155 いざ謁見
馬車へは、私とウルさんが乗り込んだ。
御者はエボンさん。
オーシェちゃんとオージェちゃんは、打ち合わせ通り、城へは行かずに情報収集。
馬車の中で、ウルさんと最終打ち合わせをする。
久しぶりの城壁の中。気になって、城薔薇宮の方を見るけれど、遠くて様子があまり分からない。
「馬車をお預かりいたします」
門をくぐってしばらく行くと、兵の一人に止められた。
「あっ」
思わず声が出る。
白薔薇宮の警護の一人、男子高校生兵だ。
よかった。白薔薇宮から私たちがいなくなったことで、城を追われたりしてなくて。
馬車を降りた私の姿を見ても、男子高校生兵は特に反応を見せることはなかった。
よし、リエスだとバレてない。
「陛下がお待ちです。ご案内いたします」
高校生兵に気を取られ、声が掛けられるまでそこに立つ人物に気がつかなかった。
カーベルさんだ。
慌ててウルさんにごにょごにょ。
「カーベル殿、感謝いたします。陛下に例のものをお渡しいただけたおかげで、こうして謁見が叶いました」
カーベルさんは、どういたしましてという意味なのか、軽く頭を下げただけだ。
「こちらへどうぞ」
カーベルさんの後をついていくと、いきなり謁見の間に通された。
ああ、ここは……。前にここで呪いの印を見せて言いがかり付けられて拘束されたんだった。
嫌な想い出が蘇る。
エロキモ陛下は、メープルシロップの入った水入れを片手に壇上の椅子に座っている。
「顔を上げよ、発言を許す」
陛下の言葉を待ち、顔を上げる。
そして、打ち合わせ通りの言葉を、さも通訳しているかのようにウルさんに発言してもらう。
え?私ですか?私はここから日本語です。
『久しぶりですね。エロキモ陛下。また少し太ったんじゃないですか?そうそう、今はルイスと名乗ってるからよろしくね(日本語)』
「謁見をお許し下さり、恐悦至極にございます。わたくしは、ルイスと申します。大陸の東の海に浮かぶ小国の商人にございます」
エロキモ陛下は、こちらの挨拶が終わるか終わらないかのうちに、口を開いた。
って、そんなにメープルシロップ早くくれくれかよ?
「挨拶などよい、聞きたいことがある」
『メープルシロップの値段? (日本語)』
「なんなりと」
エロキモ陛下は、右手に持つ水入れを持ち上げて揺らした。
「この食べ物を予が目にするのは二度目だ」
エロキモ陛下は、言葉を一旦切ると、濁った目に少しの光を宿して、私の顔を睨み付ける。
「あの女と、どういう関係だ?」
あっ!
そうか。こんなにも謁見を早めたのは、何もメープルシロップが欲しかったからじゃないんだ。
メープルシロップというアイテムが、リエスとの繋がりを思わせ、それを確かめたかったからなんだ。
そして、ランちゃんたちの行方を捜しているに違いない。
ちょっと、相手がエロキモ陛下だからって、馬鹿にしすぎてた。こういうのを油断って言うんだ。もっと、気を引き締めないと。
ウルさんが、私の耳元で、エロキモ陛下の言葉を訳すふりをする間に気持ちを落ち着ける。
大丈夫、まだ想定の範囲内。リエスのことを聞かれる可能性も考えて、ウルさんと打ち合わせしてあるから。
ウルさんにごにょごにょ。
「あの女とは、どの女のことでしょうか?」
「決まっておる、黒目で、短い黒髪の貧相な女だ」
『貧相とはなんだ! (日本語)』
「残念ながら、そのような女性は存知上げません」
エロキモ陛下が、疑いの眼差しを向ける。
っていうか、貧相っていう説明で通じていると思われるのも……凹。
「では、これはどうした?貧相な女から受け取ったのではないのか? 」
『くそぅっ、また貧相って言ったな~(日本語)」
「いいえ、残念ながら違います」
ああ、日本語で言いたいこと言えるのは、意外とストレス発散になるわ。
今のところウルさんの自己判断の言葉に任せておけば大丈夫。
「では、どのようにして手に入れたのだ? 」
あれ?打ち合わせしてないこと尋ねられちゃった。
ウルさんが私の耳元で訳すふりをして「私にお任せ願えますか?」と尋ねてくるので、小さくうなずく。
『入手経路を奪おうって思ったってそうはいかないんだからね!(日本語)』
「キュベリアのとある富豪のツテで入手いたしました」
「富豪?」
ウルさんは、私に訳す動作なくして、私の顔をちらりと見て発言を続けた。
「ご婦人の名誉のため、お名前を申し上げるわけには参りません」
何で、今回に限り訳すふりをしないのかと思えば、僕ルイスに聞かせたくない内容というわけか。
でも、そんなんで納得するか?と、成り行きを見守れば
「なるほど。ルイスとやらは、なかなかの手管の持ち主というわけか? 若いのにというべきか、若い者を好むご婦人も多いからな」
エロキモ陛下はいやらしい目つきで、私の顔を一瞥する。
ウルさん、ひどい、ルイスを、ツバメかヒモかホストか、女をたらし込んでいいように操る少年の設定にしたな!
「して、これからもコレは入手可能なのか? 」
エロキモがメープルシロップの入った水入れを持ち上げる。
あら、入手経路の詮索はあっさり終了ですか。
ウルさんのホスト設定はちょっと切ないけれど、効果は抜群だね。
さすが、男女がいれば、すぐにシモ発想のエロキモ陛下らしい。
ウルさんが、耳元で通訳のふり。
『さぁて、本番はこれからだぞ、気合だー!(日本語)』
「お望みとあらば」
ふんっとエロキモ陛下は鼻を鳴らす。
カーベルさんが、さっと歩みより、エロキモ陛下から水入れを受け取り傍を離れた。
鼻で人をこき使うとはこのことか!ったく、少しは動け。動かないから太るんだ!
「では、用件を聞こう」
エロキモ陛下の言葉を合図に、秘密保持のための第二幕の幕が開けた。




