112 ユータの母からの手紙
朝食が終わって、部屋に戻る。
昼食はサンドイッチにしようと思っているので、特に準備はかからない。あらかじめ指示して、今マヨネーズを作ってもらっている。泡立てる文化が発展しなかったためか、根気よく混ぜる文化もないみたいなんだよねー。
深呼吸一つ。
ベッドに腰掛けると、鞄から手紙を取り出す。慌てて何度も突っ込んだため、ちょっとしわくちゃになってしまった手紙を手アイロンで整える。
「えーっと」
『佐藤様
悠太宛のお葉書、確かに受け取りました。
悠太本人に渡したいのは山々ですが、生憎と悠太は今は居ません。連絡の取りようもありません。
連絡が欲しいということでしたので、お返事をお待ちしていると申し訳なく思い、ご連絡した次第です。』
……。……。
帰ってないの?日本に?
『ご存知かどうか、分かりませんが悠太は高校生の頃に行方不明になりました。』
……。知ってる。
『何年もたち、諦めたころにひょっこり帰ってきました。』
!
「帰ったんだ!日本に!ユータさんは、日本に帰ったんだ!」
ああ、ああ……
ああ……。
涙が、両ほほを伝う。
良かった。ユータさん帰れたんだ。良かった。
「私も、帰れるよね?帰れるんだ。日本に……!」
ぽたぽたと、滴が手紙に落ちる。
『行方不明だった間の記憶は全くないと言うのですが、あちこち旅をしていたことだけが記憶に残っているそうです。』
うん、確かに帰り道を探して旅三昧だったみたいだよね。
何処に行ってたとか、色々説明するのも大変だから、記憶喪失と言うのは無難かもしれない。
っていうか、下手に本当のこと「異世界に言ってました」なんて言ったら、頭大丈夫か~?ってなるよね?
『そのせいなのか、返ってきてからも世界中を旅するようになりました。ふらりとどこかへ出かけては帰ってくる生活です。今は何処で何をしているのか分かりません。』
おいおい、ユータさん。散々親に心配かけといて、まだ心配かけるようなことするのか?
っていうか、一体何の旅に出てるの?
もしかして異世界に通じる穴探し??
あっちの世界から迷い込んだ人を助けたいとかそういうことしてたりして?もしくはこっちに戻りたいとか?
日本に戻った時の穴は使えないわけ?一方通行なの??うーん、分からない。
『いつもなら、3ヶ月に一度程度の頻度で連絡があるはずなのです。連絡がありましたら、佐藤さんから届いた葉書のことはお伝えします。悠太に、連絡をするように伝えますので、あと2ヶ月ほどお待ちください。
悠太の母より』
2ヶ月先か!
でも、でも、希望の光が見えたよ!
ユータさん、日本に帰ったんだ!
本当に良かった。
嬉しい。
2ヶ月待てば、私も日本に帰れるんだよね?やっぱり竜咆の森から帰ったんだろうか?
浮かれている場合じゃないや。わざわざこうして連絡してくれたユータさんのお母さんにお礼の手紙を書かなくちゃ。
それから、メールアドレスと電話番号も書き記す。葉書の時は書いてなかったからね。だって、ユータさんに届くかどうかもわかんなかったわけだし。
昼食も概ね好評だった。
料理人に簡単に「これはピッチェの特産品であるオリーブオイルを使っている」とか「グランラの米」「キュベリアのメープルシロップ」といちいち断りを入れたおかげか。
エロキモ陛下から「故郷の料理教えてくれくれ」攻撃は回避できている。
マヨネーズにしたって、ピッチェのオリーブオイルを使っていると言ったら、勝手にピッチェの料理だと思っているみたいだし。
そうだ、今度は揚げ物をしようかな。トゥロンもピッチェの揚げ物文化に驚いていたし、あんまりここでは揚げ物しないんだよね?
あれ?ここではって、ここって何処?
トゥロンの故郷でもって、どこの国?
「ねぇ、ランちゃん今更なんだけれど、ここって何処?」
「ああ、トルニープよ。リーさんはキュベリアにいたんだっけ?キュベリアの南側にある国なんだけど……分かるかな?」
ト、トルニープ?
それって、東側の同盟を組もうと思っている4つの国のうちの一つだよね?
小さな島国じゃなかったの!
エロキモ陛下、大きな国の王様じゃないか!
あーどうしよう、色々考えることがあって、混乱。
あんな王様の国と同盟組めるのかな?それとも、外交ともなれば狡猾に猫の皮かぶって立ち回るのかな?
キュベリアは使節団出すはずだよね?キュベリア使節団はまたサマルーたちだろうか?だとしたら、助けてもらえるんじゃない?
お世話役だったランちゃんやメイサさんが気に入ったから連れて帰りたいとか言えば、ここから救い出せるんじゃないだろうか?
我ながら、良い考えだよね!
だけど、使節団はいつ来るのか?本当にくるのか?来たとして接触できるんだろうか?
んー、やっぱり、いざとなればそういう手もあると思っておく程度で、別に逃げ出す手立て考えないとだめだよなぁ。
2ヵ月後に、日本に帰る手段が分かっても、ここにつかまったままじゃ帰れないもんね。




