146 オーシェちゃん
さて、本番はこれから。
ミリュグループ1班の灰汁の秘密や、新たにできた2班の手動ミキサーの秘密、3班の紙すき方法の秘密、ムヤグループの薪置き場の秘密は、ただのカモフラージュでしかない。
本当の秘密はこれからだ。
それぞれが、与えられた作業に没頭している間に、畑へと向かう。
念のため、畑の中でも奥まったところにモヅグループを集める。
役人に漏れてはいけない秘密。秘密を漏らしそうな村人にもそれは秘密にしておかなければならない。だから、こんな回りくどい方法を取ったのだ。
これから、周りの村に教えて回るオーシェさんたち3人にも徹底してもらうよう、念を押す。そう、一つの村から秘密が知れ渡れば、せっかく隠し通した他の村の苦労も水の泡になるからだ。
まずは村長自体が信用に値するか、そこから始めなければならない。村長が信用できないとなれば、残念だがその村では諦めるしかない。
一通り、私の知っている限りの話をする。
そして、今あるサツマイモで簡単な実演。実際は、今やっても何にもならないけれど、やり方だけ教える。
それから、1年目にはどれだけ成功するか分からないため、経過を見ながら徐々にその先へと進んでもらうようにお願いした。
もしかして、もしかするけれど、日本と土壌や気候が違って、私の知識が全く役立たない可能性もあるからだ。
慎重第一。うん、軽率な行動はだめ。
説明を終えると、モヅグループメンバーの顔はとても明るいものになった。しかし、これから長く、村人に秘密を抱えることに対して少しばかり緊張の表情も見える。
本当は、皆仲良く、隠し事をせずに暮らせるのが一番だよね。
これも、全部あいつのせい。1人肥え太ったあいつのせいだ。
いや、そのあいつを諌めない周りも悪い。まぁ、諌めようとする人間をことごとく排除しているんだろうけど。
独裁……その言葉の重みを感じる。何故、そんなことがまかり通るのか。
いいや、まかり通るはずが無い。
『沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす』だ。
長く続くはずは無い。いや、長く続かせてはいけないのだ。
私には革命を起こすだけの力はない。いや、それだけの精神力が無い。どれだけいい訳しても、結局自分が一番大事なのだ。
私のせいで人が傷つくのを見たくない。心が傷つきたくない。
ああ。だからせめて、国民が希望を持てるように。希望を持ったときに立ち上がれるように。
疲弊しすぎて、絶望しすぎて、何も考えられなくならないように。
1人でも希望を持ち、世の中を変える力を持てるように……。
さぁ、村人を守るために、エロキモ陛下んとこに行って、村が製造の秘密を持つことを理解してもらわないとね。
貪欲な男だから、特定の村に作らせ貴族たちの介入を許さないとかなんとかそっちの方向から攻めれば、製造を秘匿することに異を唱えないとは思うけど。
うん、それよりも、エロキモ陛下って、陛下って言うくらいだから、一国の王様なんだよねー。
一介の商人ルイスが、王様にお目通りする方法も考えないとなぁ。
今日中に王都に到着する予定だったけれど、日はすでに傾きかけている。
紙作りの伝授もまだ途中だ。
今日は、村に滞在することにした。村長の家に泊めてもらえることになった。ウルさんと2人のときに案内された部屋では、流石にオーシェさんたちと合流して5人になったので狭い。
広間に雑魚寝させてもらうことにする。
広間には、私たちしかいないので、もう通訳設定解除。
はぁ。自分で話すって、ストレスたまらなくていい。いちいち、言いたいことを口に出す前にぐっと飲み込んでウルさんの耳元で言うのは結構疲れる。ああ、でもうっかり言わなくて良いことまで言わずに済むのはいいのかも。
「ルイス様は、お部屋でお休みください。まだ体調も万全ではないのですから」
と、ウルさん。
いやいや、通訳設定解除したから、ルイス様って呼ばなくてもいいんだけどな。
しかも、1人だけベッドとか、気が引けるんだけどなぁ。
そうだ、レディーファーストで、オーシェさんと私の2人が部屋を使うってどうだろう?
「じゃぁ、オーシェさんと私の2人で」
「ひっ、わ、わ、私?」
オーシェさんがとんでもない声を出す。
え?何?もしかして、上下関係とか厳しい?年功序列で、エボンさんとかを優遇しないとだめだった?
「あの、姉は、まだその……」
オージェくんが言いにくそうに言葉を濁す。
何だ?
「ああ、言ってなかったかな?ルイス様こと、リエス殿は女性だ」
ん?
あ?
そうだ、簡易男装メイクにサラシ姿だった。
「ええ、ええ、ええーーーーっ本当に、本当に?!」
オーシェちゃんが、素っ頓狂な声を上げる。
いやぁ、そこまで驚かれるなんて、私の男装のテクもなかなかね。
「残念だったねお姉ちゃん。ルイス様カッコいいって言ってたのにね」
「きゃーっ、オージェ、な、な、何言ってんのよっ!」
「え?カッコいい?うれしいなぁ。良かったら、メイクの仕方教えようか?」
うん、オーシェちゃんみたいにかわいい子に褒められると、嬉しいもんだ。うはは。
いや、ちょっと待て。
えーっと、思い出そう。
男だと思われてるルイスが、オーシェちゃんと二人でベッドのある部屋を使おうって提案したってことは……。
「ああ、ごめん、さっきは驚かせちゃったね。女同士で部屋を使おうっていう意味だったんだけど……」
と、謝ると、オーシェちゃんは顔を真っ赤にして下を向いた。
しまった。恥ずかしい思いをさせてしまった。スルーするべき話題だったか。重ね重ねごめん。
「だけど、リエス様はすごいなぁ。お姉ちゃんと話てたんだ。まるでボスみたいだって」
「ああ、様なんてつけなくていいよ。ボスみたいって、やっぱり言葉が訛ってるから?」
私の言葉に、下を向いていたオーシェちゃんが顔を上げて、勢いよく首を横に振った。
「違う、違う、そんなことじゃないよ。リエス様は、本当にすごいよ!サツマイモや紙の知識にしてもそうだけど、何と言っても何十にも秘密を重ねて欺く手法とか、すごく頭が回って。しかもそれが私利私欲じゃなくて、みんなのために尽力してるんだもん」
キラキラした目がまぶしいです。
これは、アレだ。アレ。
憧れの先輩に向けるまなざしという、アレだ。
私もお局さまとして煙たがれるのではなく、憧れの先輩になることができたのか。
「オーシェちゃんも、様はいらないよ。それに、私はそんなにすごくないよ。たまたま思いついただけだし、たまたま知っていただけだから……」
「そう言って謙遜するところまで、素敵です!」
目のキラキラ度が20パーセントアップしました。
きゃーっ。タスケテ……。若さがまぶしい。情熱がまぶしい。
「リエス様、結婚してください!」
え?
え?
えーーーーっ?!




