エピローグ あなたの名前は?
青春という言葉は古代中国の五行説ではどうやら、若々しく成長する時期というらしい。日本の青春と言ったら、海、夏祭り、友達と映画やショッピングや、最近だと、動画サイトに青春の風景をアップしたりするのだろう。インドア派の僕にとっては無縁の話だ。ただ、仮に僕がそういった青春に恵まれて、高校生活を謳歌する事が出来た時に一抹の不安を抱くだろう。この青春が壊れてしまわないか。親友だと思った人間と仲違いしたら、それこそ、今まで積み重ねてきた青春はカラフルな思い出から、セピア色の苦い思い出になるだろう。この話に古代中国の五行説における話を絡めたのは理由がある。青春の対義語に白秋という言葉がどうやら存在するらしい。テレビのクイズ番組で見て以来、何故か頭に残っている。人生の実りを楽しむ季節と言えばいいのだろうか。僕がもし、青春を謳歌している途中に、青春が失われたら、親友と仲違いして精神的な苦痛に苛まれたとする。そういう状況に対して、大人は「それを乗り越える事で人として成長出来る」と言う人もいる。それなら、青春の痛ましい記憶や出来事に苦しみながら、長い年月をかけて乗り越える事までの年月までの人生においての小さな事件として考えて、僕はそういった事が起きたら「白秋事件」と名付けるだろう。中学、高校生にとってのまだまだ狭い世界の中では、そう言った出来事は紛れもなく事件なのだからだ。
「轟くん!」
笹内がやって来た。近くのマンションに住んでいて中学の頃に同じ学校になり初めて話した。笹内はかなり快活でコミュニケーション能力が高く、生徒会役員兼カメラ部部長として、直ぐに孤立してしまう僕の面倒を見てくれている。もっとも、少しお節介だと思うところがあるが、笹内が生徒会長で生徒会役員として勧誘してくれてからと言うもの、学校生活が楽しくなった。笹内は「皆が学校生活を楽しくして、忘れられないように、思い出を作る」事をモットーにして生徒会長として、文化祭や体育祭を企画している。そこに藤宮先輩が携わり、笹内が突っ走って転ばないように、行動力の化身の笹内のブレーキとして生徒会役員を全うしている。
「二人ともおはよう」
噂をすれば何とやら、藤宮先輩とも合流した。
「藤宮先輩―!」
笹内さんは抱きついて、藤宮先輩はそれを笑顔で見守る。
「轟くん、今日六月に転校生が来る事って知ってる? 私と同じクラスみたいなの」
「転校生?」
今の時期に転校してくるとは珍しい。何か両親の転勤があったのだろうか? まあ、そこまで他人のパーソナルスペースに踏み入らない方がいい。そう思い、掘り下げないようにした。
三人で雑談をしながら歩いていると、学校に通る途中に小さな公園を必ず見かける。何もここは出るらしい。何が出るかは具体的には決まっていない。地縛霊や、兄妹の幽霊、死神が出るなんて話す人も居るらしい。
「ねえ、二人とも。ここって出るって話知ってる? 夢に吸い込まれるとか色々」
「出るねぇ……私、この公園が好きだからその都市伝説が嫌い。だから、どうにかして払拭出来ないか考えているの」
「確かに、僕もここは大切なんだ。確かに覚えているんだ。思い出せないだけで」
「……? 轟くん」
「いや、なんでもない」
「ねえ、笹内さん。轟くん。目の前」
公園のブランコを漕いでいる、同じ学校の制服を来た女の子が居る。今日は平日なのに、どうして今ブランコで遊んでいるんだ。そう思うと、こちら側に気付いたのか、僕の方を見つめてくる。
「ねえ、貴方そこで何をしているの?」
「えっと、その。高校に今日登校するんだけど、どこか分からなくなってブランコで黄昏れていたの」
出るという話は本当だった。ただ、綺麗な黒い長髪で、色白でスレンダー系の見た目、どこか抜けている雰囲気を感じる。昔何処かであったような気がする。デジャヴと言うべきなのだろうか。僕から話しかける。
「あの、もしかして何処かで会ったことがあります?」
そう言うと、女の子は僕の事をじっと見つめていた。
「会ったことがある気がする、名前は何て言うの?」
「轟」
「……懐かしい名前。とっても素敵よ。轟くんって呼んでもいいかしら」
いきなり君付け? でも、この人をやっぱり知っている気がする。
「二人は知り合い?」
「轟くんの友達なの? こんな綺麗な人と友達なら早く言ってほしかった! 友達になりましょう。今日三人で一緒にカラオケ行こうと思っていたの。よかったら一緒に行きましょう」
「ええ、学校が落ち着いたら。ところで、三人は仲が良いの?」
「勿論! 仲が良いよ」
「ええ、とっても」
「そう……それは良いことだね。私はそういう人達が居たはずみたいだったけど忘れてしまったの。今も探している。ここに居るんじゃないかって思って探していたら、迷子になってしまったの」
やはり、見たことがある。この薄幸そうな雰囲気、気品に満ちている話し方。全部全部、あと一歩のところで思い出せそう。
「ねえ、あのやっぱり僕たちって会ったことがあるような気がする」
「私も轟くんと一緒。実はお祭りや、カラオケに行ったことがあるような」
「ねえ、もしかしてだけど、植物と同じ名前」
「え、ええ。名前は合っているわ。他の事はよく覚えていないかも。でも、何となく友達になれる気がするわ。貴方たちと」
「あの、もしかして、あなたって」
青い春、立ち振る舞い、いつかの夢で見た立ち姿やっぱりこの方は。思い出の中にずっと絶対的に存在し続けていた人が居る。
「神代菜澄奈さん?」
「どうして、名前を知っているの? 轟……朔也君?」
「神代菜澄奈さん? 本当に?」
「神代菜澄奈……? 神代……? 神代先輩?」
僕が名前を言うと、二人も思い出がフラッシュバックしたのか、神代さんの事を思い出したみたいだった。笹内は神代さんに手の握りしめて、笑顔で泣いていた。
「ねえ、これからたくさん作ろう。思い出。絶対に悪くしないよ。これからも、ここから先もずっと友達でいよう」
「ええ、神代さん。私も、初対面……だからビックリするかもしれないけど、今からでも友達になりたいわ。そして、また遊びましょう」
「ええ……ええ! なりたいわ。私も」
神代さんは泣いていた。
「神代さん、ハンカチあげる。涙拭くよ」
「ありがとう。でもなんで泣いているんだろう。私は貴方たちの事をあまり知らないのに、知っている気がする。でも、貴方たち三人と違って私は思い出せない」
僕はその言葉を聞いて、迷わず直ぐにこう言った。
「約束した。皆で親友の記憶がもし無くなったら、また新しく思い出を作ろうって。神代菜澄奈さん! 一緒に四人で登校しよう」
「ええ、私で良ければ喜んで」
こうして、僕たちは白秋に終わりを告げた。そして、思い出の中にずっと眠っていた青春へと新しい思い出と共に歩み続ける。そういう時が永遠に続くと信じる。きっと忘れない。
「一緒に学校へ行きましょう、笹内さん。藤宮さん」
「轟朔也君!」




