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247 陛下亡き後

 倒れた陛下の周りには、いつの間にか医者と思われる人物が跪いて脈を診ていた。

 10人ほどの親衛隊だろうか、飾りの覆い制服を身にまとった兵がそれを見ている。

 血が、舞台を広く汚していた。酷い出血だ……。

 ギレンが、汚物を見るように血を流す陛下を見下ろしていた。

「残念ながら……」

 医者が首を静に横に振る。

 ああ、ああ、死んでしまった。エロキモ陛下が……。あんなに、気持ち悪くて最低な人間だと思っていたけれど……。でも、でも、殺されて当然とは思わない。人の命は、重いのだから……。

 目の前で人が刺されて死ぬ……。

 人の命は重いとか……この世界の人間からしたら、奇麗事だと思われるような言葉かもしれない。

 だけど、だけど……。

 ドラマじゃない。テレビの向こう側じゃない。現実で……目の前で人が……。例え、どんな人であろうと、突然命を奪われる……。

「まさか、陛下……」

 貴族席で舞台を見ていた何人かが舞台の上に来ていた。

「いったい、どうなるんだ……」

「大変だ、陛下にお世継ぎは……」

 青い顔をして動揺する者たちを割るようにして一人の人物が姿を現した。

「陛……下?し、死んだ、のか?」

 死んだ?その言葉に違和感を感じる。

 崇めるべき人間の死に対して使う言葉だろうか?

「は、ははっ。死んだ、死にやがった!」

 え?

 陛下の亡骸の傍らに立ち、宰相であるギレンが笑い出した。

「これはいい!ははははっ。手を下す手間が省けたってもんだ」

 陛下を見取った医者が、ただならぬものを感じたのか後ろに下がった。

 陛下に駆け寄った兵の一部は警戒を見せ、また別のものは、ギレンの後ろへと移動する。

 何なの?

「王なきトルニープ、これより、宰相であった私の物とする」

 ギレンの宣言に、どよめきが走る。

 は?

「まて、ギレン、いくら宰相だからと……お前が王になるなど許されるものではない!」

「そうだ、正当なる継承権を持つ者を立てるべきだ」

 貴族達から、批判の声が上がるが、ギレンはにやっとした笑いを浮かべた。

「聖女が出した幻の王子はいない」

 幻?

 ミュイロン君は確かにすぐに戻したからいないけど。

「王の弟は死に、妹は行方知れずだ」

 トゥロンは生きてるし、ランちゃんはこの舞台の裏にいるけどね!

「正当なる継承権を持つ者とやらを出すがいい!ウォルフのシロニュール・ギレン以上に正当な者をな!」

 は?ウォルフ?

 シロニュール・ギレン?

 何を言っているのか、さっぱりわからない。

 いち早く、意味を理解した貴族が、言葉を発する。

「シロニュール……先々代王の娘が嫁いだ、ウォルフのシロニュール公爵家か……」

 その言葉に、ウルさんがハッとする。

「ウォルフとの繋がりが、そんなところに……」

 ああ、そうだ。ウォルフとトルニープの繋がりが強固であればあるほど……戦争が起きたときに厄介になる。

「トルニープの新しい王は、私だ!ははははっ」

 ギレンの高笑いは、舞台を囲む家の屋根から飛び降りた一人の人物によって消された。

「残念だが、次の王は私だ」

「トゥロン!」

 そこにいたのは、トゥロン。

「トゥロン様!」

「おまえ、生きていたのか!」

 ギレンに貴族達の声が重なる。

「ギレン子爵、正当なる継承権持つ者、王弟のトゥロンです」

 カーベルさんが、ゆっくりと舞台端から歩いてきた。

「くっ……」

 ギレンは一瞬だけ悔しそうに顔をゆがめた。しかし、すぐににやりといやらしい笑いを顔に浮かべる。

「王位継承は、他国の王の承認がいる。私は、ウォルフの王から承認されている。正式な書類も持っている」

 え?

 ギレンがアゴを振れば、ギレンの後ろに控えていた兵の一人が、胸元から一枚の札を取り出す。

「確かに、これはウォルフ王家の紋章……」

 紋章が焼き印された札に、ギレンをトルニープの王として認めるうんぬんが書いてあるようだ。

 カーベルさんが、札を見て顔色を悪くする。

「まさか、前宰相ともあろうお方が、法を犯して、承認なき者を次代の王にするなんてことはいたすまい?」

 ええ?何?

 他国の王の承認が必要って……。

 大丈夫だよ、トゥロンは立派な王になるから。承認されるよ。

 でも、今この場では、すでに承認されてるギレンが有利ってこと?

「承認いたしましょう」

 静かな声が舞台上に響いた。

「は?」

 うん。目が点になるとはこのことだ。

 何言ってんの?だよね。

「私が、私の権限を持って、トゥロン殿が王になることを承認いたします」

 いやいや、だから、必要なのは王の承認ですよ!

 こんなときに冗談とか……って、冗談言うはずのないウルさんが、なんで、そんなこと言い出したの?

 ウルさんを懐疑の目で見ているのは私だけではない。

 だが、そんな視線を歯牙にもかけず、平然としているウルさんは、胸元から札を一つ取り出してギレンやカーベルさんに向けて見せた。

「その刻印は……」


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