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ダンジョン脱出物語  作者: すこーぴおん
1/3

プロローグ 人生に間違いはつきもの


迷宮ダンジョンなんて ろくなものじゃない。

一攫千金を夢見る冒険者も、無知な者を騙す情報屋も、入り口を独占し入税料をとるギルドも、癒着している役人も、落ちぶれて盗みを覚える落第者も。

夢やロマンなんてものはろくでもない。まっとうに働いて、まっとうな金を稼ぐ。


一攫千金なんてものは存在しない、日々つつましく畑を耕し、ご飯を食べる、精霊に祈り、日々に感謝するーーーその暮らしがダンジョンの登場で一変した。

人は夢を見るようになった。

それがコインの裏表のようなもので、窮屈な日常を憎むようになった。


俺は冒険者なんてしない。冒険なんてものはろくでもないからだ。

夢を見るヤツも、売るヤツも、腹に一物抱えて、細めた瞳をギラギラとさせている。

高貴な連中が、冒険者の金は汚いと嫌うのもわかる。


「…」


そんな事を思う俺も全うではなかった。


「気持ちわりぃ」


ぼたっ…と肉塊が崩れ落ちた。

臭気を放つ、それは緑色の剛毛な皮膚に覆われ、中身は変色した肉のような紫の液体で満たされていた。

「ドロップアイテムがあるってきいたんだけどなぁ」


とげとげした言い方になってしまう。なにを思うかは自由だが、自分の感情を表に出すのはご法度。

息絶えたゴブリンを振っても、出てくるのは肉塊だけだ。

目玉は黄色く濁っていた。ぎょろりとした目玉は、力の上下とは違った恐怖を植え付けてくる。


ゴブリンをそのまま捨てる。

ダンジョン内を見渡した。

あんなに狭かった入り口が嘘のような広さ。天井は精霊塔よりも高く広い。光が入らない空間で、モンスターの視線だけがチカチカと光っていた。

道がない。目印となるものもないので、迂闊に進むと迷うだろう。

気が抜けない。次から次にモンスターはくる。冒険者にも注意を払わなければならない。

なぜなら、こいつらは平気で殺しも盗みも行う。腐った連中だからだ。


思った以上にめんどくさそうだ。


ダンジョンに入るなんて失敗だったのかもしれない。

目的のものを見つけられるかもわからない。

俺ははじめて、まともにダンジョンに入ったのだ。ダンジョンがこんなにも広いとは想像がつかなかった。

ダンジョンに入ろうと思ったのは、妹のリネンがハムスターが欲しいと言ったのがきっかけだった。

ダンジョンのモンスターは高値がつく。ありふれていれば、雑魚値しかつかないが、レアになると、城を立てられる。

妹が欲しいといったハムスターは、俺の収入の半年分だった。高かったのだ。

ならば、と思い、ダンジョンに入った。簡単に見つかると思ったのだ。

リネンはダンジョン産の石を欲しいと言ってもいた。

俺がダンジョンでアイテムを獲得すればいいと思ったのだ。



「くそっ…!! 刃が溶けたっ…!!!」


刃が折れる、ならばわかる。なぜ溶ける?

ムシャクシャした。足元にいた生き物を、サッカーボールのように、蹴っ飛ばした。

もう帰ろう。

これじゃ戦えない!

モンスターは耐久性がある。

皮膚が堅い。爪は鋭利。油断しない。くつろがない。唸る。

モンスターは隙がないのだ。


それに。

首を折っても、心臓を刺しても、まだ息をしている。死ぬのが遅い。

遅いどころか自己回復してくる。

俺はモンスターを恐ろしいと思った。人を殺しているほうがよっぽどマシだ。

人であれば、首を切れば絶命する。首を絞めれば息絶える。胃に穴をあければ大出血でいずれ死ぬ。頭を背後からぶん殴れば意識が飛ぶ。


こいつらは本当に恐ろしい。

死なないのだ。耐久性と生命力は、外来種のゴッキーを思い出す。


ダンジョンなんてくるべきではなかったのだ。

回れ、右とくるりと身を翻す。

そのとき、地面が揺れた。


この世にはどうしようもない事がある。生まれ、家族、税、能力、容姿、性格そして災害。

ダンジョンが揺れた。縦に横に出鱈目に揺れる。

俺はふと昔、妹飼っていた小鳥を思い出した。鳥かごをガタガタと揺らして遊んでいたのを。


岩肌の壁から、石が降ってくる。それは雨のように。

当たったら死んでしまうっ…!


逃げる場所もなかった。

たった1回、気まぐれで入った迷宮ダンジョン

ここで死ぬなんてのは馬鹿げている。

世の中がたとえ理不尽だとしても、俺より不幸な奴が何人いようと、俺は生きてやるし、幸せになってやる。

地面が崩壊した。

足場がなくなった。そのまま下へ下へと落下した。


最悪な事に意識を失わなかった。

重力の感覚から、自分は仰向けに倒れたとわかる。

閉ざされた眼孔が光を感じた。億劫に瞼を持ち上げる。


精霊堂の壁絵を思い出した。

天から光が差し込む。ただ、その光の周りは岩壁。

井戸の中から見上げているようだった。



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