107 手紙
一番簡単な方法は、出されたものは何も食べないことだ。
鞄の中には、日本の食べ物もある。通販すれば無くなることはない。それに旅立つ前に作った保存食も結構ある。
だけど、食べないのに生きてるってどう考えても怪しいよね。
部屋に篭って食事をするふりをすれば良いのかもしれない。
でもさ、毒入り食事を食べてるのにいつまでもぴんぴんしてたら、今度は「本当に毒を入れたのか?」と毒入れ係が処罰されない?それがメイヤさんじゃなくても……
エロキモ陛下の処罰は、即処刑ってのもありそうだし。
私のせいで人が死ぬなんて、どう考えたって嫌だ!
安全な食事、安全な食材を手に入れるにはどうすればいいのか……。
エロキモ陛下の食事を奪って食べるとか?……いやいや、毒は入ってなくても別のものが入ってそうだ。それこそ雑巾の絞り汁とか。エロキモ汁とか……うえっ。
やっぱり、自分で作って食べるのが一番安全なんだよねぇ。
でも、目を離した隙に毒を入れられるとか、そもそも食材に毒が入っていたら誰が作ろうと同じだし。
布団の中に入って考えることにした。
おっと、その前にメールチェックと郵便物チェック。昨日できなかったからね。
郵便受けを見る。ダイレクトメール2通と
「!」
手紙!
誰から?
裏を返す。差出人の名前はない。
宛名は直筆だし、企業の封筒でもない。紛れもない手紙だ。
「ゆ、ゆ、……ユータさん?」
バクバクと心臓が高鳴る。もしかして、もしかして……
こんなに心臓が高鳴る手紙を手にしたのはいつ以来だろう?入社試験の合否結果の手紙でさえ、こんなにドキドキしない。
中学生の頃に、片思いの先輩にラブレターを手渡す時、そうだ、あの時に似てる。
もう、口から心臓が飛び出しそう!って何度も人っていう字を手に書いて飲み込んだっけ。
緊張で小刻みに震える手で、封筒の口を切る。中から、飾り気のない縦書きの便箋が2枚折りたたまれて出てきた。
ダイレクトメールじゃない。
やっぱり本当に手紙だ。
宛名には、佐藤様としか書いてない。ユータさんへの葉書に私は佐藤としか書かなかった。佐藤梨絵様という宛名じゃないってことは……
三つに折られた便箋を開く。
『佐藤様
悠太宛のお葉書、確かに受け取りました。』
え?これ、誰から?
急いで2枚目の最後に目を通す。差出人の名前が書いてある。
『悠太の母より』
ユータさんのお母さんから!
どういうこと?
心臓が跳ね上がる。早く、手紙の先を読もう、そう思うんだけど……
知りたくないっていう逆の気持ちも強く沸いてきて。
何故、本人からの返事じゃないの?
もしかして、ユータさんは日本に帰ってないの?実家に戻ってないの?
ガクンガクンと大きく震える手が、手紙の先を読むのを邪魔する。
『悠太本人に渡したいのは山々ですが、生憎と悠太は今は居ません。連絡の取りようもありません。』
ユータさん……帰れなかったの?
嘘だ。
だって、こっちの世界にも居ないんだよ?
もし、こっちに居ればラトのところに戻ってくるよね?いつも旅に出ては山小屋に戻ってきてたんでしょ?
5年も山小屋に帰っていないってことは、日本に帰ったってことじゃないの?
コンコン。
ノックの音に、慌てて手紙をポケットの中の鞄に押し込む。
「は、はい……」
私の声、大丈夫?震えてない?
手の振るえ、止まった?
「今、開けますね」
落ち着いて、落ち着いて。
深呼吸を3度。大きく息を吸い、ゆっくり吐き出す。
うん。少し落ち着いた。
何食わぬ顔できてる?ドアを開ける。
「メイヤさん?どうしたんですか?」
暗い顔をしたメイヤさんが立っていた。
「どうぞ、入ってください」
メイヤさんは、部屋の中に入り、ドアが閉まると両膝を突いた。
「メイヤさん?」
え?何?




