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グリム童話 夏の庭、冬の庭  作者: Romina


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森の神殿

野獣はクララの先を歩いた。


クララは黙って後をついていった。




やがて、森の中で

光が反射する場所が現れた。


――なにかしら。





木々の奥に、ひっそりと泉があった。



岩場から流れ出る湧き水は

光を受けて銀色に輝いていた。



「わあ、なんて美しいの…!」



クララは手を合わせて喜んだ。



下にある水は驚くほど澄んでいて、底の白い石まで見えた。


光を受けて、揺れる水面は

硝子のようにきらめいていた。




「素敵な場所ね」



野獣は言った。



「ここなら安全だ」




クララは泉のほとりを歩き、

水に手を入れた。

――冷たくて気持ちいい。


泉の周りには美しい花が咲いていた。



この森には、他にどんな場所があるのかしら。


「ねえ、もっと見たいわ。

この森、まだ素敵な場所あるんでしょう?」



野獣は歩き出した。



「ねえ、待ってよ」



クララは、慌ててその後を追った。







しばらく歩くと、二人は

霧に囲まれた岩場の近くへと来た。



そこはとてつもなく巨大な岩々が積み重なり、

まるで神殿のような作りになっている。



一つの岩の前に立つと、

クララの視界はそれで埋まった。


その岩は、見上げても

その先がどこまで続いているのか分からない。


それは壁のようにそびえ立ち、近づくほどに

その形や大きさが分からなくなった。



「なんて大きいの…!」



そこには、まるでその昔

人の手で創られたような痕跡があった。



「美しい神殿ね…」



クララはうっとりと眺めていた。


野獣は言った。



「この上に登る階段もある」



「行きたい!」



クララは野獣の後をついていった。





階段はとても長かった。


クララは息を切らしながらも

野獣についていった。




断崖の上に出た瞬間、視界が一気に開けた。

森が、どこまでも続いている。


足元の木々は小さく、遠くまで波のように揺れていた。




風の音だけが、静かに響いている。


クララは、思わず息を呑んだ。




木々の合間に、先ほどの泉が見える。


その先には、バラに囲まれたあの屋敷があった。



さらに遠く、森の外には

見覚えのある小さな街が見える。



「あれ、私の……」





森の反対側の果てには、断崖の上にそびえ立つ

もうひとつの影があった。


城のように見えるそれは、どこか静まり返っていて

窓は暗く、動くものは何も見えない。



クララは聞いた。



「あれは……何?」


野獣は言った。


「……気にするな」





クララは足元の断崖を見た。

崖のすぐ下の辺りに、赤い木の実が生っているのが見える。



その実は、夕陽を吸ったように赤く、

ひとつひとつが丸く張って、熟れきっていた。

つやつやと張った皮は、今にも甘い汁をこぼしそうに見える。



クララは言った。


「わあ…!美味しそう!」



野獣は言った。



「行くな」



しかし、クララは木の実のある崖の方へ歩いていた。


クララは崖から下を覗き込み、身を乗り出そうとする。



次の瞬間、彼女の足場が崩れ落ちた。


野獣は彼女の腕を、間一髪で引き寄せる。

強く引かれた衝撃で、 クララの体が彼にぶつかった。


心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

野獣はすぐに手を離した。


彼女の足元にあった土と石は

崖の下へと落ちていった。



「あそこは危険だ」



「…ごめんなさい。

でも……」



クララは赤い実を見た。



「……待っていろ」



野獣は器用に断崖の岩を伝い、

その実を取った。


それをクララに手渡す。



「食べられるぞ」


「……ありがとう」



クララはそう言って、実を受け取った。

ほんの一瞬だけ、 彼の手の温度が残っていた。


クララが嬉しそうに笑うと

野獣は目を逸らした。



「屋敷に帰る」


「うん!」



クララは、野獣の後についていく。


木々の間を渡る風だけが、静かに鳴っていた。




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