68 ガンツ王とチュリ様の顔見せ
「で、では早速、部屋に戻って領主の勉強を……」
シャルトが、握っていた手を慌てて離した。
「ま、待ってシャルト!祝賀会は?」
勉強って言った?まじめなシャルトらしい。
「あ、そうでした、勉強は祝賀会が終わってからですね」
何?本当に忘れてたの?
ぷっ、くすくすっ。思わず笑ってしまうと、シャルトも笑った。
「ねぇ、シャルトはガンツ王のことをどう思う?賢王?愚王?」
シャルトがびっくりした顔をしている。そりゃそうだ。そんな質問して愚王だと答えるわけにもいかないだろう。
「私の言葉は訛っているでしょう?キュベリアに生まれたわけじゃないからね」
シャルトの返事を待たずに言葉を続ける。シャルトは、終着点の見えない話を途中でさえぎるわけでなく聞いてくれる。
「別の国の生まれだから、他の人よりも多くのことを見聞きして経験してるの。だから人よりも少しだけ色々知ってる。それが運良く使節団の役に立つこともあっただけ。もし、シャルトが私のことを評価してくれているのなら……」
アドバイスなんて生意気かなと思ったけれど、亀の甲より年の功だよね?
「色々と見て考えるるといいよ。百聞は一見にしかずって言葉があるの。誰かの言葉で100回聞くよりも、見た方が何倍もいっぱい知ることができる。せっかく、使節団という名目で色々な場所に行くことができるんだから、いっぱい見たらいいよ。そして、シャルトなら見るだけじゃなくて考えることもできるよね?ガンツ王を見て、賢王か愚王か考える。賢王であれば、何が、どこが、どういうところが賢いのか。愚王であれば、どこを直すべきなのか。王だけじゃない。各地の領主や街の様子を見ても色々考えることがあると思う」
「……なるほど。人に教わるばかりが勉強ではありませんね、今このときもまさに学んでいるということですね?」
「そうです、リエス先生と呼んでください」
ぷっと、2人で笑う。
シャルトは、人の言葉がきちんと聴ける。だから、絶対に成長する。人の話を聞けない人間が一番成長しないんだよ。聞けないどころか、せっかく教えてくれている人をうざいと邪険にする人さえいる。
昔の派遣先の新入社員はひどい子たちだった。せっかく指導してくれている先輩社員を影で「枯れバァ」と罵るだけでまともに仕事ができないんだから。あんな子達が正社員で、私は派遣社員にしかなれなくてどれだけ悔しかったことか!
「先生、他に僕にできることはありませんか?」
いつもまじめなシャルトのちょっとおどけた様子がかわいい。ギャップ萌えってこういうのいうんじゃない?!
「ふふふっ。じゃぁ、宿題を出します。グランラ王都にあれだけ緑が多いのは何故でしょう?グランラを出立するまでに答えを見つけてください」
「はい!先生!」
2人で声を立てて笑っていると、サマルーとアジージョが帰ってきた。
サマルーの目が、シャルトの胸元の薔薇に釘付けになる。
「シャルト、いいですね。とてもすばらしい」
顎に手をあてべた褒め。
「サマルーもいりますか?まだありますよ?」
あんまり褒めるものだから、欲しいのかな?と思ったんだけど、サマルーは残念な子を見るような目で私を見た。
「いいえ、必要ありません……」
そして、シャルトの肩をぽんと叩いた。その後ろでアジージョが深い溜息をつく。
シャルトは苦笑い一つして「さぁ、行きましょうか」と足を進める。
「リエス様、ネックレスお似合いですよ」
アジージョは私の姿を最終チェックして送り出してくれた。
お城への移動の間にも、城前広場の人だかりが見えた。すごい人の数と熱気。武道館コンサートもコミックマーケットも比較にならない。まだ、お顔見せまでには1時間以上あるだろうに。お城からかなり離れた場所まで人の波は続いている。とても、お2人の顔が見えるような場所には思えないけれど、この時間を共有することができるだけでも幸せなのかな?
祝賀会までは、城の中でお茶をいただく。他にもグランラの貴族達多くの招待客がいるようだが、チュリ様のお顔が拝見できるということでそわそわしている。
国民への顔見せが始まったのは、地鳴りのような歓声で伝わった。
人の歓声が、空気を振るわせる。圧倒的な迫力に身震いがした。
「すごい……ですね」
シャルトやサマルーも絶句している。
窓から外の様子を見れば、先ほど馬車で通ったときよりも人が集まっている。今もどんどん集まっているようだ。とても王都の人だけとは思えない。近隣の街からも集まっているのだろう。
「これほど、国民に慕われているのか、ガンツ王は……」
サマルーも窓の外を見ていた。
「キュベリア王家も国民に愛されているが、顔を見せるというだけでこれだけの人が集まるだろうか?」
「……退屈王という噂に振り回されて、我々は大切なことを見落としていたのかもしれない……」
シャルトが、物事を見極めようとこの事態を見ている。
「賢王……か……」
シャルトは、王との面会時に姿があった人物を探して様子を見ている。面会時に居た人物は政治になんらか携わっている人物だろう。早速、シャルトは色々と考えて行動を始めている。
2年といわず、もっと早くにシャルトは大物になるかもしれない。
顔見せが終わるっても、国民の熱狂はしばらく続いた。しかし、夜のお祝いの準備もあるためある程度で落ち着き徐々に帰り始めていった。
祝賀会には、多くのグランラ貴族が参加していたため、キュベリア使節団がガンツ王やチュリ様と直接話をするような機会は無いようだった。一度、化粧直しに退室するため席を立ったチュリ様と目があった。
とても満足げな顔をしていた。
うん、チュリ様のお顔を見た貴族たちの反応はとても好意的なものが多かったもんね。
そして、貴族たちの間にメイクの話題が出なかったので、やはりチュリ様の侍女達はメイク技術を秘匿することにしたらしい。
キュベリアでは、私のしたメイクの話があっという間に広がっていてびっくりしたもの。貴族の伝達能力恐ろしい。




