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【書籍化】無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記  作者: 杜間とまと


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172/303

172 ガイルの活躍

「あなた、これは噂の聖女の滴よね?お願い、もっと買ってくださいな」

「うむ、そうだな……。しかし、そうやすやすと手に入れられるような品じゃないだろう」

「陛下に渡すお金があるなら、それを回せばいいじゃないのよ」

「いや、だが、しかし……」

「だって、貴方、陛下はもうお終いだって言ってたでしょう?そんな人に金をかけても仕方がないじゃないのよ」

 ん?なんだって?

 陛下はもうお終い?

 どういうこと?

 確か、戦争について尋ねたときには「トルニープがアウナルスに進攻するなどありえませんよ。心配はいりません」って言ってたよ?

 とても嘘をついているような様子はなかった。

 戦争で滅ぶわけでもないのに、陛下はお終い?もしかして何か病にでも冒されているんだろうか?……異常なほど脂汗を出していたが、太っているせいじゃなくて病のせいだったとか?

 謎だ。もしかすると、夫の「あいつ、終わったな」的な単なるおしゃべりを、妻が拡大解釈してるだけって話かもしれない。

 とにかく、貴族をめぐりをして情報をなるべく多く入手して、真実を突き止めなくては。

 ウルさんが戻ってきて話を続けたが、一人目の貴族では「トルニープがアウナルスに進攻するはずがない」という情報以上は得られなかった。もしかすると、ランちゃんが消えてから先の陛下の動きは、まだ広まっていない可能性もある。

 ところが、二人目の貴族の答えは全く異なっていた。

「地方の領主をしている友人が、戦争の準備をと陛下に命じられたらしいのです。戦争が起きたらどうしようかと、不安な毎日ですよ……」

 え?戦争が起きるというの?

 ウルさんが馬車に行っている間に、こちらも本音が飛び出す。

「ねぇ、あなた、戦争が始まる前に、財産を持ってキュベリアにでも亡命した方がいいんじゃありません?」

「そうだな。しかし、それを陛下が見逃すはずはないだろう?」

 どうやら、本気で戦争が起きると思っているようだ。

 貴族めぐり一日目、二人の貴族をめぐって得たもの。

 相対する二つの情報。戦争が起きるはずがないというものと、戦争が起きるというもの。

 聖女の滴の売り上げ、金貨四枚と、紙の売り上げ金貨一枚。


 白山亭に戻ると、オーシェちゃんたちはまだ炊き出しから戻っていなかったため、ウルさんと二人、お茶を飲みながら話をする。

「一体、どういうことでしょうか?こんなにも意見が分かれるなど……」

 ウルさんも戸惑っている。

「そうですよね。でも、ウルさんが馬車に行っている間に、一人目の貴族夫妻が気になることを言っていました。『陛下はもうお終い』だって」

「そうですか。もしかして、戦争の準備を行っているのは事実だが、戦争を起こすまで陛下の世が持たないと思っているということでしょうか?」

 ウルさんの言葉に頷く。

「私も、そう思いました。もしかして、陛下は何かの病に冒されているのではないかと……」

「医者の方からも調べられたら調べましょう」

「そうですね。お願いします」

 と、一旦話がまとまったところに、オーシェちゃんたちが帰ってきた。

 今日の炊き出しの話を聞く。特に問題もなく終わったらしい。そして、福引は早くも大人気で、福引券ならぬ、福引札を持った人たちが押し寄せているそうだ。賞品を追加しなくちゃいけないかなぁ。


 事件は次の日の朝一番に起こった。

 昨日は真面目に仕事をしていたというガイルが、大きな声を張り上げた。

「ちゃんと並べ!年寄りだからといってルールを無視するな!」

 目をやれば、足元もおぼつかないような老女の腕を掴み、隅へと引っ張っていった。

 いくら見せしめの意味もあるとはいえ、あんなお年よりにまで酷い……。

 私自らルールに例外を作るわけにはいかない。だけど……。

 ロープで老女を縛り上げるガイルの元に、思わず駆けつける。

「ガイル、言いにくいんだけど」

 すぐに捕まえて隅に追いやる前に、注意だけで何とかならなかったのかな?と、問おうとすれば、ガイルが声を潜めた。

「すいません、アネキ。ばあちゃんとこ、昨日までは息子が並んでたんすが、港の方で仕事が見つかったとかで来られなくなったんでさぁ。息子の代わりに並びに来たって言うんでやんすが、ばあちゃんの足じゃぁ、長いこと並ぶのはとても無理そうなんで、ここに座らせてやってくだぁさい」

 え?

「ガイル、貴方……ここに座らせたくて、一芝居打ったの?」

 あんな芝居すれば、貴方の評判が落ちるというのに……。

 何ていい奴だ。

「それでアネキ、一つお願いがあるんでさぁ、炊き出しが終わった後、一籠ほど食料がほしいんでさぁ。ばあちゃんの息子ように、最近仕事が見つかったって奴が何人もいるんでさぁ。それで、年寄りだけの家に食料を配達してやりたいんでさぁ」

 ああ、ガイル、貴方って人は……。貴方って人は……。

「心配だわ」

「アネキ、確かに俺達が昔してたことを考えれば、食料をちょろまかそうとしてると心配かもしれない、だが、そんなことは」

「ごめん、違うの。心配って、そうじゃなくて……。私たちの行いを良く思わない連中から、ガイルさんが狙われるんじゃないかと思って。もしくは、食料を狙った人に襲われるとか……」

 まだ、聖女姿の私を狙った連中が、聖女の行動を不満に思っているとしたら、配達中のガイルさんも狙われるんじゃないだろうか……。

「アーネーキーっ」

 ドドドっと、滝のように涙を流すガイルの顔。お、男泣きってやつか?

「俺の身を、俺の身を、心配してくれるなんてっ、一生アネキについていきやすっ」

 今にもガバリと抱きつきそうなガイルさんを、エボンさんが引っ張っていった。

 遠くで、オーシェちゃんがグッジョブポーズをしている。

 おばあちゃんには、後で配達するからと帰ってもらった。

 私、炊き出しだけにしか頭がなかった。ガイルさんのように、街で暮らし、街の人たちと繋がっていないから分からないことが多いんだ。

 炊き出しに並ぶことすら出来ない人がいる、その人たちに寄り添うことも必要だ。配達関係は、改めてチームを組んでガイルさんに先頭指揮を取ってもらおう。

 今日の反省会に、色々と話合わなくては。

 王都での炊き出しの成功だけで満足していてはだめなんだ。近隣の街の様子を知るのも必要だろう。

 昨日訪れた二人目の貴族が、友人の領主が戦争の準備を命じられたと言っていたし、王都以外の様子から分かることもあるはずだ。

 頭の中が、ぐちゃぐちゃだ。

 こういうときは、ノートに書いて整理するのが一番だ。反省会の前にでも時間が取れたらノートを書こう。

 アラフォーなめんなぁ!

『仕事の出来る人、できない人~上手なノート整理術~』は既読だ。

 ……。おかしいな。なんで万年派遣社員なんだろう?役立ってないのかな……凹。


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