147 吾妻さんと結婚
け、結婚?私とオーシェちゃんが?
女同士だよ?
アレか?アレなのか?女子高のノリっていうか、ユリ的何か……。
しかし、付き合う通り越して結婚とか、そういうの流行ってんの?ラトといい。
流行ってるっていうか、こっちの世界ではそれが常識?結婚を前提としなければお付き合いがスタートしないとか?
ああ、ありうる。ん?じゃぁ、お付き合いをスタートしてるダーサとルーカは、結婚するってことかな?
こっちの世界の結婚式ってどんなのかなぁ。出たかったなぁ。せめてお祝いだけは送りたいなぁ。って、今は、そんなこと考えている場合じゃなかった。
目の前の、キラキラ瞳からどう逃れるかだ!
そうだ、ポプリ、ポプリ、恋愛運を下げるあの花のミイラたちはどこへやったっけ?
「リエス様、ボスと結婚してください!」
キラキラ瞳が、色よい返事を期待してさらに輝きを増す。
って、え?ボス?
ボスって吾妻さんだよね?吾妻さんは男だよね。
何だ。
よかった。オーシェちゃんと結婚するんじゃないんだ。
吾妻さんならいいよ。
……。
って、違う、よくない、よくない。
女じゃなくて男なら誰でもいいみたいな思考になってる!
騙されるところだったーーーーっ!
こんなうっかりで結婚決まるとか、あり得ないからーっ!
「もー、姉ちゃん、自分がボスと結婚したくないからって、リエス様に押し付けちゃだめだよ」
オージェくんが、キラキラ瞳を私から引き離してくれた。
何?ちょっと待って……
今、オーシェちゃんが吾妻さんと結婚とかなんとか……。
もしかして吾妻さん、「嫁に来い」って、誰にも彼にも言ってたりする?
見た目20代前半のオーシェちゃん、たぶん実年齢10代後半だよね。そんな若い娘に冗談でも「嫁に来い」なんて言ったらダメだよ。
っていうか、本気?常に本気?
いやまて、吾妻さんってオーシェちゃんの上司でしょ?セクハラじゃないか。若い娘にセクハラとか一番だめだよ。
しかも、立場上もしかしてオーシェちゃん、断るに断れなくて困ってるんじゃないの?
「お、押し付けてるんじゃないよ、リエス様なら、ボスとも釣り合いが取れてお似合いだと思ったんだもんっ」
「うん、そうだね。お姉ちゃんにはボスの妻なんて荷が重いよね」
「そうでしょ、そうでしょ!私なんて、ボスにぜんっぜん相手にされるわけないもん。それなのに、父さんったら……」
おや?ボスに相手にされない?じゃぁ、吾妻さんがオーシェちゃんに何か言ったわけじゃないの?
誤解して悪かった。あやまるっ。
「なんだ?ゾミンのやつは、オーシェをボスの嫁にやろうってのかい?」
今まで傍観を決めていたエボンさんが口を開いた。
「そうなんだよ。父さんは、お姉ちゃんをボスに嫁にしてくれと頼むつもりなんだ。俺の娘なら断るに断れないだろうとか言って」
オージェくんの言葉にエボンが小さく頷いた。
「そうだな、ゾミンの娘とあっては、無下に断ることもできないだろうなぁ。ボスのことだ、3年も粘れば首を縦に振りそうだなぁ。このまま断り続けていてはオーシェを傷つけるんじゃないかと思い悩んで……」
オーシェちゃんが両腕で自分自身をギュッと抱きしめた。
「きゃーっ。やだやだ、やめてー!私なんて、到底ボスの嫁が務まるはずがないよっ。あんな立派な人の隣に立つなんて考えただけでも、世間の目が怖いっ。なんだあの小娘って声が、声がぁぁっ」
何だろう、この、オーシェちゃんの怯えよう。
「お姉ちゃん落ち着いて。大丈夫だよ、ボスが選んだ人ならばって、祝福してもらえるよ」
「オージェ、私はボスとは結婚しないってば!結婚しないってばぁ!」
オーシェちゃん涙目。
「そんなに、ボスが苦手?」
嫌っているわけではないみだいだけど、そこまで結婚を嫌がるっていうのは他に好きな人でもいるのかな?それとも、何か吾妻さんに問題が?気になったので聞いてみた。
「苦手っていうか、もう畏れ多すぎて、ボスが半径5m以内にいるだけでド緊張なのよ!一緒に生活なんてできない。心臓持たないよ。それに、ボスにとって私は子供みたいなものだっていつも言われてるし。全く相手にされてないのに、同情で結婚とか、ないないっ!」
なるほど。畏れ多すぎるって分かる。
恋人にするなら誰とか、結婚するなら誰とか、いろいろタイプあるもんねぇ。
吾妻さんはオーシェちゃんにとって、尊敬の対象ではあるが、全く恋愛の対象じゃないってことね。
そもそも、年齢も親子ほど離れてるはずだよね?
っていうか、オーシェちゃんが推定17歳なら、私とオーシェちゃんも十分親子ほど年が離れてますね……凹。
「しかし、ゾミンの気持ちも分からないでもないな」
エボンさんの言葉に、オーシェちゃんがびくっとしてオージェくんの背中に隠れた。
よっぽどゾミン父ちゃんの結婚しろ攻勢が激しかったのか?
「ボスには結婚してほしい。幸せになってほしい。できればお世継ぎをという気持ちは分かる。いや、お世継ぎがなくとも、心許せる誰かと穏やかな時間を過ごして欲しいものだ」
ああそうか。
本当にみんなボスのことが好きで。そのゾミン父ちゃんも、ボスに幸せになってほしくて、幸せというのが家族を持つことだという考えがあって、結婚を推し進めようとしているのか。
そうだよね。一人はさみしい。
誰かがそばにいてくれる、その心地よさを知って居れば薦めたくなるよね。
吾妻さんは結婚してないんだ。きっと、誰かとお付き合いもしてない。
日本の秘密をうっかり漏らしてしまわないようにと、厳重にガードしているに違いない。
日本に帰ることを諦め、異世界で家族を持つことも諦め、吾妻さんは……強い心の持ち主なんだろう。
「私だって、ボスには幸せになってもらいたいよ!だからこそ、私じゃだめなんだよ。ボスのお荷物になるだけだもん。苦労を増やしちゃうだけなんだもん」
オーシェちゃんがお荷物になるとは思わない。
だけど、娘のように思っている子の前ではきっと弱みは見せられないだろう。吾妻さんが心許して弱い自分もさらけ出せる人が居ればいいのにね。
それか、ガンツ王のように、癒しのチュリ様みたいな人を見つけられるといいのにね。
「お姉ちゃんが嫁に行けば、僕の苦労は減るけどね」
オージェくんの言葉に、オーシェちゃんがほっぺたをぷぅっとふくらました。
あはははっ。かわいい。かわいいよ、二人とも!
思わず笑ってしまう。
見れば、エボンさんもウルさんも笑みを浮かべて二人を見ていた。




