229 船の数、狼煙の返事
『祭りの準備が急いで行われています』
夜、吾妻さんへメールを書いているとオーシェちゃんが戻ってきた。
「お姉様、遅くなりました」
ああ、こんなに遅くなるなら、エボンさんに頼めばよかったな。女の子に頼むべきじゃなかった。
「港町ですが、船着場の完成はどうやら一月以内にはなんとかといった状況のようです」
「一月……。早い……けれど、予想していたよりはゆっくりですね」
祭りを7日後にと急いだギレンの様子から、半月もすれば完成するかと思っていた。だが、一月もすれば戦争の準備に入ると考えれば早い。
「それから、荷を受け入れるための用意は特にされていませんでした」
「貿易などで多くの荷を輸送させるために船着場を整備しているわけじゃないということになりますね」
私の言葉に、オーシェちゃんが頷く。
「傭兵など、兵を受け入れるための準備もなかったようです」
「純粋に船だけが運ばれてくるってこと?」
「今の所、そのように感じました」
傭兵を受け入れるのであれば、それなりの食料備蓄や、宿の手配など色々あるだろう。
「あと……」
オーシェちゃんは少し顔色を悪くして言いにくそうに言葉を続ける。
「思っている以上に船の数が多いかもしれません」
「え?」
いったいオーシェちゃんが何艘くらいを想像していたかわからないけど、顔色を悪くするほどっていったいどれだけ。
「船着場の大きさからすると、せいぜい4艘ほどの船が停泊できる程度なのですが、船着場から西へ行ったところに、小船が上陸できる簡単な設備が用意されていました。気になって、さらに西へ進むと他にも何箇所か見つけました」
船着場に停泊できない船への乗船は、小船を使って行うということだろう。
「オーシェちゃん、明日はウルさんに見つけた場所を案内して、もう少し情報を集めてください。小船の数や積み込む荷の用意など、船の数を出来るだけつかめるようにお願いします」
「はい」
オーシェちゃんが部屋から出て行くのを見送りながら、眉間に指を当てる。
いったい何艘の船をウォルフから購入したんだろう。2年の間に増税で得た金で、果たしてそれほどの船が購入できるものだろうか?
それとも、他に資金源がある?
うーん、この辺は考えても分かるものではない。
ウォルフという国がどういう国か分からないから、何とも言えない。地球だって、胡椒が金と同じ価値があったとかそういう時代もある。ウォルフにとって、金と同じような価値のあるものが、トルニープにあるのかもしれないし。
『トルニープがウォルフからどの程度の船を入手するのか、調べています。少なくとも4艘以上はありそうだということです。明日にはもう少し数が分かるかと思います』
吾妻さんにメールをする。
『助かる』
吾妻さんからの返信は簡素なものだった。戦争が起きるかもしれないとなれば、吾妻さんも色々と準備で忙しいのかもしれない。
ウルさんたちのような諜報部員をあれだけ動かしているのだ。アウナルスの参謀的な地位なのかも。
明日以降の予定を確認する。
オーシェちゃんとウルさんにはもう一度港町やその付近の調査をお願いする。
オージェくんは仕立てができる人を探しに行ってもらう。ついでに、うどんチップス用の小麦粉の仕入れと運搬。
エボンさんは狼煙の返事待ちと、会場となる場所の詳細を調べてもらう。もちろん、会場設営や警備の配置などの情報はカーベルさんからもらうけれど、当日の街の人たちの動きも知りたい。広場周辺の家から舞台を見る人もいるだろうし、もしかしたら屋根の上に登って見る人たちだっているかもしれない。イリュージョンを行うにあたって、死角の確保は重要になってくる。もし、死角が無いような場所でしなくちゃならないのであれば、作り出さなくちゃならないし。幕みたいなのを用意して張り巡らしたり。カーベルさんに舞台構造の変更をお願いした方が早いだろうか?
次の日、皆に仕事を頼んで、私は1人宿に残った。
イリュージョンについて考えないといけないからだ。おおよその流れを決めて、分からないところをユータさんに相談するつもりだ。
ユータさんが日本に到着するのは明日なので、それまでに考えないと。もちろん、ユータさんもマジシャンというわけじゃないので、教えてもらえそうなショップや、教室を開いているマジシャンなどをリストアップしておく。
もし、お金でプロの手品師にアドバイスがもらえるのであれば、吾妻さんのお金を借りるつもりだ。この間のパラシュートや救命ボートなどの買い物で、すでに200万ほど吾妻さんに借金してしまっている。大丈夫。まだ、日本に帰ってから真面目に働けば返せる金額だ。
……。
少し涙目。
えーっと、異世界にいる間に、運搬費としてまた30万いただける仕事を吾妻さんからもらえるといいな……。
何か、日本のもので欲しいものないですか?……と、今度メールで聞いてみよう。
ああ、もちろん別の仕事でもいい。
アラフォーなめんなぁ!
小学校に珠算1段取得してるんだよ!今でこそ算盤を習う子は減ったみたいだけど、私が小学生のころ田舎では習い事といえば算盤と習字っていう時代だったんだよ!
計算機のないこっちの世界じゃ、算盤や暗算ができれば戦力になるよね?吾妻さんに計算関係の仕事ないか尋ねてみよう。
それで、日本円の借金を少しでも返せればラッキーだよね。
もちろん、戦争のことが終わって落ち着いてからね。
ユータさんにはサンコーポ201、つまり私の部屋に来てもらう。なので、見られて困るものは布で覆って隠しまくり。あとクローゼットに押し込みまくる。
布団は客用なんてないからベッドを使ってもらうとして……。えーっと、食事は……。何がいいんだろう?
そうだ、ユータさんと色々打ち合わせしたりする間も、ミュイロンくんの異世界語練習とか必要だよね?何かに録音したものを聞いてもらうようにしたらいいんだろうか?あれ?そもそも、ユータさんが居ないとミュイロンくんと話できないか?何か考えないとだめだなぁ。
その日、オーシェちゃんとウルさんは帰ってこなかった。まだ調査が難航しているのだろう。
オージェくんは仕立てを秘密裏に頼める人が見つからないと頭を下げた。いざとなれば、ミシンでダダだと縫うしかないか。フットペダルを手で押しながら……できるかな?
次の日、朝食の時間よりも前に、エボンさんが私の部屋をノックした。
「狼煙が上がりました」
「え?本当?」
サマルーからの返事だ。
部屋に入ったエボンさんが、メモした板を片手に持っている。
「狼煙の内容ですが、人、消える、芸、知らぬ、詳しい者、チョ・ビ・ン、不在」
「サマルーは、人が消える芸のことは知らないってことね。もう少し詳しく知っているのはチョビンで、チョビンは不在で聞けないってこと?」
「そうだと思われます」
「ありがとう」
お礼を言うと、エボンさんはメモした板を机の上に置いて部屋を出て行った。




