116 演技派トゥロン
うん。
なんていうか、私が頼んだことなんだけどね?ちょっと複雑な気分だよね?
朝食時から、トゥロンは派手な身なりの女性を回りにはべらせ、腕を腰に回したり、胸元を覗き込んだりと。
ランちゃんとメイヤさんは顔を青くしたり赤くしたりしているが、朝食の準備の手を止めることは無かった。
兵は羨ましがっている者も居れば、眉をひそめている人もいる。朝食目当てで集まっているその他の人たちは、ひそひそと噂話をしている。
あまりに露骨にいちゃつくものだから「こほんっ、こほんっ」と、咳払いで行動を慎むように注意を促そうという人もいる。もちろん、トゥロンは聞こえないふりだ。
「どうぞ、皆さんもお召し上がりください」
トゥロンの周りの女性にも朝食を勧める。
私が動じることなく普通に接するので、ランちゃんとメイヤさんは複雑な顔をした。
「ねぇ、兄さんって旅の間はいつもああだったの?」
と、ランちゃんが耳打ちするので、返答に困る。
「いつもってわけじゃないわよ?」
と、言葉を濁す。まぁ、間者のイメージだと、情報収集のためにそういう店を利用するとかもありそうだし?完全な嘘ではないよね?重ね重ねごめん、トゥロン。家族からの評判ダダ落ちだよね……。
その後に、メイヤさんがエプロンを握り締めてやってきた。
「リーさん、ごめんなさい。あとでトゥロンを叱っておくから……」
何度も言うが、すまん。トゥロン。
できるだけ人目につくようにと頼んだため、うっとうしいくらい女性を引き連れてあっちでいちゃこら、こっちでいちゃこら。
演技だよね?
演技うまいね……。
昼食が済むと、キモエロ陛下からお呼び出しがあった。
えー?何よ?会いたくないんだけど~。今お腹いっぱいだし~。食べたもの吐いたらどうすんのよ~。とか思いながらも出向く。
「せっかくだから、教えておいてやろうと思ってな」
あら?陛下ったら、以前にもまして豚度が増してません?
ちょっと餌を与えすぎたかしら?
「使者が、守護し者の元についたようだぞ?あと数日で、あの印が本物か偽物かはっきりする」
はぁ、そうですか。
そうだ、吾妻さんに大丈夫と言ったけれど、印が本物だということだけは伝えてくれるように頼まないと。後でメールしておこう。
「偽物でしたと謝るなら今のうちだぞ?正直に話せば命を助けてやらないことも無い」
どうせ、命を助けてやるからこれからも料理しろとかそういうことじゃないの?
我ながら見事に胃袋掴んだな。
「本物だと分かっていただけるまで、あと数日なのですね?教えていただきありがとうございます」
私の言葉に、陛下が明らかに不機嫌な顔になる。
が、それも一瞬で、すぐにいやらしい顔つきになる。
「ところで、随分トゥロンは派手に遊び始めたようだな?」
あら、もう噂が届いてますか?
「あやつもただの男というわけだな」
ニヤニヤ顔が、気持ち悪い。だめ。食べたもの吐くから。キモエロ陛下の顔から視線を外して下を向く。
その行為がエロキモ陛下に誤解を生んだらしい。
「ショックか?あんな男やめて、予に乗り換えた方がよいのではないか?」
例え、トゥロンに愛想を尽かしても、キモエロに乗り換えるなんて地球が3度爆発したってありえません。
黙ったままうつむいているのを、ショックを受けて動揺していると受け取ったのか、追い討ちをかけようと言葉を続ける。
「どうやら、トゥロンは仕立て屋を呼んだらしいぞ?女性達にドレスを贈るらしい。お前にはそんな格好をいつまでもさせているくせにな。予なら、みすぼらしいお前にいくらでもドレスをプレゼントしてやるぞ?」
税金ででしょ。いらないわよ。人々を苦しめて得たお金で買ったものなんて!
それに私はドレスなんて興味ない。
それにしても、エロキモはトゥロンが演技していると疑いもしないんだね?
自分が基準になっているから、男は女を侍らすのは当たり前だと思うんだろうなぁ。
あのね、そんなこと望まない男も世の中にはたくさんいるんだよ?ドレスに興味ない女がいるようにね?
見事に騙されてくれてありがとう。エロキモ陛下よ。
仕立て屋にドレスを作ってもらうように頼んだのは、もちろん私だ。トゥロンは私がお願いしたように、3日ほどで仕上がるドレスをいくつか注文してくれるはずだ。
メイヤさんの畑にハーブの確認に行くと、歌声が聞こえてきた。
思わず立ち止まって耳を傾ける。青空に溶けていくような高く済んだ歌声。
歌が終わると、思わず拍手!
「メイヤさん、素敵でした!」
畑仕事をしながら、メイヤさんが口ずさんでいたのだ。
「リーさん、母さんは昔歌姫だったのよ!お城に招かれて歌を披露するくらいだったの!」
ランちゃんが、家から姿を現す。歌のうまいお母さんを誇らしく思っているようだ。
しかし、メイヤさんの顔は浮かない。
そうだね。お城に招かれて歌ったために、今のこのあまり幸福とはいえない現状があるのだとしたら……。
キモエロとトゥロンの父親であろう先王はどんな人物だったのだろうか。せめて、無理強いとかではなく、愛し愛される関係であったならば……。
「もう、昔のように声は出ないわ。今はランの方が上手よ」
と、メイヤさん。
「そうなの?ランちゃん歌って!」
ランちゃんが、照れながらも短い歌を歌ってくれた。
メイヤさんも上手だが、ランちゃんの伸びやかな声はパワーもあってより響く。
上手い!
そうだ!良いことを考えた!
「ねぇ、メイヤさん、ランちゃん時間ある?」
「ええ、特に急いですることもないし」




