117 歌うはハーモニー、秘密の道の危険な入り口
私は、2人の手を引っ張って白薔薇宮の1階の大広間へ連れて行った。ここは、舞踏会が開かれる場所なのか、ピアノに似た鍵盤の着いた楽器がある。
試しにちょっと鳴らしてみると音は少し外れているものの、鳴った。鍵盤の並びも日本のそれとは違うため茶色一色。シャープやフラットに当たるものはない。ドレミファファソラシシドというような音階だった。これならなんとかなるかな?
部屋の音が外に漏れるように、窓を開ける。でも、中が見えないようにカーテンは閉める。
ピアノは幼少から中学まで習っていたので、難しい曲でなければ引くことができる。
「ねぇ、ラララ、ラララララ、ラーラララ、と歌ってみて」
と、ランちゃんに日本ではおなじみの曲を歌ってもらう。
「次は、メイヤさん、ラララ、ラララララ、ララララララ、」
流石に元歌姫。一度聞いただけで完璧に歌いこなしてる。
「じゃぁ、次はいちにのさんで今覚えたものを一緒に歌って」
伴奏は私。ソプラノをメイヤさん。アルトをランちゃん。
曲のワンフレーズだけだけれど……身震いするほど素敵!そう感じたのは、私だけではなかったようだ。メイヤさんもランちゃんも高揚している。
「別々の歌なのに、一つになるともっと綺麗になるなんて……」
「今までたくさんの歌を歌ってきたけれど、こんなにすばらしい体験は初めてです」
こっちの世界ではハモッているのを聞いたことが無かったけれど、歌姫と呼ばれた人間でさえ知らないってことは、歌は独唱がほとんどなのかな?
私は、ハモルと綺麗な歌をいくつかピックアップして、続けてランちゃんとメイヤさんに教えた。
2人には内緒で、あることをしつつの練習だ。
「そうだ、今日はこれからハーブ探しに行かなくちゃ行けないから、また明日続きをしましょう?」
適当なところで切り上げて、明日も歌の練習をすることを提案する。
「ええ、色々な歌を教えてちょうだい!」
「母さんと歌えるのは楽しいわ!それに、リーさんはとっても演奏が上手なのね!」
あ、褒められた。ピアノは、才能がないと自覚してやめたんだけどなぁ。受験があったしね。
護衛2人を連れて、ハーブ探しに水辺近くの森へと向かう。このあたりの地理に詳しい人をとお願いしてあっただけに、色々との説明を聞くことができた。
そちらの林にはきのこが豊富だとか、あちらの川にはどんな魚がいるとか、こちらの山には木の実の種類がどれだけあるとか。
正直あまり興味はなかったのだが、興味深そうな顔をして聞いていた。
次の日も、同じように動いた。
朝からトゥロンは娼婦を侍らせる。
ランちゃんとメイヤさんとは歌のレッスン。
護衛を引きつれ、昨日とは別の場所へハーブ探し。
また次の日も、同じ。
トゥロンの連れている娼婦達の数は、10人に増えた。
そして、ドレスが届いたので、娼婦達は来たときとは別の真新しいドレスに身を包んで楽しげにトゥロンに送られて帰っていった。
ランちゃんとメイヤさんとの歌のレッスンは、4曲目に入っている。2人ともとても覚えが早い。私の方が曲のレパートリーがなくなりそうだ。だって、譜面無しで覚えている曲はそうたくさんないもの。
カーテンは閉めているが、大広間の窓は開いているため、窓から流れていく歌を兵たちも楽しみにしているようだ。
美味しいものは食べられるし、美しい歌は聴くことができるし、呪いの宮殿の警護ということで上司から無理に押し付けられた気分でしたが、今では皆に羨ましがられてますよ。と、兵の1人が私の警護をしながら教えてくれた。
護衛兵たちとも、かなり打ち解けることができている。
まぁ元々人懐こい人たちだっていうこともあるけれど、やっぱり朝昼と食事を共にしているのが大きいかな?
「今日は、ハーブ探しに北の方へ行ってみようかと思うんだけど」
「分かりました、馬は必要ですか?」
「確か、北には谷川があるんでしょ?そこまでは遠いの?」
谷川の向こうはキュベリアだ。トゥロンの話だと、谷川を挟んでキュベリア側には森が広がっている。森を抜ければ、私とトゥロンが最後に訪れたキュベリアの街に着くそうだ。森を抜けるには馬でも3時間はかかるらしい。
間者や密偵が使うような秘密の道があるらしい。秘密といっても、庶民には秘密だが、それ以外の者は結構知っている人も多いらしい。なぜなら、見たら道があるのがすぐに分かるからだそうだ。まぁ、馬が通れるような場所が森にあれば道だと丸分かりだよね。
でも、王領であり、一般市民の立ち入りが制限されている場所にあるから、さほど問題もないらしい。森は馬でも3時間かかるため、キュベリア側から森を抜けてこようという人もいないらしい。
さらに、例え戦争が起こったとしても道は狭く兵が大挙して攻めて来る心配もないと言う。
「そうですね、馬で行けば30分ほどでしょうか?」
っていうことは、歩いていくにはちょっと遠いね。
馬に乗って行くことにした。
「うわっ、怖いね!」
谷川に着くと、馬を降りて下を見下ろす。
川があるのははるか下の方。数メートル先はキュベリアだというのに、とても行けそうにない。
どこか、川へ降りて渡れそうな場所はないかと、しばらく谷川沿いに足を進める。
「もしかして、あれが秘密の道?」
全然秘密になってない。
「ええ、そうです」
谷川に、小さな橋が架かっている。
橋があるとか、全然隠す気ないよねー。
「うわー、怖そう。これ、ちゃんと渡れるの?」
橋に近づく。
頼りなさげなロープが渡してあり、木の板が一応乗っている。木の板は隙間だらけで、下が丸見え。ところどころ抜け落ちているようにも見える。
「僕は渡りたくないですねぇ」
兵が肩をすくめた。
もう1人も、同意するように首を縦に振る。
あまり橋に興味を持ちすぎるのも怪しまれるといけないので、そのまま通り過ぎた。
少し行くと、今までとは違う様子の場所が現れた。




