103 呪いの正体
シンデレラ城そっくりの見た目に興奮していた私に、ランちゃんの言葉が水を差す。
「呪いの宮殿……?」
呪いのコインの次は、呪いのお城か!
いやいや、呪いのコインは実は呪いじゃなかったし、お城の方も実は、通称呪いの宮殿と呼ばれているだけかも。
「ラン!」
うっかり口を滑らしてしまった妹に、兄が叱咤の声を上げる。
「トゥロン、ランちゃんを責めないで。どうせ、いつか噂話で耳に入ってくるくらいなら初めから知っておきたい」
うん。賞味期限切れてるって知っていて飲む牛乳と、飲んでから賞味期限が後で切れてたって知る牛乳って違うよね?
私は賞味期限切れ3日目までなら平気ですと言ったら、合コン相手に引かれたことを思い出した……凹。でも、腐ってるか腐ってないかの嗅覚が、この世界では役に立つんだからね!って言ってやりたい。
「そうですね、リーさんの言う通り噂話で知るよりは良いかもしれません……」
トゥロンの許可が出たので、ランさんは呪いの宮殿について教えてくれた。
「このお城に居た人たちが、次々と亡くなったことがあったんです。体に黒い呪いを受けて……」
げっ、人が死ぬ系の呪い?
「呪いっていうのは、結構一般的なの?」
この世界では、魔法に近い不思議な力でもあるんだろうか?
呪いっていう言葉に置き換わって私が理解してるだけで、本当に人を死に追いやるような不思議な力があるとしたら……
「一般的というのは?」
「呪いを掛けると、効果があるの?私の故郷では、呪いなんて迷信だよって程度だったんだけど……」
それでも、呪いのなんとかってホラー話は怖い。でも何故か、呪いのわら人形は全然怖くない。陰陽師の呪いとかもイマイチ胡散臭く感じる。日本において呪いってそういう感じだよね?
「ええ、呪いなんてあるわけ無い、ばかばかしいと言う人もいます。ですが……白薔薇宮では実際に起こりました。呪いとしか考えられないようなことが」
「お城の人たちが次々と亡くなったということ?でも、例えば井戸に毒が放り込まれたとか、呪いじゃない原因があったとは考えられないの?」
何らかのトリックがあるっていうのは良くある話。テレビの見すぎかしら?
「それが……毒に詳しい人物が、全身に黒くなり死ぬような毒は無いと……」
トゥロンがランちゃんの言葉を助ける。
「黒くなるって、焼けこげたような?」
「いえ、あざのように内側からと聞いています」
トゥロンの言葉に、ランちゃんが続ける。
「ちょうどその頃、王様の寵愛をめぐって争いが起きていたんですって!透き通るような白い肌の美しい側室がいて、白薔薇宮も当時の王様が、その側室のために建てさせたらしいの」
なるほど。白く美しい肌にを持つ女性に、白く美しい宮殿を建てたのか。
女1人に金かけるあたり、エロキモモンスターの血筋だな。
「それをねたんだ、他の側室達が呪いを掛けたという話よ。だから、肌が真っ黒になって死んじゃったんだって!」
うん。白い肌をねたんだで呪ったら真っ黒になって死んじゃったか。
「白薔薇宮以外の人たちは死ななかったの?」
「呪われた人に触れた人間が次々と呪われていったため、白薔薇宮は閉鎖され、呪われた人間と接触した者は穴に埋められました。そうして、呪いの広がりは食い止められたそうです」
うわーっ。閉鎖?
「閉鎖してあった白薔薇宮の中はどうなったの?」
呪いとかじゃなくても、なんかいやぁな想像が頭に浮かんだよ。
屍累々とか……うえっ。
「呪いが掛けられたのが100年ほど前になります。その後20年ほど完全に閉鎖されていました。再び扉が開けられた頃の話はよく伝わっていませんから、内部がどうなっていたかは分かりかねます」
「100年前?」
流石西洋建築のお城。そんなに昔の建物だと思わなかったよ。
「ここ数十年は、手入れのために人が頻繁に出入りしていますが、誰も呪われたという話は聞きません。私も一度入ったことがありますが、この通りぴんぴんしています」
「でも、でも、呪いって夜寝てるときとかに効果を発揮するって噂だよ!だから、白薔薇宮に泊まるときっと……」
ランちゃんがトゥロンの腕にしがみついて少し震えた。
「やはり、別の場所に滞在できるように、陛下に……」
「そうだよ!お兄ちゃん!リーさんが呪われて死んじゃったら嫌だよ!」
そうだね。私も死にたくない。
こりゃぁ、自衛手段を何か考えないと。
「えーっと、ちょっと細かいこと聞いてもいいかな?白薔薇宮に泊まるのは私1人になるの?それとも護衛の人、トゥロンや他に誰か付くの?世話係の人とかも泊まることになる?」
「もちろん、決して1人にすることはございません。このトゥロンも、お傍に控えさせていただきます」
「そっか、じゃぁ守ってもらえるって事だよね?」
トゥロンの剣の腕は確認済みだから頼りになる。キモエロとの謁見時に控えていた兵レベルなら10人束になったってどってことないだろう。
「命に代えても!」
とはいえ、武装した人間に寝首を掻かれることはまず無いだろう。
あるとすれば、「呪いの白薔薇宮殺人事件」だ。
「お世話は、母と妹が申し付けられましたので、2人を中心に。手が足りなければ何人か手配されるかと思います」
「そうだ!私と母さんも泊まらなくちゃいけないんだ~!!」
ランちゃんが悲鳴を上げる。
いやいや、呪いは大丈夫だよ。
だって、呪いじゃなくて、伝染病だよ。
多分ペスト。黒死病って呼ばれたそれだと思うんだ。呪いを恐れるという形で隔離されたから、運良く広がりが抑えられたんだね、きっと。
とはいえ、伝染病を説明するべき?いやいや、何処からキモエロに話が伝わるか分からないから黙っとこう。また、異国の知識くれくれされてもメンドクサイし。
「大丈夫、私の肌は白くないから、呪われないよ!」
大丈夫だというのを、明るく伝えようとしたけれど、なんだか失敗。
ランちゃんは微妙な顔をした。
「確かに、呪いなどあまり現実的な話ではありませんが、しかし何があってからでは遅いのです!」
トゥロンがのんきな私の言葉を責めるように言う。
「そうだよ、リーさん。だって、呪いは呪いでも最上級の呪いだよ、これ!」
再びランちゃんが怯えた顔を見せる。
「ランちゃんもお母さんも、夜は泊まらなくてもいいよ?通ってくれれば。夜に何かしてもらうことなんてないでしょ?」
私の言葉に、ランちゃんが悲鳴をあげた。
「お兄ちゃんとリーさんが、夜に2人っきり~~~~~!」
え?




