表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリム童話 夏の庭、冬の庭  作者: Romina


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/13

約束の日

翌朝。



父は支度を整え、家を出ようとしていた。

見送りに出たのは、エルザとクララだけだった。



「ヘレナはどうした」



父の問いに、エルザは一瞬だけ言葉を止めた。


「……まだ寝てるわ」



クララは言った。


「疲れてるのよ」



クララは心配そうに家の方を見た。



父は少しだけ考えるように目を細め、

それ以上は何も言わなかった。


「……そうか。行ってくる」



「いってらっしゃい」


「パパ、気をつけてね!」



父は馬に乗り、家を後にした。

森を越えた奥にある、隣町へと向かった。







その日の夕刻。


父は商売を終え、娘たちへの土産を買った。


だが、季節外れのバラだけは

どの店でも見つからなかった。


父は残念に思いながら、家路に就いた。



森の中を通ると、見慣れない屋敷があった。



その屋敷へ近づくと

その庭の半分はバラが咲き乱れ、もう半分は雪が残っていた。




「なんと不思議な…」



その庭のバラは、目を奪うほどに美しかった。

それは、クララが欲しがっていた赤そのものであった。



父はそれを折り取ると

馬に乗って去っていった。



森を馬で走っていると、

何者かが背後から駆けてくる音がした。




大きな影は

ついに追いつき、馬を引いて父を止めさせた。



「お前、庭のバラを盗んだな」



父はその影を見た。


少なくとも人の倍はあろうかという巨体の、

醜い野獣がそこに立っていた。



熊のような手、

狼の様な足――

その顔は、獅子のようだった。


その口は異様に広く、牙がむき出しのまま閉じている。



唸ることもなく、ただ静かに、

その目だけが父を捉えていた。



「すまない…

わしの末娘が、どうしてもバラを欲しいと言ったのだ。


許してくれ」



野獣は言った。



「…どんな娘だ」


「うちの娘は……皆、美しい」



野獣は父の目を見て言った。



「ならば、その娘を差し出せ。

一週間後、迎えに行く」



父は考えた。


――この野獣が、森の奥から出てくるはずがない。



「…いいだろう」




父は解放され、家へと帰った。







父は何事もなかったかのように、家へ帰った。


土産を渡し、

いつものように娘たちと食卓を囲んだ。



娘たちはそれぞれの土産を喜んだ。



あの森のことを、父が口にすることは一度もなかった。







1週間が経ったある日の夜。


ヘレナはいつものように夕食の支度をし、

エルザは編み物をしていた。


クララは父と話していた。



すると突然、扉が乱暴に叩かれる音がした。


クララは眉を上げた。



「こんな時間に誰かしら?」



クララはドアへ向かった。

父は嫌な予感がした。



「クララ、開けるな!」



ドアの外には

あの醜い野獣が立っていた。




「約束の1週間だ。


お前の娘をよこせ」



娘たちは言った。



「パパ!どういうことなの?」



父は森での出来事を話した。


ヘレナは言った。



「そんな…

ダメよ、クララをあんな野獣なんかに!」


父は言った。


「ああ、そうだ…わしがどうかしていたんだ」



父親は野獣に言った。



「すまない。

やはり、娘を差し出すなどできない!」



野獣は冷たく言った。



「ならば全員殺す」



家族の中に、沈黙が走った。



やがて、黙っていたエルザが

静かに言った。



「私が行くわ」




全員が一斉にエルザを見た。



「何を言ってるのよ…」


「姉さん!だめよ!」


「エルザ、お前…」



エルザは立ち上がった。



「姉さんは婚約者がいる。

クララ、あなたには未来があるわ。


私は病気で身体も弱い。

私が行くのが一番良いわ」



クララも立ち上がった。


「だめよ、姉さん!

姉さんにもフリッツがいるじゃない!」



クララは泣き出した。

エルザはクララを抱きしめた。



クララは泣きながら、エルザの顔を見た。

エルザは立っているだけで、精一杯のように見えた。



そして、クララは言った。



「私が行くわ」




エルザは顔を上げた。




「クララ、あなた…」



クララは目に涙を溜めて言った。



「さよなら、パパ。

そして…大好きな姉さんたち…」



それを聞くと、

野獣はクララを連れ去り、

森の中へと消えていった。

























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ