108 まずは朝食
メイヤさんはそのまま土下座の格好をする。
「どうか、息子を、トゥロンを許してください……」
涙声だ。
「メイヤさん、頭を上げてください」
私の声が届いているのか、メイヤさんは頭を下げたままだ。
「トゥロンを許してやってください。悪い子じゃないんです……あの子は、あの子は……」
許すって何のことだろう?私をここに連れてきたこと?
「あの、メイヤさん、まずは顔を上げてください。椅子に座って話をしませんか?」
メイヤさんの手をとり、立ち上がらせる。そして、ベッドサイドにあるソファに座らせた。
メイヤさんの向かいの席に座ると、落ち着かせるためにいつもよりもゆっくりと言葉をつむぐ。
「許すって、何をですか?」
メイヤさんは、両手を膝の上で固く握り締めていた。そこに視線を落としたまま小さな声でつぶやいた。
「陛下のお客さまだと言っていましたが……無理に連れてこられたのでしょう?」
「何故、そう思うのですか?」
「こんな所に好んで来る者は居ません……。何か野心がある者は別ですが、リーさんに野心がおありだとは思えません。それに……息子は、間者をさせられています」
え?間者って、スパイだよね?
トゥロンはスパイだったの?
……もしかして、リエスの行動っていうか、リーとしての私の行動がエロキモ陛下に筒抜けだったのは、トゥロンが報告していたから?
トゥロンが私に親切だったのは、間者として行動を監視してたから?
「決してあの子の本意ではないのです……。陛下は弟であるトゥロンを疎んでいます。国内に居させたくないという理由で間者として他の国に送っているのです。私とランを人質にして……」
それか!
トゥロンほどの実力があれば、王弟なんて地位はさっさと捨てて、別の国で幸せに暮らすことができるのに。なんであんなクソエロキモ陛下に従っているのかと思ったら。
母と妹のためか!
どうせ、クソエロキモ豚のことだ「母親と妹の命が惜しくば逆らうな」的なことを言っているに違いない。
トゥロンはとても家族思いだから、決して自分だけ逃げ出して楽になろうなんて考えるわけない。母と妹のために、苦しみながら陛下の命に従っているのだろう。
私に対して、何度も謝っていたトゥロン。何のことか分からなかったけれど、母や妹のために、私をエロキモと対峙させることに対して苦しんでいたんだ。
流石に、トゥロンの実力を持ってしても、母と妹を守りながら城を脱出することは難しいのだろう。
何とかならないのだろうか?
トゥロンを、メイヤさんとランちゃんを、クソエロキモ豚カスから救うことはできないのだろうか?
「トゥロンは悪くないのです。悪いのは……人質になっている私です。私という鎖が、あの子を苦しめている……」
ああ、メイヤさんも苦しんでいる。
きっとランちゃんだって、苦しい思いをしているんだろう。
「メイヤさん、大丈夫。私はトゥロンを恨んだりしていません。たくさん助けてもらいました。今度は私がトゥロンを助けられたらと思っています。だから、本当に恨んだりしていません」
私の言葉に、メイヤさんは顔を上げて静かに涙を流した。
「ありがとう……ごめんなさい……」
メイヤさんは決して自分を許してとは言わなかった。恨むなら私を恨んでと言い残して部屋を出て行った。
親は子のために苦しみ、子は親のために苦しむ……
すべての現況は、エロキモか。
本当に、何とかならないだろうか?いや、何とかなるなら、トゥロンなら何とかしてたんだろうなぁ。
うーん、なんかないかな、良い方法?
そうだ、食事のことも考えないといけなかったんだ。
どうしたものか?
考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしい。
気がついたら、外が明るくなっていた。
「おはようございます、リーさん。起きてますか?」
ランちゃんの声で目が覚めた。
「あー、はい。起きました」
ドアを開けるとランちゃんの笑顔。
「朝食、どうしますか?こちらに運びますか?それとも、家で食べますか?」
食事かぁ。
「もう作ってあるの?」
「いえ、これからだと思いますけど?サラダとパンと卵を焼くくらいなので」
よし。決めた。
どうなるか分からないけれど、古今東西「男は胃袋で捕まえろ!」だ!
エロキモは豚だったから食にも貪欲に違いない!これにかけるしかない!
「じゃぁ、今日の朝食は、私が作るわ!ランちゃんは家から卵を持ってきて!そうねぇ、4つか5つくらいあればいいかな?」
「オッケー!」
ランちゃんと同時に部屋を出ると、隣の部屋をノック。
「トゥロン、起きてる?用意して欲しいものがあるんだけど、頼めるかな?」
お屋敷の掃除をしている人たちにも頼みごとをしながら、白薔薇宮を出る。その足で王宮の調理場へと向かう。
流石に、昨日の今日で毒入り食材を用意しているとは思えないんだけど、念のため王宮の調理場で使うであろう食材をゲットする。王様も口にする予定のものに毒は入ってないよね?まだ雑巾の絞り汁も入れてないよね?
「いったい、何を始めるつもりですか?」
トゥロンが私が背中に担いでいた小麦粉の袋をひょいっと片腕に担いでくれた。
「朝食作り!」
白薔薇宮まで戻ると、早速頼んでいたものがセッティングされていた。
キャンプで使うような石を積んで作ったかまどにはすでに火がいれられている。
大きめのフライパンや、ボールなどの調理器具の乗せられた作業台。
食堂から運んでもらったテーブルと椅子が花咲く庭に並べられている。
「たまには外で食べるのもいいよね!今作るから、座って待っていて。あなた達もどうぞ?」
白薔薇宮の扉に立つ兵にも声をかけた。
というか、食べてもらわないと困る。




