157 真の秘密と見返り
紙を作ることはただのカモフラージュだ。
堂々と蔓を切り取ることができる。堂々と、秘密を持つことができる。秘密という単語を前面に、役人の立ち入りを制限できる。
そう、秘密裏にサツマイモの栽培ができる。
種芋ではなく、苗を使った栽培が。
モヅさんに、種芋保管の倉庫を見せてもらったときに、ジャガイモもサツマイモも同じくらい保管されていた。
そう、こっちの世界では、ジャガイモもサツマイモも同じように種芋を使った栽培をしていたのだ。
アラフォーなめんなぁ!
サツマイモの栽培は、前述のとおり家庭菜園講座で学習済みだ。ベランダプランターじゃ無理だから栽培は諦めたけどね、しっかり覚えてたんだよ!いつか、広い庭付き一戸建てに素敵な旦那さまと暮らすときのために。
……。いつかって、いつ?凹。
サツマイモは、ジャガイモと違うんだよ。
ジャガイモは、園芸店で種芋が売っている。だけど、サツマイモはね、種芋じゃなくて、苗が売ってるんだ。苗から育てるんだよ!
苗は、サツマイモ一つから、十~二十は取れる。
つまり、種芋は今の十分の一以下の量でいいってこと。
九割以上は種芋として必要なくなる。
だから、つまり……
食料に回せるってことだ!
だけど、種芋が必要ないっていうことを役人に知られ、陛下の耳にはいってしまったらおしまいだ。
種芋として必要がないなら、その分税金として出せと言われてしまうだろうから。
だから、種芋ではなく苗でサツマイモを育てるという秘密は、絶対に漏らすわけにはいかない。
本当は、越冬苗という方法もあって、限りなく種芋はゼロにできるんだけど、流石に栽培が難しくリスクが大きい。だから、初めは種芋から苗に切り替えて栽培する量は少なめに。徐々に増やしていってもらうしかない。
万が一、こっちの世界の気候やら風土やらが、苗栽培に向かないっていう可能性が無いわけでもない。
「しかし、怪しいな」
エロキモ陛下の言葉にハッとする。
いや、肝が冷えたけれど、言葉が通じていないことになっているから表情に出さないように必死に驚きを抑える。
怪しまれた、なんで?
「この話、予にはいいこと尽くめのように聞こえるが、何が本当の望みだ?」
え?
「これだけのものを予に与えて、何を望む?」
エロキモ陛下が紙をぴらぴらと振ってみせる。
そうか!
見返りを要求しなくちゃならないんだ。
ただほど怖い物はないというけど、エロキモ陛下の世界はまさにそれなんだ。
美味しい話を持ってきた商人。何の見返りも無く、美味しい話を陛下に持っていく人はいないんだ。
どうしよう、考えていなかった。
ここで、国民のためになるような要求をしてはまずいよね。
本当は、減税だとか、炊き出しだとか、色々要求したいことはある。でも、そんなことを要求して、果たして陛下は飲むだろうか?
悪政だと遠まわしに責めているように思われないだろうか?
せっかくここまで上手く言ったのだ。失言するわけにはいかない。どうしよう。
紙が陛下に与える利益は相当のものだろう。
それ相応の価値のある見返り……。
何を望めば不自然じゃなくなる?
例えば、王家との繋がり?妹さんを嫁にくださいとか?
だめだめ。すっごく色々問題があるよ。ランちゃんはいないし、わたしは女だし。
どうしよう、どうしよう。
ぐるぐる、私は「おぬしもわるよのぉ」って言われる商人だとしたらと必死に想像する。金か?
いや、金はだめだ。陛下からむしりとると、その分が国民に増税という形で転嫁してしまっては元も子もない。
ああ、思い浮かばないよ、どうしよう。焦って、手に持っていたサツマイモを取り落としてしまう。
コットン。
小さな音なのに、大きく聞こえる。
ウルさんがすかさずサツマイモを拾い私の耳元で声を掛ける。
「いかがいたしましょう?」
どうしたら良いんだろう?困った顔でウルさんを見たのかな?ウルさんが小さく頷く。
「お任せいただいても?」
え?何かいい案があるの?任せる任せる。こくんと頷く。
陛下には、サツマイモを拾って渡して、ありがとう、どういたしましてくらいのやり取りに見える時間。
なんだかツーカーなウルさんすごい。
「我が主が望むことは二つです」
え?二つも望むの?私は一つも思い浮かばなかったというのに……
「申してみよ」
「一つは、陛下の親しい方々をご紹介ください。買っていただきたいものがございます」
「ふ、そんなことでよいのか?紹介状を用意させよう」
なるほど。商人だもんね。客を紹介してもらうのは利になる。しかも、陛下の親しい人間ということは、貴族、それも上流の者たちだ。商人としては美味しい客ばかりだろう。しかも、陛下の紹介とあっては、無碍にもできないはず。
ウルさんは陛下の返事を待って、再び悪人面をする。
演技演技。
「ありがとうございます」
そうだ。私も、陛下ではなく、貴族たちに物を売って、広く浅く金を得ようとしていたんだからちょうどいい。
ウルさんってば、ナイス!
「して、もう一つの望みはなんだ?」
「国境を越えるにあたり、永久特別許可証の発行を」
何?
「くははっ。なるほど。国を越えて荷を運ぶ商人にとっては、喉から手が出るほど欲しいものだろうな。関税がかからないだけで、どれだけ利益が上がるか」
あ、そうか。貢物を運ぶときに関税とか荷検めとか色々免除されつっていうアレか。
ずっと中身が何か確認されることもなく物が運べれべ、そりゃぁ、私の計画には有難い。
だって、大量の食料を運び続けたらあやしすぎるもんね。
これまた、ウルさんよく分かってくれてる。
「よい、くれてやる」
陛下はそれだけ言うと、カーベルさんに鼻で指図して退席していった。
「すぐに、紹介状と許可証をご用意いたします。しばらくお待ちください」
カーベルさんの目が冷たい。何だろう?




