67 シャルト、男になる
タイトル詐欺?
3往復目の右往左往の時、シャルトが戻ってきた。
「リエスさん、後ろを向いてください」
言われるままにシャルトに背中を見せる。
すると、すぐにシャルトの手が後ろから伸び、首元にひんやりと何かが当たる感触が。
「え?」
そっと、感触のしたところに手を置けば、ネックレスと思われる物が。
首の後ろにシャルトの震える手があたる。
ドキンッ。
昨日サマルーに聞いた話を思い出して思わず胸が鳴った。
初夜を迎える男女。
シャルトにその気はないと知っているけれど、思わず想像して赤面する。
ぎゃーっ。私、ムッツリだわぁ!
年下のイケメン君にネックレスをつけてもらうって、なかなか体験できるものじゃないよね?役得?役得?
ドキドキしてきた感情をごまかすために、思考が飛ぶ。
独身アラフォーの先輩が、ジャニーヅの追っかけを始めたのを若い頃は全然理解できなかった。年下のアイドルの追っかけするくらいなら、恋人の1人も探せばいいのにって思ったものだ。
でもね、自分が歳を重ねると、その先輩の気持ちが分からないでもないのよ!恋愛対象とか関係なく、アイドル見てドキドキキュンキュンするのもいいかなーって。
ちょうど、今みたいに。別にシャルトとどうこうなろうって気があるわけじゃないけど、ちょっとトキメクのもいいかな。……ホスト倶楽部に通うとこんな感じなんだろうか?
「似合いますよ」
シャルトの言葉にハッとして顔を上げる。
視線を上げた先には、鏡があった。ネックレスをした私と、その後ろで優しそうに微笑むシャルトの姿が映っている。
「これは……」
昨日の商人が見せてくれたネックレスの一つに似ている。
「受け取ってください」
鏡に写ったシャルトの顔が真剣そのものだ。
「僕は、リエスさんのことが……」
鏡越しに目が合う。シャルトの思いつめたような表情に、私の戸惑ったような顔。
受け取る理由がないと、ネックレスを簡単に突っ返せるような雰囲気ではない。
シャルトが小さく首を振り、私の髪に刺してあった薔薇の髪飾りを一つ手に取る。
「一つ、いただいてもいいですか?」
「……ええ、もちろん」
シャルトは、私の横に立ち鏡に映る姿を見ながら、薔薇の簪を胸元のポケットに挿した。
まるで、ブートニアみたいだと思うと少しドキドキした。
「薔薇は、まさにリエスさんの花ですね」
「え?そうですか?」
私、そんなに華やかな容姿してないと思うんだけどなぁ
「初めて会ったときも、薔薇のドレスを着ていました」
ああ、そうか。シャルトの誕生日会も薔薇のついたドレスだったね。だから私に薔薇のイメージが付いちゃったのか。こちらの世界のドレスは花のモチーフをくっつけたりしてないものね。フリルやレースやドレープやリボンの飾りばかりだもの。
「あの時、僕は変わったんです。それまでの僕は、何に対しても真剣になれずに投げやりでした。結婚に対してもそうです。適当に釣り合いが取れる相手であればいいと思っていました」
あー、うん。分からなくも無いよ。貴族って政略結婚とか多そうだもん。
それにさ……
結婚したい!がピークの時って、結婚自体が大切で相手は二の次に思うことあるよね?29歳で、周りの友達が次々結婚するときなんてまさにそう!
アラフォーなめんなぁ!そんな29歳を乗り越えれば取り付かれたような結婚したい病も少し落ち着くぞ!33歳越えたあたりからはまた別のステージに突入だ!
話がそれた。
「投げやりで、やる気がなくて、人任せで、人のせいにすることも多くて、少し自分に不都合があればどうせ僕なんかと自暴自棄になり……ピッチェ使節団の時もそうでした。リエスさんが居なければ僕はまるっきり役立たずで……」
シャルトの手が、私の手に触れた。
そっと手を持ち上げられ、優しく握られる。シャルトの手の平は暖かくて、指先は冷たい。
「でも、リエスさんに言われて、僕は変わった。いや、変わろうと思ったんです。今回のキュベリア使節団でも、僕は役に立っていると思えません。だけど、自暴自棄にならない。他に僕にできることは無いかと考えることだけは放棄しない。そう思ったんです」
握られた手と反対の手で、シャルトの手を包み込む。そして、そっと力を入れる。
「うん……」
偉いね。まだ、シャルトの誕生日会から少ししか立ってないよ?数ヶ月の間にそこまで、考え方を変えられるのは偉いと思う。
「だけど、リエスさんのようにはなれない……リエスさんのように臨機応変に、苦難に立ち向かうなんて、まねできない」
あれか?ガンツ王の不興を買いそうになったときのことかな?あの時は苦難に立ち向かうというか、とにかく必死で取り繕っただけなんだよね。
それに、臨機応変って言うのはさ、やっぱり……
「シャルトさん、私とあなたでは、今まで経験してきたことが違います。きっと、シャルトさんが想像もできないほど、私は色々な経験をつんできました」
だって、10歳も年上なんだぞー。アラフォーだし。凹。
派遣社員でコロコロ仕事も変わったんだぞー!凹凹。役に立たない習い事もたくさん……
「それから、私のようにといいますが、私は私です。シャルトはシャルトですよ?私にはない良いところがたくさんあります。そして、私にはできないこともたくさんできると思います。いいえ、これから、多くのことを成し遂げると思います」
「僕が、リエスさんにできないことを成し遂げる?」
シャルトの目を見て、静かにうなずいた。
「シャルトさんは将来セバウマ領主となりますね?領主には領主にしかできないことがあるはずです。あなたは私になる必要などないのです。立派な領主になる、それがあなたの使命です」
上に立つものが立派じゃないと、下のものが不幸になる。これは、この世界でも日本でも違わない。
「私は、シャルトさんは立派な領主になれると信じています。今、過去の自分を反省し成長しようとあがいているシャルトさんなら、きっとなれます」
シャルトは胸を疲れたような顔を見せ、そして私の手を力強く握った。
「リエスさんが信じてくれる……それだけで、力が湧いてきます。立派な領主になれるか不安はありますが、ですが誓います。僕は、できうる限りの努力をすると」
「ありがとう。セバウマ領民に代わってお礼を言わせて。嬉しい。本当に嬉しい」
きっとこの世界は、領主の質一つで庶民は生活が変わる。どうか、飢えて亡くなる人が1人でも少なくなりますように。
「リエスさん、3年……いえ、2年待ってください。2年でリエスさんが認めるような男になってみせます!」
2年後のシャルトを想像してみた。甘ちゃんのぼんぼんっぽさが抜けたシャルト。
唯でさえイケメンなのに、信念を宿した瞳と自信に満ち溢れた顔。いい男になるね。
ああ、私があと10歳……いやせめて5歳若ければ……。おっとっと。




