173 ボスの考えそうなこと
炊き出しの場を離れ、昨日同様ウルさんと貴族めぐりを開始。昨日は二箇所しか回れなかった。早く出来るだけたくさん回りたい。が、焦って情報を聞き漏らすわけにも行かないし、商人としてあまりに怪しい行動をするわけにはいかない。
早く次の貴族の所へ行きたいって気持ちを抑えながら、長々と続く貴族の自慢話に付き合う必要も出てくる。
「何かあれば、このギレンの元へ来るが良い。悪いようにはしない」
品物を追加で出せば出すほど、情報が小出しに出てくる。まぁ、自慢話の中に散りばめられているので、誇大表現もありそうだし信憑性の如何もあやしい。
トルニープがアウナルスに戦争を仕掛けることは万が一にも無いと、ギレン子爵は言い切った。何処からいいきれる自信が?というくらいきっぱりと。
「不安もあろうが、私の保護があれば、何の心配も要らない」
と、三度目の追加の貢物を渡した時には「守護されし者の印」を渡された。
ウルさん曰く「これからも貢げという意味でしょう」と。うわー。呪いの印っていうよりも、カツアゲの印かよっ。いやなもんもらった。しかし、突っ返すわけにもいかないよなぁ。
散々、自慢話をされた挙句、貢物を誤解繰り返し得たものは、ギレン子爵家の「守護されし者の印」と、アウナルスと戦争はしないという話だった。
反省会の前にノートに頭の中のごちゃごちゃをまとめようと思っていたけれど、とても時間がなかった。
反省会の内容は、今日は盛りだくさんだった。
ガイルさん提案の配達班について、皆の賛成もあり早速編成にとりかかるということ。エボンさんがガイルさんと相談して進めてくれることとなった。
それから、長時間並ぶのが困難な人に、優先枠を作るかどうかについては理解を得られなかった。まぁ、シルバーシートや障害者用駐車場とか、日本でも色々と問題あるもんなぁ。健常者が平気な顔して利用することも多いし。お年寄りが目の前に立つと、寝たふりする若者までいるし。さっきまでスマフォでゲームやってたやろ!手に持ったままやろ!明らかに寝てないやろ!という人間が、リクルートスーツ着てる学生だったりすると、入社試験に落ちてしまえ~って呪いを掛けたくなる。
てなわけで、優先枠は作らず、並べないが食料が必要な人には配達班に頑張ってもらうということになった。
配達に関してはガイルさんたち、腕に覚えのある者に任せるが、配達が必要な人の情報収集については、貧困層のことを良く知っている元物乞いさんたちにも頑張ってもらうことになる。
次に、福引がとても好評で、飲食店以外のお店も「福引券配布」をしたいと相談があったそうだ。これに関しては保留。で、次。
王都以外の土地の状態の情報収集について、ウルさんが何人か人員を送って調べてくれることとなった。炊き出しなどが必要そうな逼迫した状態の街や村があれば、何人かのチームを組んで派遣する必要があるが、それは必要に応じてまた考えることにする。さ、次。
貴族めぐりが思うようにはかどらないが、何かいい案が無いかと相談する。
「こればかりは、焦るあまり肝心の情報収集に不備が出てもいけませんから、なかなか難しいですね」
だよねぇ。
「もういっそ、陛下に直接聞いちゃえば?」
オーシェちゃんの大胆提案に、全員が同時に首を横に振る。
「お姉ちゃん、もう少し考えようね?」
オージェくんが、呆れた顔をしてオーシェちゃんを見る。
「何で駄目なの?一番手っ取り早く、情報が手に入るでしょ?トルニープがアウナルスと戦争になるって本当ですか?って。いっぱい貢物したら教えてくれるんじゃないかなぁ?」
オーシェくんが、疲れたように額を抑える。
「トルニープが戦争を仕掛けるという情報を、いち早くアウナルスが入手すればどうなりますかね?」
エボンさんの言葉に、オーシェちゃんがハッとする。
「そっか、早めに迎え撃つ準備ができるね。それどころか、トルニープが攻撃を仕掛ける前に先制攻撃することもできる」
オーシェちゃんの言葉に、今度は全員で首を縦に振る。
「情報は時として戦況を大きく左右します。外部には漏らさなければ漏らさないほどいいのです」
ウルさんの言葉に、グアルマキート戦記を思い出す。
久司は情報の重要性を良く知っていた。そして、情報操作により、優位にことを運ぶことにも長けていた。
「例えば、二ヵ月後にアウナルスの最南端の砦を攻撃すると陛下が言ったら、アウナルスはどうすると思いますか?」
ウルさんの言葉に、オーシェちゃんは少し考えてからきっぱりと言葉を返した。
「えーっと、二ヵ月後までに迎撃の準備をする。と、見せかけて1ヶ月くらいで準備を早々に整え、トルニープ内部から戦争を回避するためのあらゆる手段を講じる?」
「ははっ。そうだな、確かにボスの考えそうなことだ。しかし、まだ甘いな、オーシェよ」
ん?ボスの考えそうな?
「そうですね。まず、情報を疑うべきです。トルニープが二ヵ月後と嘘の情報を流し、一ヶ月で奇襲を仕掛ける可能性も考えるべきですね。ですから、迎撃の準備は十日。遅くとも二週間で行うべきでしょう。そして、準備が整う前から、トルニープ内部からの工作はスタートさせるべきですね」
うわー。すごいなぁ。狸の化かしあいか。
いや、それだけ情報一つが大切ということか。まぁ、あれだ。真珠湾攻撃にしたって、暗号を解読したとかしないとか、とにかく情報取得の有無が問題になったりするわけだし。
「うはーっ、そうか。私はまだまだ勉強不足だぁ」
オーシェちゃんがガッツリ落ち込む。
いや、普通の女子は戦略の勉強なんて必要ないから。
「まぁ、とにかく陛下に聞いても、混乱させられるだけですね。下手すると、スパイ容疑で僕たちの身が危なくなるだけです」
オージェくんの言葉に、さらにうなだれるオーシェちゃん。
「カーベル殿から何か聞き出せませんかな?執事とはいえ、元宰相ということで色々と情報を得ている可能性はありますよね?」
と、エボンさんの言葉に、カーベルさんの「何を探っている」という言葉が浮かんだ。
「やめておきましょう。カーベルさんが、どういう立ち位置なのか分かりません。逆に陛下にこちらの情報を渡すことになるかもしれませんから……」
「そうですよね!さすがお姉さま!」
いや、そんなに大したこと言って無いよ、オーシェちゃん。
「当面は、このまま続けるしかなさそうですね」
ということで、貴族めぐりの件は話し終わった。
他に、モヅ村の件は保留。もう少し落ち着いてからということになった。
それから、炊き出しを手伝ってくれる人の手も増え、慣れてきて余裕も出てきたということで、販売部門の拡充も考えるということになったが、メニューに関してはそれぞれ持ち帰って考えることにした。
そうだ、それから……
「キュベリアが、トルニープに手を貸すという話も耳にしました。キュベリアの方で動きがないか情報を得ることはできますか?」
キュンべりアが戦争に手を貸すとは思えない。
戦争を回避するために、同盟を組もうと尽力しているのだから。
「分かりました。キュベリアにいる者に、調べさせましょう。戦争の気配があるかどうか位しか分からないかもしれませんが……」
「お願いします」
その夜、吾妻さんに送るメールの文面を考えるのにかなりの時間を要した。




