102 トゥロンの妹
知恵熱出そう。
陛下って、王様のこと?
ここ、何処よ!
ピッチェは女王陛下。
グランラはガンツ王。
キュベリアは?王弟の顔は見たけれど、そういえば王様の顔は見ていない。
でも、あんなエロキモが王様?ありえない!
どっかの小国だろ。
海に浮かぶ、ちぃーーーーーーーーっちゃい島国の王様に違いない!あんな奴が王様じゃぁ、国はすぐ滅ぶさ!
でも。
トゥロンの横顔を見る。
トゥロンみたいな人が補佐していれば、滅びないかな?
いや、でも、とても補佐しているような雰囲気ではない。明らかに強制労働だ。恐怖政治。絶対王政。
「女神よ、申し訳ありません。出来るだけ待遇が改善されるように、尽力いたします」
「あのね、トゥロン、そんなことよりも聞きたいことがたくさんあるんだけど、聞いてもいい?」
トゥロンがびっくりした目をする。
そりゃぁそうだろう。トゥロンが心底申し訳ないと思っていることを「そんなことより」と一蹴したのだから。でもさ、実際私は、エロキモからの貞操の危機が去っただけでとっても開放された気分なんだよねー。最悪の待遇からはもう逃れたと思ってる。
「どうぞ、お聞きください。私めにお答えできることでしたら」
何から尋ねよう?やっぱり、ここがどこかってことからか?
陛下って聞き間違いじゃないのかってことからか?
本当に兄弟なのかってことからか?
「あの、えーっと、」
聞こうとして、エロキモモンスターの名前すら知らないことに気がついた。流石に、あのデブとか、あの豚とか、あのエロとか、そんな風に聞くわけにはいかない。
「トゥロンが言っていた、お兄さんって、さっきの広間の奥に座っていた人?」
トゥロンの眉が苦しそうに少しゆがんだのを見逃さなかった。
ああ、やっぱり自慢すべき兄じゃないってことで間違いない。
「兄さん!」
重たい空気を一変するように、涼やかで弾む声が聞こえてきた。
「兄さん!やっぱりトゥロン兄さんだぁ!お帰りなさい!」
スカートを翻して、1人の少女が両手を広げてトゥロンの胸に飛び込んだ。
薄汚れた灰色のワンピースにエプロン姿で、侍女というよりも、もっと下働きの女性といった身なりだ。
身なりはみすぼらしいものだけれど、満面の笑顔はとても幸せそうだ。
「ラン、客人の前だ」
トゥロンは、抱きついてきた少女を叱るも、その顔は先ほどまでの苦痛さは感じられなかった。
「あっ、」
ランと呼ばれた少女は、20歳前後に見える。実際はもう少し若いのだろう。ほほを赤く染めて、慌ててトゥロンから離れ私に非礼を詫びた。
私は侍女風のワンピースだからとても客人というようには見えないから仕方ないよ。
「はじめまして。ランちゃんって呼んでもいいかな?私は、リー。トゥロンの元仕事仲間っていうか、友人よ。しばらくこちらに滞在することになったの。よろしくね」
「え?あれ?お客さまって、ウチの?兄さんが連れてくるなんて、それって、そういうこと?え?え?」
ランちゃんは、目をまんまるにして、私とトゥロンの顔を交互に見ている。
「リーさん、本当は兄さんと友達なんかじゃないんでしょ?」
ランちゃんが、声をひそめる。
「そんなことないよ?私は、友人だと思ってる。トゥロンが、私のことをどう思ってるかは分からないけれど……」
本当に色々とお世話になっていて、友達とかって言葉は失礼かなぁとも思っているくらいなんだけど、他に言い表す言葉も見つからないし。トゥロンは友達なんて言われて迷惑じゃないかな?
ちょっと心配になってトゥロンの顔をうかがう。
「友と……言ってくださるのか、もったいない……」
ほっ。
トゥロンの表情は不快を示すものではない。まぁ、私に対して後ろめたさとかもあるだろうから複雑な気持ちかも知れないけど。きっといつかは本当に「友よ!」と笑顔で向き合える日が来るよね?
「えー、そうなの?でも、兄さんが女の人を連れてくるなんて……」
あれ?もしかしてランちゃんはトゥロンが恋人を連れてきて家族に紹介するとかそういうの期待しちゃった?
「ラン、リーさんは、陛下のお客人だ」
「え?」
ランちゃんの顔色が変わる。
「私はリーさんの護衛を陛下に言い渡された。ランと母さんは、リーのお世話をするようにと命が下った」
ランちゃんの表情は今度は明るく輝いた。
「それって、兄さんと一緒に過ごせるってこと?でも、でも、私や母さんが陛下のお客人のお世話なんて……もっとちゃんとした侍女を付けなくていいの?」
百面相を見ているようで面白い。素直な良い子なんだね。ランちゃんはきっと。
「白薔薇宮で、お世話するようにと……」
トゥロンの言葉に、今度はサッと血の気が引いた顔になる。
「何で?お客さんなんだよね?白薔薇宮って……」
指の先まで白くなるほど、ランちゃんの顔色は悪い。
「……分からない、陛下のお考えは……」
トゥロンが小さく首を振る。
「私は、別に何処でもいいよ?馬小屋だって眠れるし?」
こっちの世界に来てしばらくは馬小屋生活だったからね。ここがどこかしらないけれど、キュベリアよりも気候は暖かそうだから、全然平気だよ。
「馬小屋の方がマシかもしれません……」
え?何?
白薔薇宮なんて大層な名前が付いてるのに、馬小屋よりひどいの?
「あそこに見えるのが白薔薇宮なんだけど……」
ランちゃんが、右手を私の斜め左方向に伸ばした。
木々の合間に白薔薇宮と呼ばれる建物の上部が見えた。
「うわーっ!」
あれ、そっくりだ!夢の国のお城に!
素敵、素敵じゃない!あそこに泊まれるの?
シンデレラ城に!
「別名、呪いの宮殿です……」




