61 もじもじ
とりあえず、一つ目のテーブルで気になった生地を3つ選ぶ。
ガンツ王に似合いそうな深緑色の生地。チュリ様に似合いそうな、若草色の生地と、桜色の生地。
まずはキープということにしてもらう。他の店を見てから、最終判断を下すつもり。買い物の基本だよね。
二つ目のテーブルに移動する。
こちらの店では、金貨5枚~金貨300枚までの生地がそろえられていた。うはっ。さらに高価だし!
こちらでも3つ選ぶ。
三つ目のテーブル同じように値段の質問したら、お手ごろな布として、テーブルの下、テーブルクロスで隠れていた場所から幾つかの反物を取り出した。
「今回は必要ないかとも思いましたが、慌てて荷造りをしたために紛れ込んでしまったようで……」
という、言い訳をつけて見せてくれた。
金貨1枚か、それ以下の布。
「ああ、なるほど」
サマルーの言っていた意味が分かった。流石に、これは私でも違いが分かる。布目がばらばら、ところどころとんでる、染め方がむらむら。そして、基本的に、布目が荒い。糸と、織る回数の節約した感じだ。
スカスカで向こうが透けて見える布は特に格安だった。でも、夏場は涼しそうでいいよねーと思う。ストールにしたらいい感じだぞ?それに、ふわふわっとしてくしゅくしゅっとしてドレスにくっつけたらかわいいよね?ふんわりした感じがチュリ様っぽい。でも流石に、ドレスの形になっていればいいけど、生地だけ贈るには、「安物の布を贈って侮辱する気か!」と怒られても困るので
それから、現代日本では「むら染め」ってわざとむらを出して染めてる布もあるから、このむらむらもかわいくていいよ?
そうだ。これ、マーサさんとルーカのお土産にしよう!絶対に、この布で作ったふわくしゅドレスはかわいいよ!デザイン含みでプレゼントすればいいよね。うん。仕立てはルーカにしてもらうけどね。
「えーっと、コレと、コレと、コレと、」
私が、安物の布も手にしたものだから、シャルトとサマルーが青ざめる。商人さんは一瞬たりとも表情を変えない。
お、この店の商人さんのポーカーフェースは完璧ですな!
「あ、こちらの布は私個人でお土産として購入したいんですけれど、譲ってもらえますか?」
「ああ、そうでしたか。もちろんです。まとめてお買いいただければ、その分値引きもさせていただきますよ」
つまり、お后様への贈り物用を買ってくれというわけですな。商売上手だね!もしかしてこの安物の生地も、紛れ込んだんじゃなくてあえて持ってきてる?
全部で10のテーブルを回った頃には、すでに2時間は経過していた。
「どれくらいの量を贈るんですか?」
各テーブルで3~5の生地を候補に上げている。
「そうですね、最低でも10は欲しいですね」
「では、各テーブルから最終的に2つずつ選びます。それで合計20です。多すぎますか?」
サマルーはにやりと笑った。
「いいえ、ちょうどいいでしょう」
最低でも10というのは、各店から一つずつという意味で間違ってないようだ。王家御用達とか、そういうのって店同士の確執とかありそうだもんね。下手にグランラ領内の力関係崩すようなことしちゃまずいわけで。だから、どの店からも平等にって大切だよね。うん。
アラフォーなめんな!伊達にいろんな会社で派遣として働いてたわけじゃないんだよ!取引先とのこういう微妙な気の使い方も学習済みさ!
あれ?でも待てよ?安い布で、私個人の買い物とはいえ、一つの店だけ余分に買うとまずいかな?
仕方がない。他の店でも金貨1枚ほどで買える布があれば買うことにした。結果、お土産にしては量が多くなった。
布選びの次は、宝石選び。布ほど品が嵩張らないので、宝石商は居間に集まっていた。
現代日本だとジェラルミンケースをパカッと開いて宝石を見せるイメージだが、こちらも変わらないようだ。7人ほどの宝石商が、木や革でできたカバンを抱えている。
私とシャルトとサマルーはソファに腰掛ける。商人が順にテーブルにカバンを置いて中を見せる。
庶民の私に宝石の良し悪しが分かるかって?
アラフォーなめんなぁ!
結婚情報誌に、エンゲージリング選び特集は必須。記事を読み漁り、目を肥やすためと宝石売り場に足を運んだ日々で培った鑑定眼!値札見なくても、一桁値段か二桁値段か三桁値段か分かるようになったさ!買う予定も、買ってもらう予定もなかったけどね!凹。
チュリ様には桜色のかわいい宝石がいいかなぁー。
エメラルドもいいなぁ。
「リエスさんは、どんな宝石が好きなんですか?」
あまりに真剣に宝石を見比べていたので、シャルトに宝石好きと思われたかな?
っていうか、女性の大半は宝石好きでしょ!興味がない様子の女だって、目の前にキラキラの宝石並べられたら、うきうきしない?
独り身アラフォーともなれば、クリスマスや誕生日に「自分へのプレゼント(はぁと)」って一度くらい考えたことあるっしょ?ね、クリスマスや誕生日の寂しさをごまかすために……凹。
若い頃は、ルビーやガーネットなんかの赤い石が好きだったなぁ。
不透明な宝石なんて、宝石じゃないじゃんとかも思ってた。でも、今は真珠っていいなぁって思う。
ダイヤはもちろん良いと思うし、サファイヤやラピスラズリの青い石も良い。
しかし、未だに猫目石の魅力は分からない。
「私は、どれも好きですよ~(猫目石以外は)」
宝石から目をそらさずに答える。
「そうですか、リエスさんにはどれも似合いそうですよね。リエスさんは、どんなアクセサリーが好きなんですか?」
アクセサリーか、そういえば宝石はどのように加工されるんだろうか?それによっても選ぶものが変わってくる。
「えーっと、私あまりアクセサリーを持っていないのですが、どんな種類があるんですか?」
今度はシャルトの顔を見て質問する。
「そうですね、指輪やネックレスやブレスレットや髪飾りが多いでしょうか?リエスさんなら、何でも似合うと思います。あの、よ、よろしければ、僕にプレゼントさせて、もらえないかな?」
「プレゼントですか?私に?」
ひゃー。男性からアクセサリーのプレゼントなんて、何年ぶり?
思わず顔を赤くする。
いや、待って、待って、もしかしてドレスを着たときにアクセサリーの一つも身につけてないってみっともなかった?
一国の王の前に出るのにふさわしくなかった?それでシャルトがプレゼントを?
だとしたら、プレゼントを断るのも無粋?でも、宝石~!欲しい欲しい~!!って言えるような性格じゃないんだけど。
返事を言いよどんでもじもじする。
シャルトも私につられたのか、妙にもじもじしている。




