83話 おにぎり
さーて、何を作ろうか?うどんを打つような時間はないし。
やっぱり、アレだよね。
お土産にと思って買ってきたコレ!
気分は青いネコ型ロボット。鞄の中からチャラララッチャチャーンと取り出す。
初めちょろちょろ中ぱっぱ~。
塩、塩っと。海苔がないのは残念だけれど、仕方がない。
「よし、完成!」
ばたんと開いたドアから、ラトが一直線に駆け寄ってきた。
「しょうねーーーーん、少年、少年、これは、まさか、幻の……お、お、お、おぎにりぃ~~!!」
ラト、ユータさんから聞いたことあったんだね。だけど、残念。
「おぎにりじゃなくて、おにぎり」
「お、おにりぎ?」
「お、に、ぎ、り」
「食べていいか?いただっきまーす!あ、手、手で持って食べていいんだよな?ユータに教えてもらった」
ラトは両手にがっしりおにぎりをつかみ、手と口の周りに米粒いっぱいつけておにぎりをほうばった。
あっという間に4つ食べた。
「おいしいなぁ。ユータの言っていた通りだ」
5つ目のおにぎりは、ゆっくりと食べていた。
まぁ、ほぼ二日食べてなかったら、何食べてもおいしく感じるだろうと思ったが、それは言わない。あ、おかゆとかもっと胃に優しいものの方が良かったかな?
「でも、これ、えっと、米?ユータがこっちの世界にないからと残念がっていたけれど、どうしたの?」
「旅の途中で見つけたんです」
ラトは、良かったねと小さくつぶやいた。そして、少し間を置いてから口を開いた。
「もし、少年の故郷にあったものが、キュベリアに全部あったら……帰らない?」
ラトの目が、私の眼を遠慮がちにのぞいている。
帰ってもしくない、でも、帰らないでと言わないラト。
私のことを考えて、決してそれだけは口にしない。
「ラトは、僕の故郷に住める?」
私の質問に、ラトは悲しそうな顔をして、残りのおにぎりを口に入れた。
そうなんだ。
何もかも捨てて、別の場所に住むことができる人間もいる。
だけど、どうしてもそれができない人間もいるんだ。
私もラトも根っこにある物がきっと同じ。すべてを捨てられないというところが。
もし、キュベリアがただの遠い外国ならば、行き来しようと思えばできる世界であれば……
私は、どうしただろう?
「ラト、梅干を見つけたら、また食べさせてあげるね」
「梅干!ユータに聞いたことがある。おぎにりには欠かせない、赤い宝石だと!」
くふっ。
梅干を食べてすっぱい顔するラトを想像して楽しくなった。
ユータさんも赤い宝石って、味は教えてあげてないんだ。
「一緒に寝るぞ!」
夜、案の定ラトは泊まっていくと言う。
そこまでは、まぁ、いい。
しかし、何で一緒に寝なくちゃならない!
子供か、お前はぁ~!
「ベッドはここに一つしかないから、当然だろう!」
ドヤ顔やめろーっ。
「いや、僕は小屋に寝るから、ベッドはラトが使っていいよ」
ラトが不満そうな顔をしたが無視無視。
道中馬車の中で、グランラで買った布でクッションカバーを作ったのだ。中に入れる綿みたいなものも購入した。
まぁ、クッションというより、座布団が近いけれど。
残念ながら、布団サイズで作ってしまうと、鞄に出し入れできないので座布団。それを6つ敷き詰めれば、立派な寝床のできあがり!
今度座布団同士を縫い合わよう。それからシーツを用意してかぶせれば完璧だね。幸い、生地だけはたっぷりある。
この世界では、掛け布団はあまりない。布をかけているだけ。寒くなったら、毛皮をかぶるんだそうだ。小屋の押入れの中に、つぎはぎの毛皮があったのは、ラグじゃなくて冬用の掛け布団代わりだったらしい。押入れの中の物、ほとんど触ってないけど……毛皮は出せば使えるのかなぁ?虫とか臭いとか大丈夫かな?
そうだなぁ、旅に出るとなると、冬の装備のことも考えないとだめなんだよねぇ。
そういえば、ガンツ王が、雪に閉ざされるとかなんとか言ってた。場所によっては移動も困難な様子になるんだろう。なんとかその前にどこか一箇所は調べたいな。
ユータさんが残した地図を取り出して見る。
やっぱり、サパーシュ領だよね。人がいなくなるという噂の場所であり、ユータさんが最後に旅すると言い残した場所。
隣国トリニープの手前に接する場所。ユータさんの残した地図が、日本のそれと同じように、上が北で下が南だとすれば、キュベリアの南だ。冬が来るのが遅い、もしくは雪に閉ざされなければいいのだけれど。
ユータさんの地図を鞄に戻し、代わりに携帯を取り出す。
メールチェックをしても、吾妻さんからのメールはなし。
おいおい。ますます怪しいですな?何処に住んでいるのかそんなに内緒にしたい?それとも単にメール不精に逆戻りしただけ?
『吾妻さんは、こちらの世界について詳しいですか?国によっての気候の差はありますか?トリニープはグランラに比べて寒いですか?温かいですか?日本で言えば、どのあたりの気候ですか?』
返信はあまり当てにせずに送信。
「うわっ」
びっくり。速攻で返信メールが帰ってきた。
『やめておけ』
短っ!
吾妻さんはやっぱ基本的に短いメールを好むのだろうか。
続けて、もう一通メールが届く。
『トリニープに行くつもりなら、やめておけ!』
暫く、携帯を持って待機。しかし、続きのメールが届くことは無かった。
何で、トリニープに行っちゃ駄目なんだろうか?
吾妻さんが住んでる場所?そんなに、近づいて欲しくないのかな?




