1話 楽しい仲間と協力プレイっ☆ ー1ー
「あの崩壊は酷かったなぁ」
男らしい渋声。
俺はゆっくりと警戒しつつ、瞼をあげた。
視界に映るのは、土色の天井。その広々とした虚空は、ダンジョンという空間の口腔のようだった。
重力は下。俺はうつぶせに倒れていた。
感覚を研ぎ澄ます。背中は打撃、皮膚は削れ、口の中は血の味。
思い出される記憶。それは愚かにもダンジョンに入り、そのときに限って足元が崩壊。
奈落の果てでモンスターと逞しく戦かった。
あまりにも疲れたんで、横になったのだ。
モンスターの気配がしたら、いつでも起きれるように気は張っていたつもりだった。
だが気づけば爆睡。こんな状況でも寝れる俺。…というか俺は夜型人間だ。いつもの仕事は夜にある。
昼間にダンジョンに入ったのが、睡眠サイクルをおかしくした。
話し声が耳に入る。
これは俺に話しかけているわけではない。体の上半身を浮かせ、姿勢を低いまま、声に主を探した。
その持ち主は女だった。美しい横顔だ。
しかも背がすんなりと高い。頭をあげなければ顔が見えない。俺の視線の先にはへそがあった。穴をあけ、派手な色のジュエリーを身に着けている。
服装自体が派手だ。体の半分以上を露出している。上半身は胸当てだけ。下半身は片方の太ももが大胆に覗く薄いスカート。どちらも紫色の透けた生地で、キラキラとしている。
驚きなのが、こいつがエルフだということだ。耳は縦に長く尖っている。褐色の肌ということは…ダークエルフだろうか。でもこの高身長と露出好き。エルフとアマゾネスのハーフかもしれない。
「おまえの魔法のせいだぞ」
エルフの隣には誰かいるようだ。ここからでは姿が見えなかった。身を起き上がらせる。岩の隙間から覗きこむ。
ダークエルフの隣にいる、こいつもエルフだ。
身長は俺と大差ないが、隣にでかい女がいる事で普通より小さく見える。
「わっわたしのせいじゃないですもん」と涙を流した。
おまえのせいかっ!
「わたしのせいじゃないですもん。わたしの魔法でダンジョンが崩れるわけがないんですっ…!!」
おまえのせいかっ!
腰に手が回る。その指先には得物がなかった。
殺傷用のナイフはゴブリンを斬ったときに、溶けた。
チビのエルフのほうは、杖を両手で握りしめ、わんわんと泣き続けている。
ふんわりとしたスカート。パステルの可愛らしいワンピース。頭にはヘドレ。膝を隠すロングソックス。
肌の露出は少ない。
握りしめた杖の先端には、持ち主の馬鹿さを示すかのように花が咲いていた。
反対にダークエルフのほうは、腰に矢筒、背には弓を持っていた。
向こうは2人。こちらは1人。しかも不慣れな迷い人。
今すぐ食料とポーションを奪いたいところだが、闘っても俺が損するだけだろう。
エルフは魔法においては他種族を卓越している。ひ弱なエルフもいるが、ダンジョンにいる以上、貧弱なわけがないのだ。
特にあの女。能力は身なりに現れる。隙のない佇まい。警戒を怠たらない。
ダンジョン内ではまず第1にモンスターに気をつけなければならない。
第2に税関。ぼったくられないように。
第3に冒険者。
冒険者同士の騙し合い、窃盗、殺人なんてものは、知らないだけで多々ある。
仲間同士が殺し合う事だってあるのだ。
迂闊に関わらないほうが得策だ。お互いに。
賢い冒険者は距離を置く。仲間でもない者と協力するのは火種の元だからだ。
愚か者は協力する。お互い腹の内を隠して。
(他人と協力ね)
俺だって愚か者だ。
仕事で迂闊に他人と組んだ。そしたら要らぬ争いに巻き込まれた。
ふと視線を逸らした。
考え事に耽っていた。思い出したくもない失敗だ。
警戒を怠った隙。視線を外したその瞬間に。
眼前の岩がはじけ飛ぶ。破片を押しのけ、ヒールの切っ先が突っ込んでくる。
反射的な防御に出る。すなわち避け。
膝を折り曲げ、且つ上半身を地面と水平にする。鼻先をヒールが掠めた。
視線と視線が絡み合う。無慈悲なまでに冷たい目をしていた。多分、俺も。
紫色の美しい高貴な双眸。その目は残酷なまでに無慈悲。
俺は無自覚に、手慣れた動作で、足裏に仕込んだ投擲の柄を指に引っ掛け、ヤツの顔目掛けて放つ。
エルフは疎い。
魔法能力に優れた分、体術は怠る。そもそも貧弱な種。
無自覚に思っていた分だけ不意を突かれる。
ダークエルフは無駄のない卓越した動きで、飛んできたナイフを避けつつ、眼下の俺に蹴りを入れるため、右足に捻りが入る。
途端にヤツの体制が崩れた。
後ろから殴られたからだ。杖で。
それはもうひとりのエルフだった。
続けて俺も殴られた。避けなかったのは邪気がなかったから。
殴られた箇所を摩った。
あの杖は鉄鉱石でも入っていてもおかしくはないほど堅かった。
「駄目ですよ、喧嘩しちゃ」とチビのエルフはぷりぷりと怒っていた。
「ハンターかもしれない。いいや、こいつはハンターだ。身のこなしが冒険者ではない。あれはーー」
「そんな事どうでもいいんですよ」と言葉を遮った。「血が出てますっ」
心配そうに声をあげ、それから、口の中でぶつぶつと言葉を発した。
治癒魔法。
本来は時間をかけて治すものを、強制的に即時に治す。
治癒魔法特有の内部の神経がこねくり回される痛みがした。頭痛に似ている。
「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言った。
殴られた箇所を殴った本人が治癒した。お礼よりも文句を言いたいところだが、ここは無難に納めたい。
冒険者は荒くれものが多い。多分、図太い神経ではないと続けられない仕事だからだ。
外部からは、冒険者は尊敬の対象ではなく、厄介なお客さんだ。
言葉ひとつが火種になる。荒くれものが多い分、気を使わなければならない。




