第7話 白秋事件④ 終わりを告げる蜃気楼
ドアを開けたその先はどんな光景だったかと言うと、言語化する事が難しいような光景だった。神代先輩、笹内、僕が三人入ってドアを閉めるとすぐにドアは消えてなくなってしまった。僕たちは落下し始めた。いや、落下という表現も正しいのか分からない。上昇していると言ってもいい。これを無重力と言うのだろうか。とにかく、別次元に放り込まれた。お互いを視認して確認する事が出来る。同じ場所にいるけどどこにいるか分からない状況。ただ、一つ確信的に言えること。それはこの空間そのものが憂鬱だと言う事だった。今までは魔獣や神話の生物、怪異や怪物のようなものとして現れたが、これは何か分からなかった。近しいものがあるなら、それは精神そのもの。理不尽な不幸に見舞われた人間が世界をグレーのフィルターを通して見てしまうよう心身的で抽象的なもの。それが空間として現れた。
「ここは何処なの? 神代先輩、轟くん」
「分からない笹内」
「敵は、どれが敵? 飛んでいる? 落ちている? 何処にいる」
何をすればいいのか分からなかった。このまま何もしないままいることは、悪手だと思った。だから、僕は刀を取り出して、何もない空間を斬る。手応えがない。効いているという雰囲気は無いが変化はあった。
(君は君か)
何かが語りかけてくる。
「今の言葉聞こえた?」
「ええ、聞こえた。『君は君か』って」
「私も聞こえた」
「まだ、神代先輩は攻撃しないでください。もしも、この事象、空間そのものが憂鬱だとしたら、無限大に広がっているようなもの。倒すと、もしかしたら神代先輩の記憶が全部消えてしまうかもしれない」
「分かった。正体が分からない今は轟くんの言葉に甘えるわ」
僕は再び切り裂いた。すると、手応えもダメージも与えられた感覚は無いが確かに返事が返ってくる。
(君たちは大きな罪を犯している。必ずその罪と向き合わないといけない)
大きな罪? 何の事だ? 祭りの人間を死なせてしまった事? 辻本の計画を止めようとした事? それとも、死神家業で命を勝手に救っている事……神代先輩? 笹内? 笹内も気分が悪そうな表情を浮かべている
「神代先輩、笹内? 何があった? 攻撃された?」
「いや、分からない。でも、あの時の霞ちゃんが皆から忘れられた時の事を思い出したの」
「私も、何か罪を背負ったようなそんな気分がくる」
攻撃を一旦中止するべきなのか? これを攻撃する事自体が罠なのか? だったらどうやってこれを看破する? おかしい、僕も何か気分が悪くなってきた。ぼんやりとして意識が遠のいてくる……
ここは? 僕は自分自身の姿を見ると小学生の姿に戻っていた。エンデバーの時間遡行が頭によぎったが、エンデバーは霞が行方不明になる翌日に戻る特殊能力だ。霞が消えたのは中学生以降だから少なくもエンデバーの能力ではない。
「ねぇ、轟くん遊ぼう」
この子……名前は何だったか? 顔もぼんやりとしてよく見えない。でも友達だった事は覚えている。僕はグラウンドに出てボール遊びを始めた。
「ねぇ、轟くんは優しいよね」
男の子は話しかけてくる。
「どうして、そう思ったの?」
「いつも、いじめられている僕を慰めてくれるでしょ。お家に来てゲームで遊んでくれて」
そうだ。思い出した。この子は確か、いつも体育館倉庫裏に呼び出されて、上級生にいじめられている友達。僕はターゲットにされる事を恐れて、見えないところで慰めていたけど、学校では傍観して助けなかった友達。
「おい、お前。何ボール遊びしているんだ。体育倉庫の裏に来い」
「……うん」
男の子は身体を震わせながら、その上級生の方へ向く。
「ねぇ、」
「何?」
「どうして、行きたくないのに行くの?」
男の子は僕の方を見てこう言った。
「僕はお母さんしか居ないんだ。いつも、働いているから家に居ない。お母さんにこれ以上苦労をかけたくないんだよ。だから、先生にも教えないでね」
そう言って、男の子は体育館倉庫裏に上級生を三人に連れて行かれた。僕は居ても立っても居られずに、こっそり付いて行った。
体育館倉庫裏でその子はカツアゲされている。僕は倉庫陰でその様子を見ていた。
「なあ、ちゃんと持ってきたか千円」
「今日は」
「五百円、舐めてるのか?俺は千円持って来いと」
「もう、無いよ。後は二十三円ならあるよ」
「罰だ、お前ら。コイツを殴れ」
暴力を振るおうとした時、思い出した。この子はこうしている内に不登校になってしまって音信不通になった友達。今なら、助けられる。
「待て!」
僕は上級生三人に叫んだ。
「何だよ。代わりに払ってくれるのか、追加の五百円。それともこれか」
拳をパンッパンッと手の平に打ち付けて威嚇して来る。そんな事よりも、あの時の後悔を乗り越える時だ。
「やってみろ!」
俺は手の平で誘い挑発した。上級生三人組は襲いかかった。体格差、能力も使えない。当時の身体能力のまま。勝てる相手じゃない。でも、戦う。そうして僕は殴る蹴ると暴力を耐えながらも隙を見計らって、パンチを入れた。卑怯だと思ったが、脛や急所を狙って自分の身を守った。あくまで小学生だ。今までの戦闘と比べたら考える事も少なく、分かりやすい。ただ、体格差には勝てずに、正攻法ではやはり力負けした。それでも、バイタリティで殴り返してどうにかして上級生三人を退けた。
「覚えていろよ」
そう、捨て台詞を吐くと何処へ走って消えてしまった。やった! あの時の後悔を払拭する事が出来た。戦うことが出来たんだ。そう言って、カツアゲされていた友達に話しかける。
「大丈夫。これからは僕がついているからね」
そう友達に言った。しかし、様子がおかしい。先程の声と打って変わって、低い声。あの時の空間で聞こえた声に変わっていた。顔も「罰」と漢字が書かれていて、髪の毛以外、顔の表情を作る目と口のパーツも無くなっている。
「確かにお前は逃げずに打ち勝った。過去の逃げた罪に。でも、お前が見捨てた現実は変わることはない」
そう言って、当時の記憶では誰も所持していなかった刀をその子が持っていて、僕に切りつけてくる。僕は何とかして攻撃を避けた。
「確かにそうだ。犯した罪も、意図的にも、無意図でも人を傷つけてしまった事。取り返しのつかないことをした事実は消えない」
僕はニ度目の刀の攻撃をしようとしたところで、避けるのをやめて、手を大の字に広げたまま立った。
「人を傷つけた分だけ、その倍、人を救う、助ける。傷付けてしまった人間の心の傷が癒えるように祈る。再発防止に努める。そういう事しか出来ない。君があの友達本人か、辻本の憂鬱の作ったものか分からないけど、全身で受け入れる」
そう言うと、学校の屋上の窓がパリンっと割れる音が聞こえた。そして、死神装束の女の子が来た。神代先輩が助けに来てくれたのか? いや、違う。辻本霞だ。小学生の姿のまま、夢切りとして生きている辻本霞だった。
「君は立派だね。傍観せずに助けるなんて」
「でも、一度は」
「これは、私の持論だけどね、皆大なり小なり罪を犯しているんだよ。そこからがポイント。相手の失敗は忘れて、自分の失敗は再発防止策だけを覚えてそれも忘れる。どうしても、忘れてはいけない大罪があるなら君が言ったように傷つけてしまった人間の幸福を祈るか、誰か他の人を沢山助けるしか贖罪の方法はない。でもね、」
辻本霞が振り向いた。
「君の頑張りはちゃんと見ているよ。絶対に忘れない。お天道様も霞も。じゃあね」
その言葉を聞いてから目が覚めると、例の紫色の空間に居た。二人は? と見てみると笹内は意識を取り戻しているが、神代先輩は取り戻していない。
「笹内、どんな光景だった」
「私も見た。過去の取り返しのつかなかった後悔。あまり言いたくなかったでも」
「「霞ちゃんが助けてくれた」」
笹内との息がピッタリとあった。
「ねぇ、轟くん。神代先輩が戻らないの。どれだけ呼んでも」
どうしてだ? 神代先輩がそこまで悪い事をしてしまうような人間だとは思えない。それとも、見えないところでそんな罪悪を背負っていたのか。それにしても帰って来るのが遅い。
「なあ、笹内。神代先輩が目を閉じたまま握っている。夢切りの鎌を貸してくれないか?」
「何するの」
「霞が僕たちを助けてくれたみたいに、僕が神代先輩の罪の世界に入ってくる?」
「分かった」
神代先輩が持っている鎌を細心の注意を払って、僕に渡してくれた。
「笹内、行ってくる」
神代先輩がどんな苦しみを背負っているのか分からない。ランタンを使って、夢切りの鎌を携えて世界に潜った。
古くからある伝統的な家造り。和室があり、広く、僕は風鈴が飾られた庭にいつの間にか立っていた。
「お母さん。おばあちゃんはどこに行ったの?」
神代先輩の中学生の頃の思い出? とりあえず隠れて聞いてみることにした。
「おばあちゃんはね、もう戻って来ないの」
「なんで、どうして?」
「最近、急死してしまったの。急性の心臓麻痺だったかしら」
「『だったかしら』って何!? どういう意味なの。何か知っているんでしょ」
「菜澄奈、おばあちゃんの仕事は知っているの」
「おばあちゃん?」
「命を奪う死神」
「人を助ける、親切なおばあちゃんが死神? そんなはずない」
「ええ、そんな事をする人間じゃない」
「なら、どうして」
「おばあちゃんはね。人を殺すのが嫌で命を沢山助けたの。そうしている内にね、私の事も菜澄奈の事も」
「事も?」
「……菜澄奈。貴方は人を助ける人間になりたい?」
「うん、なりたい」
「……そう。だったらここにいなさい。おばあちゃんが帰ってくる」
「おばあちゃんが? やったー!」
どの時期だ? 神代先輩が死神家業を始めて継承する時? それとも、藤宮先輩に神代家のおばあちゃんが寿命と引き換えに、霞を探している時? そう考えていると、おばあちゃんらしき人物が帰ってきた。
「やあ、菜澄奈ちゃん。元気にしていたかい」
「おばあちゃん!」
幼い姿の神代先輩はおばあちゃんに抱きついた。
「ずっと、一緒に居ようね。これからも皆で」
「うん!」
「紫苑が咲いたよ 綺麗に咲いた そうして月に照らされて 月に葉を上げ憧れる いつか私もこうなって 皆の暗闇照らすんだ 夜泣く子供も 忘れられた感情も 全部全部掬い上げて 優しく抱擁するんだよ きっと夢が覚めないように眠るんだ」
幼い姿の神代先輩はおばあちゃんに膝枕をしてもらい、おばあちゃんは神代先輩に子守唄を歌っている……しかし妙だ。先程の発言では死神家業を匂わせていたのに、おばあちゃんは生きている。藤宮家と相談しに行く素振りもない。
「轟くん?」
「バク……? 霞か」
「ええ、そう」
「さっきは助けてくれてありがとう。笹内の事も。僕の事も」
「……お礼は要らないよ。それに私が死神の姿として顕現出来て、例の空間に乗っ取られずにサポート出来るって事は。祭りの人たちはもう」
「……そうか」
「藤宮先輩は頑張っているんだよ。本当に。藤宮先輩が居なかったら祭り人間もあと四十人は亡くなっていた」
「なら、尚更早く辻本を止めないと。ところで、どうして神代先輩が意識を取り戻さない?」
「本人の意思だよ……神代さんが心の底から求めていた一家団欒、死神家業や私の悲劇もなく、楽しく暮らす。しかも、神代さんは両親からも愛されていたけど、おばあちゃんっ子だったんだよ」
幼い姿をした神代先輩は、おばあちゃんに膝枕をされながら、カラオケの時に探していた、あの童歌のようなものを一緒に歌っている。
「笹内と僕があの世界から脱出出来たって事は、元の世界に戻るという覚悟と罪と向き合ったから」
「そういう考え方で合ってる」
ならこの場合の罪は何になる?
「もしかして、現実に向き合わないという罪?」
「ええ、恐らく。だから私たちが介入しても意味がない。神代さん自身が現実の凄惨さを受け入れる事だよ。忘れられてしまう事、現実におばあさんは亡くなっている事、そこから逃避したい感情からこの白昼夢に居続けている」
「居続けていたらどうなる?」
「私のお兄ちゃんが亡くなって、祭りの人間が亡くなるだけで特にそれ以上は何もない可能性もある。ただ、この白昼夢のようなものを見せている根源は憂鬱よ。そのまま憂鬱に蝕まれて、緩やかに死んでしまう可能性だってある」
「どうやったら助けられる?」
「あるよ……一つ。無理矢理介入する方法」
無理矢理という言葉が引っかかるが、今は選べる状況じゃない。
「君も同じ罪を背負うんだよ」
罪を背負う。神代先輩の罪を?
「……憂鬱切りを行うって事か?」
「ええ、そう。この夢には何も介入出来ない。だからこの空間から脱出をして、例の空間で憂鬱切りを試みる。そして、神代先輩の悩み苦しみを理解する。そして、あの空間の憂鬱は特殊でね、お兄ちゃんの『霞が忘れられる悲しみと怒り』が形成したもの。だから抵抗なんてしない。攻撃なんてしない。強いて言うなら攻撃すると、罪悪と向き合うような記憶に誘われるように促す事がある」
「まさか、神代家の事を恨んじゃいないと言っていたけど」
「……ええ。神代さんに対しては物理的な後悔や罪ではなく、こうやって幸せな空間に放り込むと言うことは、神代家に恨みが無いのが事実だとしても、死神家業や夢切りに対して『霞が復活しないなら、皆忘れられてしまえばいい』という怨みと『幸せな記憶の中でずっと大切にされていてほしい』という恨みと相反した優しさが投影されたのでしょうね」
そういう気持ちになっても仕方がないのだろう。自分の大切な妹が命を助けて、何処かへ消えてしまったのだから。
「やってくる。神代先輩の痛みと辻本の苦しみを知る為に。緊急脱出して憂鬱切りをしてみる」
「それは、意味がないよ」
「さっきと矛盾していないか?」
「説明不足だった。一部継承者が憂鬱切りをしても、記憶が消えるのは完全継承をされている人。要するに、私や神代先輩のように自立して能力が使える人間が記憶の忘却がされるから、直に苦しみを理解出来ないって事を説明したの。君が保健室で寝ていたのはバグだった頃の予知夢と、疲れと純粋な睡眠不足と、一部継承の能力を行使したことが記憶喪失の理由だよ。単なる疲れ、記憶を一時的に失っただけ。あれも、明日にでもなれば治る」
「無理矢理ってまさか、そういう事なのか」
夢切りの鎌を使って神代先輩の記憶の忘却を促して、祖母との思い出や家族の仲睦まじくしている記憶を無理矢理消してしまうこと。
「君が察している通りだよ」
「そんな事をしていいのか」
「忘れたの? 笹内さんとの約束『忘れた時にまた新しく忘れた記憶や楽しい思い出を作ればいいって』言葉」
ああ、そうか。そうするしかないのか本当に。時間も限られている。
「ああ、そうか。やってみる」
「頑張って。轟くん」
僕は緊急脱出を試みて、憂鬱の空間に戻った。笹内が神代先輩の意識が戻るように名前を呼んでいる。
「助からなかったの? 神代先輩」
「いや、助ける為に戻って来た」
「どういう事?」
「夢切りの鎌を使って、ここら一帯の空間を神代先輩が起きるまで切り裂く」
「でも、そしたら神代先輩の記憶が」
「笹内、自分が言ったこと。忘れてないよな」
「忘れても、忘れられないようにまた楽しい思い出を作る」
「なら、大丈夫。僕も覚悟出来た。今のうちに、神代先輩の写真をロストメモリーで撮っておいてくれないか」
笹内は静かにカメラを構えた。夢切りの鎌を持ち、憂鬱を切り裂く。憂鬱は何も攻撃も抵抗もしてこない。辻本霞の言っていた通りのようだ。そんな心理分析が当たってほしくなかった。僕は切り裂き続ける。そして笹内が写真を撮り続ける。
「ねぇ、轟くん。どんどん忘れていってるよ。記憶を。本当に良いの?」
「こうしないと起きないんだ。起こせなかった」
笹内は僕が切り裂くごとに、神代先輩が忘れてしまった記憶を列挙する。「カラオケで歌っていた、祖母からよく聞いた歌」「神代先輩が初めて死神家業をして人を助けた思い出」「バレンタインチョコの個数」「ロストメモリーの事」「初めてテストで百点を撮って褒められた事」「幼少期の一番好きだったアニメ」そして、
「おばあちゃんとの思い出」
何回切り裂いただろうか。笹内が「おばあちゃんとの思い出」と言った時、神代先輩が目を覚ました。
「私、何をしていたの」
「神代先輩……神代さんのおばあちゃんってどんな人だったんですか」
「……」
辺りが沈黙した。ああ、本当に忘れてしまったんだ。その場で見てしまった。夢切りの鎌がどんどん記憶を忘れてしまうところを。
「思い出せない……」
「笹内と一緒に覚えたから大丈夫です。また、覚え直せばいいんだ」
「そうよ、もしかしたらど忘れしているだけかもしれないんだよ」
その時、この空間からまた声が聞こえた。
(お前が、お前自身が罪を償うんだ。代行させるな)
神代先輩から拝借した夢切りの鎌が、いつの間にか僕の手元から消えた。夢切りの鎌は神代先輩の手元に戻った。
「轟くん、上から何かが来てる。しかも、私どんどん二人から離れていく、上空に吸い込まれそう」
上から大きな手が笹内に迫っていた。
「笹内さん。緊急脱出して! もうすぐ、タイムリミットが迫っているみたい。だんだん下空からも手が迫ってくる。私たちが何とかする」
「分かった。絶対に忘れないからね。神代先輩」
笹内は緊急脱出した。
「轟くん。夢切りの鎌が手から離れなくなった。どうしよう……夢切りするしかないの」
「神代先輩!」
絶対に言う。何度でも。
「絶対に忘れない、皆。例え、神代先輩が僕たちを忘れたとしても」
「……分かった」
神代先輩は決心して、夢切りの鎌で空間を断つように切り裂く。切り裂いていく。
「神代先輩、チョコって何個貰ったんですか」
「えっと、バレンタイン……? 女の子が渡す日だからゼロ?」
「二十一個です。こんな事でも覚えています。忘れたらまた、記憶出来るように何度も教えます。絶対に」
神代先輩は夢切りの鎌を使う事を躊躇う姿を見せていたが、僕の言葉を聞いて、夢切りで記憶喪失への恐怖が減ったのか、斬撃のスピードが上がる。
「神代先輩、僕にバレンタインチョコを渡したのが何月か覚えてます?」
「バレンタインチョコだから、二月?」
「六月ですよ、しかも人から貰ったチョコ」
「神代先輩、カラオケに行ったときに何の歌を神代先輩が歌ったか覚えてます?」
「……カラオケなんて行ったことあるかしら」
「行きました。皆で笹内と、藤宮先輩と、辻本も、僕と五人で。また行きましょう。いつでも、どこでも」
どんどん憂鬱切りを続ける。だんだん空間に亀裂が入って行く。ちゃんと、憂鬱切りが効いている。それに比例するかのように、神代先輩が記憶をどんどん忘れてしまう。
「ねえ、轟くん。私っておばあちゃんが居たんだよね」
「……」
「やっぱり憂鬱切りで忘れてしまうの」
「……」
「轟くん、今日お祭りに行ったことはかろうじて、覚えているの、でも何を食べたか分からない。何をして遊んだか分からない。笹内さんと藤宮さんの名前と顔と轟くんの事も覚えている。でも、何をしたか凄く楽しかったのに覚えてないの」
どんどん、神代先輩の斬撃の速度が遅くなっていく。忘れられてしまう事の恐れがまたどんどん増幅しているようだ。しかも、先程よりも遅い。上空と下空からも手が迫ってくる。
「神代先輩、何度でも言います。何度でも忘れてもまた教えます。絶対に思い出も忘れても、また作ります。絶対に、絶対に神代先輩を記憶喪失のまま独りぼっちにさせません」
「轟くん、もう友達の顔が分からなくなってきた。藤宮さんって誰だったんだっけ、笹内さんって誰だったかな。自分の名前もすぐに思い出せなかった」
「全然、恥ずかしいことじゃないです。それも承知の上で皆祭りに誘ったんです。だから、大丈夫です」
あと一歩、あと一回攻撃すればこの憂鬱を討伐出来る。落下しているのか、上昇しているのか分からない空間にヒビが至る所に入った。もうすぐ割れる、破片が溢れて白い光が見える。あと一歩、あと一歩何だ。その時に神代先輩は斬撃をやめてしまった
「轟くん……皆が本当に忘れてしまわないか、覚えてくれるか不安なの……自分が通っている学校も分からなくなった」
「何度でも、何度でも言います。絶対に皆忘れない。忘れてもまた教えます。思い出も沢山作ります」
神代先輩は夢切りの鎌を構えるのをやめてしまった。もうすぐ手が、上空と下空から僕らを捕まえる為にやってくる。その時だった。神代先輩は僕に背中を向けてこう質問した。
「ねぇ、そこの……男の人。私の名前を呼んで」
「神代先輩?」
「違う、そうじゃないの」
神代先輩は涙を浮かべながら、僕に振り向いてこう言った。
「私の名前をちゃんと呼んで」
涙を一雫零した。その涙が流れ星のように願いを乗せて、神代先輩の涙が僕の頬に伝う。ああ、そうなんだ。そんなに苦しかったんだ。自分が忘れられる事が怖かったんだ。今も
覚悟を決められないまま、命懸けで戦っているんだ。
「神代菜澄奈!」
神代先輩の表情は笑顔になった。全て覚悟したんだ。例え自分の記憶が全て失われたとしても、『忘れられた人』になってしまうかもしれなくても憂鬱を断ち切る。僕の名前を忘れたとしても、誰かが自分の名前を覚えているか、信じられるよう。覚えてくれる人が居ることを確認して憂鬱切りを試みたかったのだろう。
「ありがとう、絶対に忘れないでね」
神代先輩の夢切りの鎌は白く眩く光輝いた。見たことがないほど、あまりの眩しさに僕もちゃんと見ることが出来なかった。でも、音で分かる。今までの中で一番力強く、一番気持ちを込めて切り裂いた事が。その最後の一太刀でどんどん空間がヒビ割れて、崩れ落ち、白い光に包まれた。気が付いたら僕たちは神社の外に居た。
僕は両手に女性を抱えて神社の屋根の上に立っていた。いや、女性なんて俗称は使わない。この人の名前は神代菜澄奈という名前だ。神代菜澄奈という名前なんだ。これだけは絶対に忘れてはいけない。そう約束したんだ。
「神代菜澄奈、神代菜澄奈、神代菜澄奈」
「轟くん、無事で良かった? その女性は……女性は?」
目の前には笹内が居た。ちゃんと緊急脱出が成功して、無事だったようだ。怪我も特にしていない。近くを見ると、憂鬱に取り憑かれた辻本が目を覚まして、その場で起きて、頭を抱えていた。
「ねえ、轟くん。その女性、とっても可愛くて……凄く綺麗。綺麗なプラチナブロンド。どこの美容院に通ってるんだろう。色白でスタイルも良くて……」
「神代菜澄奈、神代菜澄奈、神代菜澄奈」
「かみしろなずなさんって言うの?」
笹内、どうしてか理由を言語化出来ないが、君は忘れては駄目だ。絶対に理由は分からないけど。駄目何だよ……頼むから思い出して
「なんで泣いてるの、轟くん」
「なあ、笹内、お願いだ。思い出してくれ。カラオケに行ったこと、辻本霞を一緒にロストメモリーで探した事、お祭りで一緒に遊んだんだよ。藤宮先輩と、笹内と僕と神代菜澄奈さんと遊んだこと」
僕はポケットに大切に閉まっていた扉の前で撮った写真を見せた。
「この人。神代菜澄奈さん。一緒に辻本の計画を阻止する為にドアの前で撮った写真がある。笹内のポケットにも入っているよ」
笹内は自分のポケットから写真を取り出した。あの時に神代菜澄奈さんと僕と三人で写った写真が載ってある。
「……私最低だ。どうして忘れていたんだろう。凄く大切な人。一緒に生徒会役員もやっていたはずなのに。フォルダにも大切に仕舞ってある。トルコアイスを食べた写真も、射的をした時の顔も全部。凄く素敵で大切な友達なのに」
「神代菜澄奈って名前なんだ。絶対に忘れちゃ駄目だ。辻本霞のように『忘れられた人』になってしまう」
「霞ちゃんと同じ?」
「ああ、霞のように人を助ける為に自分が忘れられてしまう事も覚悟して辻本を憂鬱から助けたんだ。約束したんだよ。一緒に思い出を作って、絶対に忘れられないようにしようと、藤宮先輩とも」
「……分かった」
マジックペンを取り出し、神代菜澄奈さんの写真に写っている部分に名前を書いた。手の平や腕にも笹内が書き始めた。そして、両手に書いて僕に見せつけてきた。
「神代菜澄奈さんとの思い出、全部書いた。名前も、忘れないように。轟くんもやる?」
「ああ、絶対に忘れない為に」
たまに女子中学生が両手に買い物メモや、文字をおまじないとして書く人が居た。僕はその人たちの事を理解出来なかった。でも、今なら分かるような気がする。卒アルに書いた寄せ書きも、どうせ散り散りになるんだ。大学になったら忘れてしまうと冷めた気持ちで見ていたが、今はそういう人達に謝りたいと思うほどだった。神代菜澄奈、神代菜澄奈、神代菜澄奈、神代菜澄奈、神代菜澄奈と何十回も何百回も書いてやると書き続けていた。その時、辻本が座ったまま俺に話しかけてきた。
「ねえ、笹内と轟。もしかしてその女性は」
「ああ、辻本の憂鬱を切り裂く為に辻本霞のような状態になってしまった。厳密に言うと、まだ『忘れられた人』にならないように死に物狂いで、誰かから馬鹿にされてでも僕は書く」
「辻本霞の為に人殺しをしようとした、俺の為にか?」
「ああ、そうだ」
僕は辻本の発言に正直怒りが湧いていた。でも、怒りなんてものよりも神代菜澄奈さんのとの思い出を、英単語を命懸けで暗記する受験生のように、書き続けていた。片手に書き終わる途中に、藤宮先輩が戻ってきた。
「轟くん、どうにか助かる人の憂鬱は全部討伐したわ。笹内さんも無事? 良かった。辻本くんも助かった……それと……」
藤宮先輩は横たわっている、神代菜澄奈さんを見て、あと一歩のところで思い出せそうだった。
「かみかわ……かたなみ……」
「「神代菜澄奈さん」」
異口同音、笹内と同時に名前を呼んだ。
「そういう名前だった。確か……」
「藤宮先輩、今日のお祭り何をしたか覚えている?」
「トルコアイス食べた事や射的した事が一番印象深かったわ。あの時のあの子の表情や、射的で笹内さんが何も取れなかった目の前で初心者なのに沢山とった子。その子のトルコアイスの時の表情と言ったら、とても……おかしくてとっても可愛かった」
「その子だよ藤宮先輩。神代菜澄奈さん、辻本の憂鬱切りをする為に、辻本霞と同じ『忘れられた人』になろうとしている」
「霞ちゃんと同じように? それは駄目、絶対に忘れちゃ駄目。とっても大切な人……のはずだから」
「藤宮先輩! マジックペン。ほら!」
「あ、笹内さん。神代菜澄奈ね。分かった」
藤宮先輩も腕にマジックペンでお祭りの思い出と一緒に名前を書いている。途中、記憶が欠落した部分には笹内さんがロストメモリーで撮った、トルコアイスを受け取れずに切ない表情を浮かべた神代菜澄奈さんの写真を見せている。絶対に数学を解法暗記してでも、点数を落とさないようにするような、脳筋だけど熱心に勉強するように、脳裏に刻もうとする。すると、後ろに辻本が僕の首に夢切りの鎌を立てていた。
「轟、お前は俺にお前の命を奪う事を許可したよな」
「ああ、そうだな。許可したな。確かにお前の言う通り、霞は俺を殺せば復活する」
笹内と藤宮先輩は立ち竦んでいた。事実上、僕が人質になってしまったから、下手な動きも出来ないようだった。
「なあ、轟。その提案は却下する。計画も止めた。霞のように誰かの為に、あろうことか霞と同じように、俺の命を助ける為に『忘れられた人』になっている。それと、君たち三人が熱心に文字を書いてある姿、何かを忘れないようにしている姿で思い出した。三つ目の最後の遺産」
辻本は夢切りの鎌を、僕の首元から傷付かないように、移動させて床に丁寧に置いた。
「To the dream(夢の中へ)って日記を大切にしていたんだ。占い雑誌に書いてあった日記帳。自分の叶えたい夢を書いて、眠ってその夢を見た事を書くと願いが叶うって信じて毎日書いていた。それが何処かにある」
「それはどんな効果があるんだ?」
「あくまで推測にしかならないが、予知夢や書いたことが正夢になる効果の可能性が高い。それに書いたら神代菜澄奈さんの事を忘れられないように出来るかもしれない」
「それはどうしてそう思った? 何処にあるか思い当たる点はあるのか?」
「何処かは分からない。効果の推測はロストメモリーが皆から忘れられないように写真に思い出を残す為、エンデバーはリセット願望や、同じ悲劇を繰り返さない為にやり直し出来るようにする為。そういう気持ちと霞の宝物にしていた物が融合して遺産になっているんだ」
さしずめ、夢日記と言うべきものがあるのか。でも、それなら心当たりがある。僕は頭の中で唱えた。
(バク、居るなら返事して、僕の事を寝かせてくれないか)
そう唱えると、瞬きをした瞬間いつもバクが居る部屋に居た。そこにはバクはもう居なかった。成長して、年相応の姿。辻本霞として現れていた。
「ここにあるよ。お兄ちゃんの言っていた通りの本が」
そこには霞との思い出が書かれていた本と一緒だった。ノリやホッチキスで固定されていたページがいつの間にか消滅して施錠が解けていた。この前見た時、書かれていなかったがちゃんと「辻本霞」と名前が記入されてある。
「誰かに悪用されると思って、思い出の中に仕舞ってあったんだよ。日記の名前の通りに夢の中に隠してしまえって」
辻本霞は少し笑いながら、その本を手渡してペンも貸してくれた。
「お兄ちゃんの言う通り、この本に書いてある事は正夢になる。でも、書ける文字数ももう二十四文字しかないよ」
「なあ、霞が使わなくていいのか」
「皆が頑張って思い出してくれたし、神代のおばあちゃんやお兄ちゃんや藤宮さんが頑張って、記憶として残してくれたからいいの。しかも、この日記はちゃんと書かないと曲解して叶うかもしれないから、願いは具体的に書いて一つの方がいい」
そう言って霞に手渡された日記に、今までの思い出を胸に、二十四文字で完結するような内容を考えて書いた。
「神代菜澄奈との思い出をここに居る皆絶対に忘れない」
そう書いた。すると夢日記は文字数が丁度一杯になり、もう願いを書くことが出来なくなってしまった。それでも、その様子を見て霞は笑っていた。
「うん、これなら絶対に皆忘れない。勿論、私もね」
「なあ、霞」
「なあに? 轟くん」
「どうしてもやりたい事がある」
その提案を聞いて、霞は笑った。
「いいね、その提案。とっても素敵だと思うな」
そう言うと僕は現実に戻り、目を覚ました。
「ねえ、男の人。大丈夫?」
先程、眠った神社の屋根の上にいた。人肌を感じると思ったら、そこには神代先輩の膝の上だった。
「あ、失礼しました。神代先輩」
「え、うん。全然お気になさらないで。私も今起きたところなんだ。神社の屋根に」
「轟くん、神代先輩!」
笹内は日記に書いたお陰で、神代先輩との記憶を思い出したようだ。跳ねて喜んで僕ら二人を抱き締めた。
「一緒に思い出を作ろうね。神代先輩」
「……ああ、ええ。えっとごめんお名前を聞いてもいいかな」
「笹内寧々。これからたくさん思い出を作ろう!! 神代先輩!!」
「えっと、私で良ければ」
藤宮先輩は微笑ましい光景に、ニコニコしながら見ていた。辻本はエンデバーを取り出し、僕らにこう問いかけた。
「見つけられたのか? 最後の遺産を」
「ああ、見つけた」
「そうか、良かった。約束通り、エンデバーを使って祭りの人間の死を無かった事にする。でも、それをすると今までの思い出も消えてしまう」
「それは大丈夫。また皆で神代先輩との思い出を作ろうって考えている。あの日記のお陰で、忘れる心配もない」
「心強いな、皆……」
「なあ、辻本」
「何だ?」
「エンデバーを起動させる前に少しやりたい事がある。夢切りの鎌を貸してくれないか?」
「……? ああ、大丈夫だ。」
僕は藤宮先輩の耳元にやりたい事を囁いた。藤宮先輩も「それなら出来るかもしれない」とアイコンタクトをとって来た。
「藤宮先輩、僕を切って」
「ええ、勿論!」
祭りの人間の命が記憶への供物で、僕の殺害が霞の復活のトリガーの理由が、霞の魂を僕から切り離すなら僕の思惑は上手くいくはずだ。それに本来はこの夢切りも魂と微弱な憂鬱を融合させる為の代物。失敗して憂鬱を分離してしまったとしても、今の僕たちなら倒せる。そう考え、僕は藤宮先輩に切り裂かれた。
魂の分離に成功した。僕が切り裂かれた反動でよろけると、僕の目の前に辻本霞が現れた。
「カスミ…?」
「お兄ちゃん、久し振り?」
「カスミなのか…?」
「ええ、本物の霞」
霞は僕の方を見てウィンクした。僕が殺害される事が霞のトリガーになっていた話を聞いて察したが、やはり、魂の分離が条件だったと知った。少しの間だけど、辻本と霞を再開させる事に成功した。
「霞、霞」
辻本は呻くように大切な妹の名前を連呼する。辻本は感情を決壊させて、涙を流していた。それを見て霞は辻本の事を抱き締めた。
「大丈夫、記憶が戻ったから全部知っているよ。お兄ちゃんが私の為に頑張ったのも全部。やった事は許される事じゃないよ。一生背負っていかないといけない事。でも、私の為に業を背負ったんでしょ」
「そんなに優しくしないでくれ。俺は大量殺人犯だ。両親も殺してしまったんだ。祭りの人間も藤宮先輩が助けなかったらもっと殺されていた。しかも、霞を助ける為に、神代先輩が霞のように記憶を失ってしまったんだよ。この罪は背負い続けないと、俺が霞の為にいたずらに殺した魂たちが報われない」
「そうなんだね。それなら、私たち二人で業も罪も半分こして背負おう。エンデバーで無かった事にしても。今まで殺した人の数だけ、贖罪をしよう。そもそも、私が最初に呪いをかけてしまった『忘れないで』って。呪いをかけなければ、お兄ちゃんもこんな事しなかったんだから」
辻本は泣いていた。声が枯れる程、「こんな兄でごめんなさい」と、「女々しいよな」といいながら妹の胸を借りて泣いていた。その様子を見た辻本の事を、霞は何も言わずに優しく撫でて、見守っていた。
霞は辻本が泣き止むまでずっと、撫でていた。辻本が泣き止むとエンデバーを取り出して、二人で手を取りあっていた。
「皆、見苦しいところを見せて済まなかった。轟との約束通り、エンデバーを起動後、祭りの殺人が無かった事にリスタートされ次第、エンデバーを破壊する。そして、もう祭りの大量殺人は行わない」
「私も、一緒にお兄ちゃんと時間遡行して今までの罪を二人で背負って生きていくよ」
「本当にいいのか? 霞」
「ええ、これは私の為でもある。前言撤回しないよ」
「ねえ、二人共」
笹内はロストメモリーを掲げて、ここに居る人間に「笑顔になって」と掛け声も「はいチーズ」と言って、辻本、辻本霞、神代先輩、藤宮先輩、僕、笹内自身を撮影した。そして、六枚写真を現像してそれぞれ皆に一枚ずつ渡して来た。そして、辻本兄妹にこう言った。
「ちゃんと、贖罪が済んだら二人ともまた友達になろうね。この写真を持っていって。私達の友好の証。もし、またいつか会えるなら全員で遊びましょう!」
「ああ、そうだな」
「ええ、忘れないよ」
「エンデバーを起動させる。皆、やり残した事はないか」
「待ってくれ、聞きたいことがある。もし、一時的に魂を分離した辻本霞、そして僕たちがバラバラになったらどうなる? エンデバーに一時的に分離した魂と時間遡行する能力はないはず」
「『エンデバー』には確かに無いよ。例の日記に、轟くんと祭りの人間が皆死んでしまった時に書いた。『いつか、お兄ちゃんと一緒になれたら、今まで殺めた魂を一緒に贖罪する。例え平行世界に行くことも厭わない。私復活の為の惨劇を起こらないように出来るなら』って」
「なら、もしもリスタートしてもタイムパラドックスが起きるかもしれない」
「それに関しては確証出来ないけど、恐らく私たちが本来居たところが、別の人間に置き換わって、現実も大きな齟齬が生じないようになると思う。夢日記に書いた通りになるならね」
「つまり、辻本と霞が別の高校生や女友達に代替されて、日常がズレないように修正されるということ?」
「そういうことになると思う」
そう言って、他に誰か悔いがない人間が居るかどうか辻本兄妹は確認した後、エンデバーを起動した。エンデバーはどんどん大きくなり、ちょうど二人辻本兄妹が入るサイズになった。その時計の上に辻本兄妹が立って、いよいよ、十二時を指す針が重なってエンデバーの効力が発揮する時だった。
「辻本!」
「なんだ、轟!」
「もしまた会えるなら、もう一度友達になってくれないか」
「ああ、絶対に約束する。むしろ俺がなりたいくらいだ」
「なら決まりだ。次会う時は親友だぞ」
「おう!」
エンデバーが発動し、時間が全て巻き戻った。




