35 セバウマ領への帰還
「実に、実にリエス殿はすばらしい!」
サマルーが興奮気味に賛辞を述べる。反対にシャルトはなにやら物思いに沈んでいるようにも見える。
これから、キュベリア使節団の面々が集まって詳細を詰めていくようだが
「ごめんなさい、あの、私気分が悪いので、少し寝ますね」
部屋に戻った。気分が悪いんじゃなくて、眠い。
なんだかんだ昨日は徹夜だった。そしてなれない馬にのって、もう体中がぼろぼろだ。
疲れて眠い。ギブミー栄養ドリンクゥゥゥ!
うん。あとで非常用に栄養ドリンクを通販しよう……そうだ、何かトゥロンにもお礼を考えなくちゃ……と考えながら眠りに落ちた。
目が覚めると、もう当りは薄暗かった。テーブルには軽食が乗っている。気遣いに感謝しながら食べる。
体のあちこちはぎしぎしだったけれど、やり切った感で、精神的にはとても晴れやかだ。
1日ぶりに、メールチェック。オークションの落札通知が、2つ!
なんと、革の胸当てが2つとも落札されていました!タイトルにコスプレという単語を入れたとたん!す、すごいな、コスプレ効果!
落札者に連絡を入れる。入金され次第発送できるように準備をする。今度は何を出品しようかなぁ?売れてくれると嬉しくて考えるのも楽しくなるね。
落札者の一人から、すぐに返事が帰ってくる。住所を元に、送料を調べる。離島?送料の金額が高い。送料は落札者負担だから、懐は傷まないんだけど、でも、現生が減る!どうしよう。思ったよりも早く送料に使える現金がそこを尽きそう。そうだ、送料が安く済む小さな品を出品しようか?封筒に入れて切手貼って送れるような。切手なら、ネットオークションで手に入るし。
あー、だめだ!自宅集配は小包に限るって!
八方ふさがり気味。最終手段、着払いでお願いしますにするしかないか?
なるべく現金節約のために、早速メッセージに「着払いでもいいですか?」と書いてみた。すると、すぐに返事が来た。「大丈夫です。切手払いをしたいので、ゆうパックでお願いします」
ん?切手払い?すぐさまゆうパックについて調べる。なんと!はがきや封書じゃなくても、切手OKなんだ!小包もレターパック類も全部切手で支払い可能!初めて知った。切手はネットオークションだと金券ショップみたいに額面の92~95%位の値段で買えるんだよね!なんてことでしょう!現金払いよりも切手払いのほうが5%ほどお得とか!ネットオークションを続けていく上で、これを利用しない手はないよね!
送料用の現金問題が無事解決しました。心置きなく出品できます。何を出品しようか?
アラフォーですが、まだまだ世の中知らないことがたくさんありますね。歳を重ねるごとに知識も重ねるのですよ。亀の甲より年の功とはよく言ったものだ!こうなりゃ博識のアラフィフ、無敵のアラカンめざしてやる!って、その前に日本に早く帰りたい。
それからあっという間にピッチェを立つ日を迎えた。
「リエスよ、ほんに、そのようなものでよいのかえ?」
褒美にと、レイナール様がたくさんのドレスを贈ろうとしてくれたんだけど、断った。代わりに、下っ端兵が使う革の胸当てをいくつかと、侍女の制服をいくつか譲っていただいた。コスプレゲットですよ!
その夜早速出品する。もちろん、タイトルに「コスプレ」の文字は忘れない。兵士の胸当ては、弓をいるときのものと違い、胸全体を覆う形でカバンをぎりぎり通る入るサイズだった。大きさのことをすっかり忘れていた。危ない危ない。
セバウマ領へ向けての旅が始まった。
「リエス嬢、」
休憩時間に馬車を降りると、トゥロンから声がかかる。
「報告が遅くなっちまった」
「報告?」
「現役の警邏に、聞いた話、特に不信な行方不明事件はないそうだ」
忘れてた。そのこと。
「ありがとう。あの、それから」
チュロス村でのお礼も口にしようとしてハッと口をふさぐ。あれは、薔薇のリエス姿じゃなかった。
私が口ごもっていると、トゥロンはウインク一つよこした。
「わかってますよ!女神のこと!」
えーっ!わ、正体ばれてるの?
そりゃそうか。話をすれば、声も独特の訛りも一緒だもんね。うわー、どうしよう。
「リエス嬢は、女神の加護があるんでしょ?」
「め、女神の加護?」
トゥロンは声を潜めた。
「隠しても無駄ですよ。実はリエス嬢を守護する女神と会ったことがあるんですよ。石鹸も、女神による助けだったんでしょ?大丈夫です。女神の助けのことは誰にも言いませんから!」
トゥロンはそれだけ言うと、満足したようにニマニマして去っていった。
あー、あくまで、トゥロンの中では女神なんだ。
良かったというか、トゥロン大丈夫か?と言うべきか。
「リエス殿、シャルト殿の元気がないのに心当たりはございませんか?」
今度はサマルーに声をかけられた。
「ああ、やっぱり、元気ありませんよね?私もどうしたのかと思っていたのですが、サマルーさんにも心当たりはないのですか?」
「ええ、今回の使節団の訪問は大成功でしたからね。有頂天になることはあっても落ち込む理由が分かりません。セバウマ領でセバスール伯爵への報告を終えた後、私はそのまま王都へも報告に上がらねばならないのです。そのときに、シャルト殿にもご同行を願おうと思っているのです。何か心配事でもあるならば、それまでに解決して欲しいのですが」
確かにあんな暗い顔して報告されても、吉報とは思わないよねぇ。
シャルトは、皆から少し離れた街道の脇に、森を眺めるようにぼんやりと座っていた。
「シャルトさん」
声をかけると、肩が大きく上に上がる。驚きすぎじゃないですか?
「リエスさん……」
力ない声が返ってくる。「隣いいですか?」と、返事を待たずにシャルトの隣へ座る。
「なんだか、元気がないと皆心配していますよ、大丈夫ですか?」
今までのシャルトは、人の目を真っ直ぐ見ていた。だけど、今日のシャルトは決して目を合わせようとしない。本当に、どうしちゃったんだろう?
「だめだ……」
「え?」




