ができたんだから、大丈夫!と妙に自信が付いた。それから、やっぱり護衛のスケサンカクサンは必要!楽しい旅にするためにはお調子者のハチもいれば完璧だよね!
スケサンカクサンはサマルーとシャルトかな?トゥロンは風車のヤシチ?
ハチは、やっぱりラトだよねー。お腹空いたー!って似合う似合う!
想像して少し楽しくなった。現実には、そんなメンバーで旅することはないだろうけどね。
流石に毎日警邏詰め所周辺をうろつくのも怪しいので、新しい連絡係に顔を見に行くのは明日にした。鞄からノートを取り出して、思いつくままトゥロンに尋ねることをメモる。それからネットで、昔の旅のことについて調べる。水戸黄門じゃないけど、お伊勢参りとか、昔の人だって徒歩で旅してたんだし、何か参考になるようなことがあるかもしれない。
そういえば、万葉集にも旅の様子が垣間見られるような歌があったよね?切り株を踏んで怪我しないように靴履いてねとかいう歌だっけ?もう随分昔に受けた講座「現代に生きる万葉集~恋歌~」で出てきたけど、すっかり忘れたよ。
足を痛めると大変だってことだね。しっかりした靴を用意しよう。
それから、水と食料。1人旅なら鞄から出し入れしちゃえば楽なんだけど、護衛と一緒に旅するならそういうわけにはいかないよね。水筒やら保存食やらそれなりに準備しないと。
考えれば考えるほど、大変だなぁとしか思えない。足りないものはコンビニで買えばいいじゃんって日本の旅行が懐かしい。
そうだ、鞄の中身も充実させておかなくちゃ。非常食とか薬とか増やしておこう。死んでしまったら元も子もないから。
ああ、薬も通販で買えるなんて便利な世の中だよ、ほんと。
それから、今までほぼ手付かずのまま放置していた、小屋の押入れに手をつけることにした。
いっぱい埃出そうだし、虫が出てきたらやだなーと思ってたんだけどさ。ユータさんは旅の達人だったわけだから、旅に便利なものが入ってるかもしれないし。
嵩張ってたのは冬のための毛皮類だった。布団代わりのものや、冬服?そんなに寒くなるのかな?
それから手作りのかんじきっぽいもの、背負子、農作業に使うっぽい手作りの何か。あとは、用途不明のたくさんの品々。
用途不明のもの、ラトに使い方聞いたら分かるかな?ぼっちゃんだしなぁ、わかんない気もするなぁ。
捨てる?いや、でもすごく役に立つものかもしれないし。……そもそも、断舎利苦手だし。
もう一度、押入れに押し込むことに決定しました。ああ、なんだか出してそのまま戻すだけとか、すっごく無駄な労力だった気が。
「あれ?いったいどうやって入ってたんだろう?」
確かにここに入っていたのに、なぜか入らない。あるよね。こんなこと。パズルみたいに上手に入れられていたものを出すと、戻せないという。
「ちょっと入ってよー!」
ぎゅぅっと強引に押し込む。押入れの中でガタンッバリッっていやな音がした。
げっ。壊れた?
押し込もうとしていたものを、取り出し押入れの中をのぞく。
天井の板が割れてずれている。
これくらいなら、大丈夫か?薄暗く様子がよく見えないため、手を伸ばして天井の板に触れる。軽い力で簡単に上に押せる。
「あれ?板が割れたからじゃないよね?天井裏の入り口とかそんな感じ?」
板をそっとずらすと、空間ができた。でも、その手はすぐに天井裏の天井に付く。ほんの10cmほどの隙間しかない。人が入り込めるようないわゆる小屋裏ではなさそう。
「なんでこんな空間?」
板を元に戻そうとずらしたら、何かがばさりと落ちてきた。
ああ、ユータさん。日本との繋がりがある品をここに隠してたんだ。
落ちてきたものは、生徒手帳だった。
開けば、高校生の頃のユータさんの写真。へぇ、こんな顔してたんだ。確かに目じりに泣き黒子があるね。ラト主観で話を聞いてると、ラトより年上だからなのか、随分お兄さんのイメージがあったけど。
そうか、高校生のころにこっちに来たのか。
他に、何かないかな?手探りで隠し空間を探る。
財布が見つかった。お金が少しと、会員カードがいくつか。それから、免許証が出てきた。原付乗ってたんだ?写真はまじめそうだけ。
昭和生まれ。そうか、40歳くらいって言ってたけど、確かに私より年上だな。
「あ、住所と本籍地が違う」
住所は、前にラトから渡されたメモの場所。
だけど、本籍地は熊本になってる。
ちなみに、私は住所は東京のサンコーポ201号室だけど、本籍地は実家の秋田だ。
もしかして……。
ユータさんの実家が、今もこの本籍地にあれば……。
ユータさんに手紙が届くかも。
今度は、期待しすぎない。駄目で元々。
本籍地は必ずし住んでるとか関係のある場所じゃなくてもいいって知ってるし。
ちなみに、一番多く登録されてる本籍地は「東京都千代田区千代田1番」皇居の場所なんだって。子供の本籍地をどうするか悩んでいた友達に色々教えてもらいました。その知識、私はいつ役に立てれるんだろうね?凹。
押入れから出した物をそのままにして、早速手紙を書くことにした。
いや、手紙ではなく、葉書にした。家族にも読んでもらえれば、ユータさんに伝えてもらえるかもしれないから。
そして、もしユータさんが結婚していて、奥さんがいた場合のことも考えて、差出人の名は佐藤梨絵ではなく、佐藤だけにしてみた。
デジカメで、小屋の写真を取り、葉書用紙に印刷。
ユータさんが見れば、この小屋だってすぐに分かるはず。
連絡を取りたい。返事が欲しい。ということを強調した葉書。途中で郵便事故に会うといけないので、念のため写真を変えて3枚作る。
一つには高校の生徒手帳を預かっていますと書き添えておいた。
あ、そうだ。何か宅配便送らないと自宅集荷してもらえないんだった。
というわけで、実家あてにメープルシロップと、まだ大量にある布を送る。仕事で布をもらったので使ってね!と手紙を添えて。
期待しすぎない。
駄目で元々。
再び心の中で唱えて葉書を送り出した。




