154 吾妻さんへの連絡
「エボンさん、ボリュームが必要ってことですか?例えば、宝石とか小さくて高価なものじゃだめなんですか?」
「ああ、そうですね。馬車一台分の貢物に匹敵する価値のあるものであれば大丈夫でしょうね」
よかった。
贈り物、全然ボリュームないもんね。
それに、本当の贈り物は、儲け話なわけで。品物ですらないんだから。
「貢物というのを利用するのも、一つの手かもしれませんね」
「利用するってどういうことですか?」
ウルさんが、何やら思案するように顎をさすっている。
「キュベリアの国境の町で、馬車ごと小麦を買い取られましたよね?もし、トルニープに運び入れるのであれば、不自然ではなく荷馬車を通過させることができるのではないかと」
「でも、結局それって貢物にしなくちゃいけないんじゃないの?」
せっかく小麦を手に入れたのに、また陛下にぶん取られたんじゃぁ意味がない。
「王への貢物を運ぶ際は、特別許可証が発行されます。関税免除、通行料免除、そして中身検め免除となります」
「中身検め免除?じゃぁ、小麦を積んであるってことは誰にも分からないで運べるってこと?」
「そうなります」
「で、中身を適当に摩り替えてお城に馬車を運べばいいのね?」
「ええそれでもいいでしょう。ですが、」
ウルさんが悪い顔をした。
「荷馬車が盗賊に襲われることもありますよ?」
なるほど。
お主も悪よのぉ。
「まぁ、今回一度しか使えませんが。商人として大手を振って活動できるようになれば、荷馬車を頻繁に行き来しても怪しまれることはなくなるでしょう」
「じゃぁ、早速、小麦を運んで」
「そうですね。小麦はモヅさんの村に協力してもらい、隠しましょう。荷馬車は、トルニープの紋を外してすでに偽装してありますから、すぐにでも出発の合図を送ります」
すごい。ウルさん有能だぁ。
私の頭じゃ思いつかないことをどんどん進めてくれる。
「それから、馬車を一台用意しましょう。ルイス様も馬に乗ってばかりでも疲れるでしょう」
出た!ウルさんの過保護が!
「大丈夫だよ。馬も慣れたし、城までそんなに距離があるわけじゃないし」
長距離を移動するときに皆で乗るためならあってもいいけど、歩いていける距離の城へ行くためだけに馬車を用意するなんて、贅沢すぎるよね?
「打ち合わせなど、人に聞かれたくない話を移動中にもできるますよ」
と、ウルさんの言葉に、白旗。
「じゃぁ、お願いします」
馬の数がないこの世界は、当然馬車も荷馬車も少ないわけで。それなのに、パッと用意できちゃうなんて、ウルさんってすごいよね。
ウルさんじゃなくて、その上の吾妻さんがすごいのかな?
「では、我々は早速準備に取り掛かります。打ち合わせは明日、朝食後にでも行いましょう。ルイス様は少しお休みください」
といって、皆出て行った。
ウルさん、やっぱり過保護だよ。私ばっかり休んで申し訳ないよ。
と言いつつ、明日のために英気を養うのも私の仕事だよね?
蒸しタオル、蒸しタオル。
再び電子レンジでチンッ。
「はぁー、気持ちいい~。」
気持ちがゆるーんと緩む。ああ、駄目。明日のこともうちょっと考えないといけないのに。
まぁいいやって思っちゃってる。
まぁいいや。
少し休もう。
「うぎゃーっ!寝過ごしたぁ!」
やってしまった。
「少し休もう」って寝ると、絶対朝まで寝ちゃうよね?え?私だけ?
もうすっかり朝です。
「荷馬車の手配終わったよ」とか「貢物の特別許可証の発行してもらいました。今後のことも考えて、いくらか複製しておきましたよ」とか「モヅ村での打ち合わせも終わりました」とか、報告いっぱい受けました。
すいません、1人働かずに寝てました。
というか、複製しておきましたって何?
公文書偽造とかそういう話?き、聞かなかったことにしよう。
何処までもウルさんすごすぎです。
っていうか、やっぱりさらっとそういうことができちゃうって、暗殺集団っていうか隠密集団?
忍者系?
吾妻さん、忍者の主将?
まさか、吾妻さん……異世界で忍者文化を広めるどころか、忍者集団を作り上げましたか?
「ニンニン……」
はっ!
しまったー!思わず口に出しちゃった。
アラフォー女子が、ニンニン言う場面、ありました!
「ニンニン?何ですか?」
ウルさんに聞かれてた~!恥ずかしい。っていうか、ニンニンが通じないということは、吾妻さんは口にしたことないんだ。
はっ!そうだ、うっかり寝ちゃったから、昨日吾妻さんにメールしてない!
「ちょっとここで皆待ってて」
部屋に残して、人目のない階段の踊り場へ。
携帯取り出しすと、吾妻さんからメールが。
『疲れているのなら、無理しなくていいよ』
って、うわーっ。
『ごめんなさいっ。うっかり朝まで寝てました。昨日、トルニープの王都に到着しました。カーベルさんという元宰相に会いました。今は執事をしていました。』
慌てたものだから、小学生の絵日記みたいな報告になってしまった。
人の足音が聞こえたので、携帯を鞄の中に押し込み、手探りで送信ボタンを押し、何事も無かったかのように部屋に戻る。
あれ?
どうして、吾妻さんは、私が疲れていると思ったのかな?
まさか……
ウルさんが、私の行動を報告してる?そんなわけないよね?
「あの、ウルさん、ボスへの連絡は……」
「そうでした。まだ伝えてありませんでした」
え?伝えてるの?
「エボン、オーシェ、オージェ、これからルイス様のする行動に関してボスへの報告は必要ありません。ボスへの連絡を必要とするのは、ルイス様に危険が迫った時だけです。いいですね?」
伝えるって、エボンさんたちに伝えるってことか。
「ルイス様、ボスへはルイス様に何かあったときと、ルイス様と行動を別にしたときに連絡を入れることになっています」
「ありがとう」
ウルさん……ごめんね。疑っちゃって。ウルさんはやっぱり信用できる人だよね。
そうか。吾妻さんにとってウルさんから連絡が無いってことは、私が無事っていう証なんだ。便りの無いのは元気な証拠ってやつだね。無事なはずの私から、来るはずのメールが来なかったから、吾妻さんは私がメールもできないくらい疲れていると思ったのかな。




