145 粉砕
台所に移動し、先ほど目にしたものを手に取る。
「これ、借りても……いえ、頂いてもいいですか?」
と、ウルさんに通訳してもらう。
「ああ、もうすでにこちらに……」
と、村人に竈の火を指さされるが、今欲しいのは火じゃない。
この火をおこすための道具だ。
弓のような形をしたものがあり、真ん中の棒に弦の位置にあるに紐を巻きつけてある。棒を立て、弓状のものを前後あるいは上下させることで火をおこす道具だ。
私が、この火おこしの道具を欲しがったものだから、村人が気をつかってすでにおこしてある火を教えてくれた。ほんと、よく気が付く村人だ。新卒新入社員とは……以下略。
火おこしの道具をもらいうけ、広間の一角に戻る。
そしてウルさんに、先ほどの改造手裏剣を、棒の先に外れないように取り付けてもらう。
よし、これで手動ミキサーの完成?
火をおこすために、棒を高速で回転させるよね。だから、この火おこしを使えば、ミキサーの刃、別名改造手裏剣が高速で回り、ミキサーのような働きをしてくれるはず。
試しに使ってみよう。
って、待てよ?
ミキサーを使う時の大事なポイントがあったよね。
それは、回っている間は、決してふたを開けるな!ということだ。
間違ってふたをせずにミキサーのスイッチをオンしたら、どうなるか……。
そう、まるで電子レンジで卵をチンしてしまったような悲劇が訪れる。ブシャーッっと、飛び散る。飛び散る。
んぎゃーっと思った時には、辺り一面、凹光景。掃除が。はぁ。
というわけで、この手動ミキサーを試しに使ってみるには、容器と蓋がいる。もう一度台所へ戻り、実験用の容器を物色。
小さな鍋を手に戻る。そして、蓋になるように、木の板に棒の通る穴をあけてもらうようウルさんに頼んだ。
木で大丈夫かな?それこそ、摩擦で火がつかないだろうか?
とりあえず今回はテストだけなので、ミキサーとして使えるようならもう少し容器や蓋も考えないと。
ウルさんが木の加工をしている間に、持ってきてもらった粘土で大きなどんぶりのようなものを形作る。
アラフォーなめんなぁ!「日曜エンジョイ陶芸教室」に3か月通った成果を今見せてあげる!って、ろくろがないので、てびねりでどこまでできるか……あまり上手にできません。
見かねた、2班の一人が、身振り手振りで手伝いを申し出てくれた。
「こいつ、こういうの得意なんだよ。村の食器はほとんどこいつが作ってるんだよ」
と、別の人が、自分のことのように手伝いをしてくれる男の人を褒めている。
もちろん、言葉が分からない設定なので、あいまいに笑って首をかしげることを忘れない。
私が途中まで形を作ったから、どのようなものを作りたかったか分かったようで、大きめのどんぶりの形をきれいにひねり出してくれた。
すごいやぁ。やっぱり、3か月の俄か陶芸師にはまねできません。
おっと、これで完成じゃないのよね。
ちょうど戻ってきたウルさんに、頼んで通訳してもらう。
2班の、力仕事担当に一人配置されてた女性に話しかける。
「あ、はい、ありますよ。今持ってきますね」
女性が自宅から、櫛を持ってきてくれた。
2班の一同が何をするのか私の手元に注目してる。
櫛を、どんぶりにあて、筋を付ける。
そう、すり鉢だ。
ミキサーが上手くいかなかったら、すり鉢で細かくしたらどうかと思ったのだ。
筋をつけ終わったところで、櫛を洗いに台所へ。きれいに洗って、それから刻んだサツマイモの蔓と葉を少しと水を先ほど選んだ容器に入れて広間へ戻る。
すり鉢は、天日に干してから焼くわけで、出来上がりまで何日かかかる。
まずは、ミキサーの実験。
容器に、改造手裏剣付火おこし器をセットし蓋をする。
「火をおこす要領で勢いよく回してください」
火をおこすより、水とサツマイモの蔓と葉があるため、抵抗力があり力がいる。
初めはそれに戸惑って、うまく勢いをつけられなかったようだが、力仕事担当の2班のメンバーだけのことはある。コツをつかんだとたんに、力強くぐいぐいと弓を引き棒を回した。
およそ3分ほど。
「もういいでしょう」
動きを止めてもらい、ふたを開ける。
どうだろう、できてるだろうか?
容器の中を恐る恐る覗き込む。どうか、できてますように!
ん!
台所へ走る。
1班の人たちは、何度目になるかわからない私の登場に、今度はなんだろうと視線を送る。
木皿を一枚手に、広間へ戻る。
容器の中は、室内の薄暗さも手伝ってよく見えなかった。
というわけで、容器から皿に流しいれる。
どろっとした、液体。
そう、水とサツマイモの蔓と葉が、どろっとした液体に変わったのだ。
しまった……よく洗ってから作れば飲めたのに。改造手裏剣をはじめ、すべての材料洗ってない。って、見た目青汁だけど、青汁じゃなかったよ。
成功だ。うん、成功。
早速、2班には手動ミキサーを作ってもらうことにする。ウルさんは、運よく手裏剣を持っていたから形を整えるだけで手早くできたけれど、村人はそうはいかない。
ふさわしい金属の入手から、作業するための場所の確保と、他のグループに秘密裏に動くためとても時間がかかりそうだ。
とりあえず、粘土で作った刃の見本は置いていくし、一通り見ているから大丈夫だとは思う。
ウルさんの作った物を置いていくのが一番いいんだろうけど、ウルさんの作ったものは置いていく気はない。これはお土産にするんだ。
誰って、ふふふっ。食事に貪欲なあの人ですよ。当然。
これで、冷製スープを作ってあげるんだー。料理教室の知識を役に立てる時が来たわね!はっはっは。
……もう少し家庭的な役立て方がしたい……凹。
おっと、落ち込んでいる暇はない。次は3班。
一度、人目に付かないように部屋に戻り、鞄の中から、グランラで紙を作った時に使った糸を張った木枠を取り出す。
べ、別に、物が捨てられない性分だから持っているわけじゃないからね!
紙作りの伝道師として、トゥロンと旅してたから、持ち歩いてたんだよ。
……。そうだ。
トルニープの国境の街へは、紙の作り方を伝えながら旅したんだ。
懐かしい。
まだ、そんなに昔のことじゃないのに、もう何年も前のことのようだ……。
じわっと涙が上がりそうになるのをぐっとこらえる。
3班には見本を見せて同じものを作ってもらう。




