家族の再会
クララが村に着くと、掲示板の前に女たちが集まっていた。
「ねえ、まだ見つからないの?」
「もう何ヶ月もよ。かわいそうに…」
一人が、紙に描かれた顔を指差した。
「ほら、この方。やっぱりお綺麗ねえ…」
別の女が、肩をすくめる。
「綺麗でも何でも、帰ってこなきゃ意味ないじゃない」
小さく笑いが起きた。
「また狼だって話よ」
「やめてよ、そんなの。夜出歩けないわ」
ざわめきは、どこか軽かった。
もう驚くほどの話ではないのだ。
クララは足を止めなかった。
ただ、通り過ぎざまに一度だけ目を向ける。
掲示板には、二人の男の顔が描かれていた。
色褪せた紙の中で、その顔だけがやけに鮮明だった。
クララが家に着くと
家は重い空気を漂わせていた。
家のドアを開けると
ヘレナが言った。
「……クララ!」
エルザと父もクララを見た。
「おお…」
父はベッドに横たわっていた。
「パパ!何があったの?」
エルザが言った。
「パパはあなたのことを、ずっと気にしていて……」
ヘレナも言った。
「お医者さんは、もう長くないと言ったわ」
「そんな…」
「クララ、あなたどうやって…」
クララは言った。
「逃げたんじゃないわ」
クララはひとつ、息をついた。
「帰してくれたのよ。
1週間だけと約束して」
「あの野獣が…」
「そうよ…
本当はとても優しいの」
エルザは言った。
「ああ、クララ…またあなたと会えるなんて…」
エルザは涙を流し、クララを抱きしめた。
「姉さん…」
クララはベッドに近づき、
父の手を握った。
「パパ…しっかりして…!」
父はもう、うまく喋れなかった。
「……クラ、ラ…」
エルザとヘレナは
それを黙って見ていた。
その夜、クララは父のそばを離れなかった。
手を握ると、かすかに力が返ってくる。
「……クララ」
呼ばれた気がして顔を上げると、
父は目を閉じたまま、何も言わなかった。
朝になる頃には、その手はもう動かなかった。
ほどなくして、父の葬儀が行われた。
エルザとクララは寄り添い、泣いていた。
ヘレナだけは、棺を見つめていた。
クララが父の名を呼ぶたび、
ヘレナの視線はわずかに揺れた。
その顔には悲しみがあったが、
それだけではないように見えた。
ヘレナはクララに言った。
「パパは、最後まであなたのことばかり心配してたわね」
「パパ…!」
クララは泣き崩れた。
エルザが言った。
「姉さん、やめて」
ヘレナは俯いた。
「……言いすぎたわ」
――私が帰ってきても
ヘレナはあんまり嬉しくなさそう。
あんなにみんなに会いたかったのに…
ふと、あの屋敷の静けさが浮かんだ。
商人だった父の葬儀には、
村中の人々が集まり、家の中は絶えず人の出入りで満ちていた。
葬儀は三日三晩続いた。
エルザとクララだけでは手が回らず、フリッツもその中に加わっていた。
ヘレナは客の応対に回り、言葉をかけ、席へと案内していた。
参列者が一段落すると、
皆がテーブルに腰を下ろした。
ヘレナは、フリッツの前に茶を置くと
受け取ろうとした彼の手に、自分の指をそっと重ねたまま、微笑む。
「……あなたも疲れたでしょう」
エルザはそれを見ていた。
「…ありがとう、ヘレナ」
フリッツは目を逸らした。
エルザはフリッツの表情までは見えなかった。
クララは、心ここにあらずという顔で
部屋の中を見つめていた。
翌日、三人は
父の遺品を片付けていた。
エルザは小さくため息をつく。
「これから、どうしましょう。
ママもパパもいなくなって、三人になってしまったわ」
ヘレナも言った。
「ますます苦しくなるわね…」
クララは言った。
「私は…あの屋敷に帰らなきゃいけないわ」
二人は驚いてクララを見た。
エルザは心配した。
「クララ、あなた…あの野獣の元へ戻るつもりなの?」
ヘレナも言った。
「戻らなくてもいいんじゃない?」
クララは言葉を選ぶように、少しだけ考えた。
「でも――」
エルザはクララを見つめた。
「ママもパパもいなくなった今、
またあなたまでいなくなってしまったら…
私…耐えられないわ」
クララもエルザを見た。
「姉さん…」
「行かないで、クララ」
エルザは目に涙を溜めていた。
クララは、はっと思い出す。
葬儀の間に、ルーカスとの約束の1週間は
もう既に過ぎていた。
――もう約束の1週間は過ぎてしまったんだから…
本当に戻らなくても大丈夫かしら。
その夜――
クララは屋敷へ戻らず、自室のベッドに入っていた。
クララはルーカスのことを考えて
いつまでも眠れなかった。
――この庭で待っている、と言ったわ。
もうきっと諦めて
屋敷の中にいるわよね。
でも――本当に外で何日も待っていたら…
クララはいてもたってもいられず、
ベッドからそっと抜け出した。
「ごめんなさい、姉さん…」
彼女は馬に乗り、彼の屋敷へと向かった。
残された部屋の空気は、一層静まりかえっていた。




