45 グランラの衝撃
吾妻さんって言うんだ。じゃぁ、オークションの宛名の山下さんは別人なんだ。
『携帯電話ですか?ガラケー?スマフォ?会社は?分散すればいいですか?』
『すまんがガラケーとかスマフォとか意味が分からない。会社は分散してくれ』
吾妻さんはいつから異世界にいるんだろう?電池の寿命って何年くらいもつものなんだろう?
私の持っているカバンのように、どこかが日本と繋がってるから電話使えるんだよね。どこが繋がってるのかな?繋がってるのに、物の行き来がまったくできないの?
スマフォを知らないようだから、何年も前からこっちに居るんだよね。
携帯10台欲しいとか言ってるけど、知ってるのかな?
『昔と違って、今は携帯電話の本体0円とかじゃないので、高いですよ。下手すれば100万くらい』
そう。昔は、本体は0円、高くても1円とかザラだった。いつから、本体価格がしっかり取られるようになったんだろう。正直不便極まりない!
自分の携帯じゃないなら、毎月の通話料に上乗せも無理だから、一括支払いだよね。1つ数万はするもんね。
何年もこっちにいる吾妻さんは、日本円持ってるんだろうか?こっちの金貨で支払われても、困るんだよね。私は1円たりとも日本円を減らしたくない。もう、オークションもできなくなった今となってはおちおち通販もできない。
ケチケチするわけじゃないけれど、メールのやり取りも、パケ代かかるわけだし……。あー、どうしよう。日本円。
そこで、メールの返信が止まった。
お金が100万円もかかるというので困ったのか、それとも単に充電切れか。
旅は順調。一つ心配になってきたことがある。
ユータさんに宛てた手紙の返事がまだ届かないことだ。そろそろ届きそうなものなんだけど。
キュベリアからグランラの国境を越えた。
グランラに入ったからといって、急に何かが変わることもなく、同じような景色が続いている。気候は少し涼しくなったような気がする。
グランラに入って4日。ついにグランラの王都に到着した。キュベリアの王都と同じような規模の都市だ。
キュベリアとの違いは、緑の多さだった。商業地区も居住地区も、建物の間には庭が設けられ緑が植えられている。
お城はすごかった。アレみたい。あの、ラピュタの天空の城!緑豊かな小高い丘の上に、緑に囲まれたお城が立っている。石造りの壁はつる草で覆われ、バルコニーには観葉植物がたわわに顔を出している。屋上庭園も設けられて「緑の城」という言葉が似合いそうだ。
「すごい、ですね」
カメラがあれば、写真取り捲りたい!絶対世界遺産級だよ、これ!ってお城を目の前に興奮。
「そうですね、話には聞いてましたが実際に見ると圧巻ですね」
サマルー他の面々も城を見上げて関心している。
「退屈王が楽しむために作らせたのでしょうか?」
シャルトの言葉に、サマルーの目に光が宿る。
「そうですね、もしそうだとすると、退屈王ガンツを驚かせるのは私達が考えるよりも大変なことかもしれません」
今は、グランラのお城に見とれている場合ではない。敵を知り、今後の対策を考えるべきなのだ。
私は、出発前に作った隠し玉のこをを考えていた。
隠し玉が通用するだろうか?あの程度のもので驚いたりするかな?
珍しがるかもしれない。でも、驚くだろうか?
一緒に旅をしてきた人たちの芸で、驚くだろうか?
人が空を飛ぶくらいしないと、驚いてくれないような気がしてならない。
確か、ピラミッド型の骨組みの中で、人が浮くとかいうのがあったよね?あれって手品だっけ?怪しげな宗教団体だっけ?そういうことできたら驚くのかな?
ああ、こんなことなら日曜講座「楽しい手品入門」とか受講しておけばよかったよ!まぁ、中に浮く手品なんて入門編で習うわけないけどさ。
グランラの城へは明日向かうということで、今日は城壁のすぐ外側にある迎賓館のような建物に宿泊することになった。
建物の中に入ると、一同驚きを隠せずに居た。
まず通された廊下には、光る石がまるで夜空のようにちりばめられていた。ちょっとしたプラネタリウムのようになっている。
次に通された部屋には騙し絵が飾られ、他にも様々な美術品が置かれている。
そして、やっと応接間に通されたのだが、これまた、この世界に来て初めてだった。南側全面がガラス窓。
ガラスの質がイマイチだし、大きなものも作れないため、まるで障子のように格子状に透明度の低いガラスがはめ込まれている。
広い部屋の南側が全面ガラス!そして室内にも関わらず、緑が豊かだ。
キュベリアにも室内に花を飾ることはあるが、主に切花だ。この部屋のように、根っこのついた観葉植物を置くことはまずない。
南から差し込む光の量に、青々と茂った緑。一瞬室内だということを忘れそうになる。
日本で、これに近いカフェや温室なんかを見たことがある私でさえ、一瞬息を呑んだ。
使節団の他の人は、ぽかーんと立ち止まっている。
「今、お茶をお持ちいたしますので、お座りください」
迎賓館の侍女に促されて、それぞれソファに腰を下ろした。
「驚くことばかりですね」
シャルトの正直な感想に相槌を打つ。
「驚かせに来た方が驚かされっぱなしとは……」
サマルーが渋い顔をしている。
「ガンツ王は、たいていのことでは驚かないでしょうね。困りました」
「大丈夫ですよ!我々にはリエスさんが居ます!ガンツ王が色々なものを見てきたとしても、リエスさんの魔法のような化粧法は見たことがないはずです!」
おーい、シャルト、楽観しすぎだし、私に期待しすぎ!
ああ、どうしよう。
別に失敗したからといって、私のせいじゃないんだろうけど。使節団の一員として参加するからには、この訪問を成功させたいよね。
元々、同盟を組むための訪問でしょ?
同盟は、西側のアウナルスに対抗するためのもの。侵略戦争されないためのものだよね?
平和を保つための同盟。
やっぱり、平和は何よりも大切だよ。戦争になっちゃったら、どれだけ多くの人が犠牲になるか分からない。だめだよ、だめ!
考えよう。きっと、隠し玉も役に立たない。
もっと、もっと何か、ガンツ王を驚かせされること。考えれば何かあるはずだ。
滞在は10日ほど。今日と最後の日を抜けば、1週間ほどしか時間がない。考えて、準備して、間に合わせなくちゃ!




