35 苦悩するシャルト
「僕は、本当になんてだめな男なんだろう……」
もしかして自暴自棄的なアレでしょうか。
原因は、どう考えても私だよね?話し合いの場で、使節団の団長無視してでしゃばって、その上それが相手に気に入られるとか。
「そうですか?今回のことで、私はシャルトさんは何てすばらしいのだと思いましたよ?」
シャルトは頭を抱えて首を横に振った。
「いいんだ、慰めは。僕は本当にだめな男だ。君の足元にも及ばない……」
だめなところを認めることができるっていうのは、充分立派なことなんだよ。目をそむける人のほうが圧倒的に多いんだから。
苦しいよね。だめなこと認めるの。その苦しみと戦ってるんだから、きっとシャルトはもっと成長するよ。今、私の言葉がその手助けになりますように。
「本当ですよ。私があの話し合いの場で、最後まで言いたいことを伝えられたのは、シャルトのおかげです。女だからとか、部会者だからとか、庶民だからとか、色々な理由をつけて発言できないこともたくさんあるんですよ?シャルトは、そういう差別は少しもしませんでした。それでけでもすごいと思います」
シャルトは、まだ首を横に振る。
「それに、団長なんですから、すべてを自分の手柄としてもいいんですよ?」
「そんなこと、できるわけが……ない……」
「そうですね。でも、何もしていないのに手柄を横取りする人は多いんです。そうしないシャルトがすばらしいんですよ。力不足を感じているなら、今度はもっと頑張れば良いんです。それに、団長って団の長なんですよ?一人じゃないんです。チームなんです。チームで成功を収められたら、それでいいんだと思います」
シャルトは、気持ちが少し、ほんの少しだけ浮上したのか、やっと顔を見せてくれた。シャルトの目をみて微笑む。
「もし、今回の結果が私のおかげだと思っているのなら、」
シャルト、少し落ち込んだらまたいつものシャルトに戻ってね。
「やっぱりシャルトの手柄なんですよ。私を選んで連れてきたシャルトが成功をもたらしたんです」
シャルトの腕が伸びて、私をぎゅっと抱きしめた。声を殺して泣いている?
涙が出たら、大丈夫。また立ち上がれるよ、ね?
子供をあやすように、背中をトントンと何度か叩いた。
ピッチェの国境を越え、キュベリア国内に入ったころには、シャルトの様子はまずまず回復していた。
夜の日課は、メールチェックに加えて、ネットオークションチェックも加わった。
革の胸当ての到着報告メッセージが届いている。『ありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いします』と『本日商品を受け取りました。ありがとうございました』という簡素なもの。新たに出品していた品は、入札なし。
んー、難しい。何が売れて、何が売れないとか。今回はコスプレという単語も入れたけれどまったく売れない。家賃等の維持のために、コンスタントに月8~12万はほしい。あれ?それだけオークションで稼げるなら、誰も苦労しなくない?もしかして、オークションで日本円を稼ぐのってハードル高いのかな?
手元の革袋を見てため息を一つ。
「それだけでは、予の気がすまぬ。これを持っていくがよい」
と、レイナール様に渡された、花の押し印がついたかわいらしい布袋には、何枚もの金貨が入っていた。なぜか、こっちのお金には苦労しないんだけどなぁ。
セバスール伯爵の城に着くと、盛大な歓迎会が準備されていた。先駆けにより、今回の使節団が大きな成果を上げたことが伝わっていたためだ。
サマルーはこの後、王都への報告も急ぐということで、滞在1日にして王都へ出発。もちろん、私も一緒に行く。サマルー要望で、シャルトも報告に同行することになった。
王都への旅は、シャルトとサマルーと私、侍女のアジージョ、国の官吏3名、御者兼護衛4名、護衛がトゥロンを含め10名だった。帰りの旅も順調で、予定通りの日数でたどり着くことができた。
「私はミリアへ帰ります」
王都への滞在を勧められたが、正直もう薔薇のリエス姿は疲れた。これ以上やってられない!
「もう、帰ってしまわれるのですか?」
シャルトが落ち込み
「実に残念だ。しかし、またすぐ会えるだろう」
サマルーが予言めいたことを言う。いや、もう薔薇のリエスは引退します。
「では、送っていこう、お手をどうぞ、リエス嬢」
トゥロンがいつの間にか馬を連れて横に立っている。
「僕が送っていければいいのだが……いいか、分かっているな、トゥロン、くれぐれも」
シャルトが何度も何度もトゥロンに念押しをするものだから、
「大丈夫ですよ。トゥロンは信用できる人です」
と言ったら、なぜか空気が一瞬凍った。
あれ?
トゥロンに送られ、マーサさんの店についたのはちょうどおやつタイムでした。
トゥロンさんは、シャルトにすぐ帰るように何度も何度も言われていたので、とんぼ返り。お茶くらい飲んでいけばいいのに。
マーサさんたちにもみくちゃに歓迎されました。ダーサとルーカはかなりツーカーになっていたので、順調なようです。お土産を渡して、部屋を借りて、薔薇のリエスからリエスに戻った。
長旅で疲れていたので、詳しい話はまた今度ということで山小屋に戻った。
久しぶりの山登りは、キツカッタデス。
馬小屋のハイジベッド、長いこと留守にしてたから虫とかちょっと心配だけど、もう無理。
ばたんきゅーっ。
んー、ラトの匂いが染み付いてやがる。また、使いおったな!洗濯、しなきゃ、むにゃむにゃ。おやすみ……
ものすごい窮屈で目が覚めた。
何、これ?動けない。
ちょ、どうなってる?
両手、両足が動かない。何とか動く顔で状況を確認する。
げ!顔を上げるとラトの形の良い顎が見えた。正面にはラトの胸。
私の両手を体に縛り付けてるのはラトの意外とたくましい腕。足に絡められているのは、ラトの足。
何で、どうして、私ラトに羽交い絞めにされてるわけ?
そりゃ、窮屈で目も覚めるわ!それなのに、ラトはぐっすり寝てるし。
私は抱き枕じゃないっつぅの!
「ラト!ちょっと、ラトってば!」
身じろぎしようが、大声で名前を呼ぼうが、起きやしない。
うーっ。しかし、なんだってこんな状況になってんだ?
まさかと思うけど、私が逃げないように捕まえてる?まさかね。
いや、うどんのストックが無くなって、新しく食べさせてくれるまで離さないとか……ありえないと言いきれない。
しばらくラトが起きるのを待ってみたが、まったく起きる気配がない。




