62 もじもじ2
「よろしければ、こちらをご覧ください」
商機を逃すまいとする商人が、ソファの前にいる商人に横入りするような形で持っていたカバンを広げた。
目の前にいた商人はむっとした表情をしたが、私達の前で喧嘩するわけにもいかないのでぐっと口の端を締めた。
「私どもは、宝石の価値をより高める加工を得意としておりまして、今回はこのように加工したものもお持ちいたしております」
横入りした商人が開いたカバンには、指輪やネックレスなどのアクセサリーが入っていた。
この世界の加工技術がどれくらいのものなのか分かるのでありがたい。まぁ、横入りは褒められたものじゃないが。
どうやら、チェーンの加工技術は無いようだ。もしくは、小さなわっかをつなぎ合わせていくのが高度な技術が必要で普及していないだけかもしれない。
ネックレスやブレスレットなど、チェーンは使わずに、ビーズアクセサリのように小さな石をつないで輪にしている。凝ったものは、金などの金属で作られた小さなモチーフをつなぎ合わせている。そのところどころに宝石が埋め込まれているのだ。
指輪は、一点豪華主義のデザインが主流。
良く、日本の通販番組で「なんとダイヤが26個、合計0.5カラットも使用して1万円!」っていう、小さなダイヤを寄せ集めて作っているようなものはない。小さなダイヤを一つずつ、台に取り付ける方が大変なんだろうね。きっと。
見慣れない形のものもあった。金でできた2㎝くらいの蝶のモチーフを幾つもつなぎ合わせ、蝶の羽根に色とりどりの宝石を配置してある品だ。手の平の半分くらいの大きさで、三角形になっている。
「あの、これはどのように身に付けるのですか?」
質問をすると、すかさず商人が、品を手に取る。
「流石は、御目が高い!こちらは南方の方のアクセサリーでして、このように、身に付けるのでございますよ」
そう言って、私の手を取ると、アクセサリーを器用にはめた。
中指と、手首に止め具がついている。
「手甲……」
手甲って書くと忍者みたいだけど。ベリーダンス踊る人や、南米のお守りとかにあったと思う。
「リエスさん、似合いますよ。気に入りましたか?」
シャルトがニコニコ顔で話しかけてくる。
「私にはちょっと派手じゃないですか?でも、チュリ様が、国民の前に立ち手を振る場面ではいいかもしれません。光を受けて、手を振るとキラキラ光るのであれば、遠くの人にもチュリ様が手を振っているのがよく分かるのではないでしょうか?」
「リエスさん、これもつけて見てください。似合いますよ」
シャルトがネックレスを手に取る。
つけてみるだけならいいかな?と、ネックレスのかわいさに本来の目的を忘れ……だ、だって、こんな機会そうないよ?
私は、シャルトに背を向けて、髪を持ち上げた。
「リ、リエスさん……」
焦ったシャルトの声。振り返ると、ネックレスを片手におろおろしてる。
「あ、ごめんなさい、つけてくださるのかと、勘違いしちゃいました……」
やばぁい!何、当然つけてくれるんだよね的な行動しちゃったんだろう?男性の、それも貴族にネックレスを付けさすなんて、ありえないよね。
さっき、商人が何の躊躇もなく私の手に手甲を付けてくれたから、その延長で、つけてもらうのが当然って気になってたよ!
「いえ、いえ、是非、あの、僕でよろしければ、つけます」
シャルトがそう言うし、今更かたくなに拒否するのもアレなので、もう一度髪を上げて背中をシャルトに見せる。
シャルトが、首の後ろでとめ具をはめようとしてくれる。首筋に当たる手が、微かに震えている。
うわー、本当に、何か、申し訳ないわ。ネックレスの止め具って、慣れていてもめんどくさいよね?
「どうですか?」
付け終わったので、シャルトの方を向いた。
「とてもお似合いですよ!まるで、あなたのために作られたようですね!」
シャルトが感想を述べるより前に、商人が大げさなくらい褒め称える。
「同じデザインで、色違いもあるんですがこちらもお似合いだと思いますよ!」
そして、次々に商品を薦めてくる。あっけにとられちゃって、私もシャルトも呆然として何も答えられなかった。
商人が別のカバンを開くタイミングを見計らって、ネックレスを外す。
「ありがとうございます。今日は、チュリ様への贈り物を探しています。時間がありませんので、また今度改めてお願いしたしますね」
ニッコリ笑って、丁寧にネックレスを商人の手に渡した。
もちろん、改めてなんて口ばかりだけどね!
「そ、そうですね、チュリ様への贈り物が先ですね……」
いけないいけない。私もつい、宝石に眼がくらんで、我を忘れるところだった。とにかく、早く贈り物選びを終わらないと街にいけない。
街に行って、明日のために色々まだやることあるよね。うん。
というわけで、一点豪華主義の指輪に使えそうな宝石と、ブレスレットやネックレスにちりばめれそうな宝石。それから、ビーズというか数珠というか、鎖代わりに使えそうな石。また、不平等にならないように、それぞれの商人から最低1点は選ぶ。
選び終えると、ちょうどお昼になっていたので、そのまま食堂へ向かおうということになった。
「お2人は先に食堂へ行ってください。」
私とサマルーが部屋を出ようとしたところで、シャルトが残ると言う。
ん、なんだろう?私の選び方に問題でもあったかな?
「わかりました」
サマルーは問題ないというように、さらりと返事をする。その後、シャルトの肩をぽんぽんと2度叩いた。
シャルトが、頭を掻いた。
なんだ、このやり取り?
食堂に向かう途中、サマルーが思い出し笑いを始めた。
「なかなか見ものでしたよ」
「え?何か、面白いことありました?」
「シャルト殿の動揺の仕方がね、愉快でした」
サマルーが、またクツクツと肩を震わす。
「ああ、私がネックレスをつけていただいた時ですか?貴族の方を侍女のように扱って申し訳なかったです」
シャルトがサマルーに笑われる原因を作ったのは私なので、眉尻を下げる。
「リエスは知らないようですが、上流階級の間で流行っているのですよ。結婚式の日に、新郎が新婦のネックレスを付けてあげるというのが。そして、夜には外してあげるという」
ぶぶっーーーーーっ!
「な、な、な、何ですか、それー!!」
外してあげる、イコール、初夜ってことでしょ!うわー、上流階級のエロ流行だー!
もぅっ、どこの世界でも一緒だねー。
日本でも、女性に口紅を贈るとかエロ流行あるもんなぁ。口紅を贈るは、その口紅をキスで返してもらう的な意味合いだったぞ。
で、シャルトは、思わずその習慣を思い出して動揺したとか?
なんてこったぁ。
「ああ、もう、本当にシャルトさんには悪いことをしました。将来新婦になる方にも悪いことをしました……」
私が深くうなだれると、サマルーがまたクツクツと笑った。




