72 折り紙
「昨日は、とても感動した」
大広間での謁見ではなく、会議室のような部屋での会談。
円卓の奥中央がガンツ王。その周りに政府を支える要人が座っている。顔つきが、凡人と違うのよねぇ。鋭い。笑っていても迫力がある。その中には、どうも武人っぽい体つきの人もいるので将軍とかそういう地位の人だろうか?
1人ずつ紹介はされなかったが、中枢を担う人たちと思われる。総勢、ガンツ王を含み9名。
ドアに近い方にキュベリアの面々。こちらも総勢9名。なぜか、中央は私。ガンツ王の正面だよーっ。
私の両サイドにサマルーとシャルト。なんだかこの配置おかしくない?私は使節団の中でも一番下っ端の庶民のはず!
それとも、女性は私1人なのでレディーファーストとでもいうんだろうか?
壁際には、幾人もの人が立っている。警護や侍女や席には座れない官僚たち。
「あれほど美しいものはそう見られるものではない。チュリなど、子供達にも見せたいと、上の子2人を起こしに行ったくらいだ。もちろん、子供達も大喜びだった。礼を言うぞ。リエス殿」
「ありがとうございます。ですが、私の力ではありません。王都の皆さんが、昼夜問わず寝る間も惜しんで準備した成果です。とても手際よく作業を分担して、それはもう、驚くほどでした。すばらしい人たちですね」
国民を褒められたことが嬉しいのか、ガンツ王の表情はにこやかなものだ。
「キュベリアの者にもお礼を言う。潤沢な資金を提供してくださったそうだな」
サマルーが代表して返答をする。
「急なことで、資金を提供するくらいしかお祝いに参加できませんで、お恥ずかしい限りです」
「いやいや、助かった。予を祝うために生活が脅かされるのであれば本末転倒というものだ。キュベリアの資金があったからこそ、この冬の薪の確保も安泰だと聞いている」
国民は王を思いやり、王は国民を思いやる。うわー、いいわぁ。やっぱりこの国。最高だね!
私利私欲って言葉に触れた覚えがないよ。うん、業突く張りな貴族とかいないんだろうか?いやいや、いるだろうなぁ。チュリ様の顔見せ会の後の集まりにも、なんかそれっぽい狸がいたように思う。
ガンツ王の脇を固める人物達を見る。
いい部下に恵まれてるんだろうな。
それにしても、これだけ国民のことを考えるガンツ王は、同盟のことを遠ざけるようなことを言っているんだろう?
西のアウナスに攻め込まれたときに一番被害を受けるのは国民なのに。
もしかして、攻め込まれたときの対策がしてある?
それとも、攻め込まれないような対策がある?
……まさか、アウナスとすでに密約が交わされているとか?
指先が冷える。
もしそうなら、今私達がしていることは無駄どころか、動きがアウナスにも筒抜けになるというマイナス行為だよね。
「ところで、リエス、この紙というものだが……」
ああ、駄目。今は考えている暇はない。
この場を乗り切ることに集中しなければ。
「この製法を、何処で覚えたのだ?キュベリアの特産品というわけでもなかろう?」
ガンツ王の目が一段鋭くなる。
キュベリア国内の色々な情報は常に入手しているのだろう。密偵やらスパイやらそういう類の人もいるに違いない。
キュベリアに紙というものが存在していれば、すでに聞き及んでいるという自信がガンツ王の言葉から読み取れる。
サマルーは無表情を貫いているが、キュベリア陣営には冷や汗を隠しきれて居ない者もいる。
「もし、秘密裏にキュベリアで生産されているのであれば、それはそれで驚きだが」
うはー。何でもお見通しだぞっと言われてるよ。情報収集力によっぽどの自信があるんだ。
ちょっとは見習うのだ、キュベリア陣営よ!
サマルーを見れば、まだ無表情を貫き、口を開こうとしない。
えー、もしかして、私に丸投げ?
「お気づきでしょうか?リエスの言葉は、我々キュベリアの者と少しイントネーションが違うということに?実は、リエスの故郷はキュベリアではございません」
シャルトが堂々と発言する。
「ほう、なるほど。リエスの故郷の技術?何故、今までキュベリアに伝わっていない?これほどの技術が……」
これほどの技術、か。
ガンツ王は、どこまで紙の有益性を感じているのだろうか。
王都で作られた紙を、テーブルの上に何枚か重ねて置く。
1枚を手に取り、紙飛行機を折る。
「これは、紙飛行機です。飛ばして遊びます」
ガンツ王の居ない場所に向かって飛ばして見せる。
次に、紙を正方形に切り、折り紙の風船を作って見せる。
空気を入れて膨らませて、手の上でぽんぽんと跳ねさせる。
「これは紙風船といいます」
そして、次にかぶとを作って頭の上にのせる。紙が小さいから、上にちょこんと乗るだけ。
「これは紙かぶとです。大きな紙を使えば、かぶることができます」
次々と、紙を折っていく姿に感心したような視線が集まっている。
「故郷では、子供のおもちゃでした。キュベリアでは周りに子供もいなかったので披露する機会がありませんでした」
ガンツ王は、部下に手渡された紙飛行機を、初めてにしてはとても上手に飛ばした。
「子供のおもちゃ……か」
ガンツ王は、おかしそうに笑い出した。
「くっ、くっ、くっ。確かに、坊主が喜びそうだ!リエス、後で作り方を教えてくれるか?」
「ええ、もちろんです」
「リエスの故郷は平和か?」
「そうですね。小さな島国ですから……」
嘘じゃない。日本は小さな島国だ。戦争も、もう何世代か前の出来事になっている。
わざわざ、細かく説明することはない。ほんの断片を垣間見せれば、聡いガンツ王のことだ。勝手に都合の良いように解釈してくれるだろう。
紙という技術を子供のおもちゃに利用することしか思いつかない国と思われれば、そりゃ平和だと思われるよね。
実際は、受験戦争とか別の戦争があって大変ちゃぁ大変なんだけど。あ、今はゆとり教育とかであんまり受験戦争もないんだっけ?
「そうか……平和が一番だな」
ガンツ王がしみじみと感想を述べる。
えーっと、紙の技術をキュベリアに伝えてないことの疑問はこれで解決したのかな?
「この紙を見た時に、まさか子供のおもちゃだとは、到底考えもしなかった。愚かしいな。シャルト殿はどうだ?」
ガンツ王が、シャルトを指名した。どういうことだろう?将来、人の上に立つ立場ということで、だろうか?




