魔王様の妹君と侍女と一服
サリナが苛立たしげな気持ちのまま、シエリとクレハリィテがいる部屋に入ると2人はにこやかにサリナを迎え入れる。
「サリナ殿、お越し下さいまして有難うございます」
金髪を一括りにしたクレハリィテが紅茶を淹れながらサリナに椅子に座るように勧める。
「呼びつけておきながら何なのよ。私は座らないわよ」
その言葉にシエリが香ばしい匂いをさせたクッキーを摘まみながらサリナに見える。こんがりと狐色に焼けたそれは美味しそうだ。
「まぁまぁ、サリナ殿。ほら、できたてのお菓子もある。これ、クレハリィテが作ったんだよ」
「シエリ!」
飄々とシエリが恥ずかしい気なクレハリィテと視線を交わしてサリナに笑いかける。その胡散臭そうな視線を睨み付けながらサリナは席に座って紅茶に口を付ける。
「このクッキー美味しよ」
サリナは、ちらりと目元を赤くしているクレハリィテを見て茶色いクッキーを一つ摘んで口に入れた。侍女が作った物かと思っていたけれど、まさか彼が作ったなんて。恥ずかしげにしている彼は微笑ましい。
「美味しい」
仄かに柑橘系の香りがして食べやすい。
「だろ?」
頤にかかるくらいの茶髪を揺らして笑うシエリを見ると食べ物で自分が喜んでいることがバレてしまい恥ずかしく感じた。
サリナは誤魔化すように咳払いをして口に含んだクッキーえお紅茶で流しこんで2人に向き直る。
「それで話って何なのよ」
いつも2人は話があると言いながらサリナとお菓子を食べながら、たわいない話をするだけなのだ。
だけど今日は違うようだ。サリナが言うとシエリが突如瞳を細くして喉を鳴らした。まるで獲物が罠に掛かるのを待っている猫のようでサリナは少し緊張した。
「実はね、王様がそろそろ君を実践に出してみようって言い出してね」
サリナは唾を飲み込んで、その言葉を理解しようとする。
「魔族と戦うには色々な経験をしていた方が良い。何があるか分からないからね。勿論、僕達もサポートするよ」
サリナは自分の手の平を見つめる。ここから光が溢れて来て全身に力が漲った体験を思い出した。またこの手で初めて剣を握って相手へと向かったことを思い出した。
「恐ろしいなら、まだ良いのですよ」
クレハリィテが悩ましげに言うがサリナは気付く。まだ、ということは結局やらなければいかないのだ。そう、遅かれ早かれ。ならば、どちらも同じ。
「それで、私は帰れるのよね」
「うん、勿論だよ」
「なら、やるわ。魔王を倒して、私は帰る」
サリナは、そう瞋恚の炎を瞳にたぎらせて答えた。