第二十話 自分の為の
翌日出勤してまず思ったことは、リアさんの予想的中だなだった。床を埋め尽くす勢いで置かれ、積まれているダンボール一つ一つの中には馬鹿みたいな量の絵馬が入っていた。
「ねえユキーこれ何?」
「絵馬だよ」
「これが絵馬!じゃあこれ全部仕分けるの?」
「まあそうなるな」
「すごいあるよ」
「そうだよ。俺らは詰んだんだよ」
「こら、新年早々縁起悪いこと言わない」
「リア!」
「痛っ、小突かないで下さいよ」
「ユキくんが碌でもないこと言うからでしょ」
「いや、事実でしょ」
「言わない方が良いこともあるでしょ」
「おはようリア」
「おはよう桃羽くん。それと明けましておめでとう」
「?」
「新年の挨拶だよ。明けましておめでとうって返せばいいんだよ」
「そうなんだ。明けましておめでとう」
「俺からも明けましておめでとうございます。それとおはようございます」
「二人ともご丁寧にどうも。今年もよろしくね」
「「こちらこそよろしくお願いします」」
新年の挨拶も終え、俺たちは早速作業に取り掛かった。
「まずは机を使えるようにして、ダンボールを片付けようか」
「分かりました。ダンボールは潰していいんですよね」
「そうだよ。私はあっちからやるからユキくんはこっちお願いしていい?」
「はい。大丈夫です」
そうして俺たちは机の上にあったダンボールから絵馬を出し、ダンボールを潰すという作業を繰り返した。三十分程経ったところでリアさんから声が掛かった。
「ユキくん、一旦それくらいで大丈夫だよ。ここからは仕分け作業に移ろう。こっちに置いた箱があるんだけど、その箱の方に仕分けて欲しいんだよね。出来るだけ綺麗に入れて貰えると助かる」
「分かりました。あの、どの絵馬がどの神様のものかとか分かってないんですけど…」
「それなら大丈夫。これがあるから」
「これって表ですか?」
「そう、一覧表。ただこれ見ても分かりにくい物も多いと思うから、とりあえずユキくんたちは一目見て分かるような形が違ってるものから仕分けてもらえる?」
「はい、分かりました」
「分かったー」
そうリアさんに返事をして作業を始めたが、やはり難しいもので十枚仕分けると一枚は間違いかけるという事故が発生していた。あ、また間違えてる。ちゃんと見てるはずなんだけどな。俺もう集中力切れてきてるのかな。
「ユキこれ違う」
「マジか……ごめんやり直す。こっち置いといてくれ」
「うーん……あ!あのさ、ユキが仕分けて僕が確認するのはどう?確認するのはユキより僕の方が得意みたいだし、二つを同時に始めて両方失敗するより一つが完璧になる方が良くない?」
「確かにそれはそう!だけど桃羽それで良いのか?」
「うん。その方が上手くいきそうだし、僕はユキと一緒に作業したいから」
「分かった。じゃあ頼む。俺としてもそうしてもらえる方が助かるし」
「やったー」
そうして作業を始めると先程までのミスがなくなり、作業の効率も上がった。このまま進むなら元々予定していたよりも早く今日の分が終わることが出来そうだ。進められるだけ進めながら今日は作業に慣れていこうと決め、俺は再度絵馬を手に取った。
そして次の日、今日も昨日のように仕分けるぞと思っているとリアさんからストップが入った。
「二人とも待って、今日は昨日とは少し変わるから」
「え!変わるんですか?」
「うん。昨日までやってもらってた見た目が違うのがもう無いんだよね。だから今日は私が仕分けたものをさらに仕分けてもらいます」
「どういうことですか?」
「昨日私が仕分けたものの中に文字の色が違う絵馬があるの。それを同じ神様の別の箱の方に移してもらうってこと」
「なるほど……」
「うん。見た方が早いからこっち来てもらって良い?」
そう言って手招きするリアさんのところまで行くと仕分けられた箱があり、その中に二種類の絵馬があった。
「あ、これですか?」
「そう!文字の色違うでしょ?これをこっちに移してもらいたいの。分かった?」
「はい。分かりました」
「他のやつも色は同じだからそれと同じやり方でお願い。何か分からなければすぐに聞いて」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、今日も一日頑張りましょう」
「「おー」」
そうして始まった作業は昼を知らせるチャイムが鳴るまで続いた。ちょうど良いしお昼ご飯にしようということで、俺たちは机の端の方にご飯が食べれるスペースを作ってお昼ご飯を食べ始めた。食べている最中も目に入るのはダンボールと絵馬ばかり。まだ時間はかかりそうだと思っているとふと疑問が浮かんだ。
「あのリアさん、一つ聞きたいことがあるんですけど」
「何?」
「ここにある絵馬は全部願いが叶えられたものなんですか?」
「そんなことはないよ。そもそも叶えられない願いもあるからね」
「叶えられない願い?」
「僕それ知ってるー。叶えちゃいけないってやつでしょ?」
「そうそう。習ったの?」
「ううん。誰にも教わってない……その、生まれた時から僕じゃない別の誰か…多分僕の主人になるはずだった神様の記憶が少しあって、それで知ってるってだけ。だから本当にちゃんと分かってる訳じゃないんだ」
「そうだったんだな」
「じゃあ、出来るだけ私がちゃんと説明しなきゃだね。えっとね、そもそも前提として神様だって叶えたくないって訳ではないんだと思うんだけど、叶えるわけには行かないものや現状叶えることが出来ないお願いもある。そういうのがさっき言った叶えられない願いってやつで、さっきユキくんたちに仕分けてもらった文字の色が違うやつなんだよ」
「あ、あれですか!というかわざわざ色とか分けてるってことは願いがそのまま放置される訳ではないってことですか?」
「うーん多分?」
「多分?」
「私もそこのところはちゃんと知ってる訳じゃないから。けど、私は今は未来に託してるんだと思ってるよ」
「「?」」
「えっとね、昔の私は天秤にかけてるみたいなところがあるんじゃないかって多少なりとも神様のことを疑って見てたの。けど今は少し考え方が変わってさ、この言い方があってるかは分からないんだけど、神様だって出来るだけ救いたいって思ってるんじゃないかなって。自分を頼ってくれてる相手をそう簡単に見捨てたくは無いんじゃないかなって最近は思うようになったの」
「えっと……」
「つまり、神様側が願いを叶えられる日が来ることを願って未来に託してるんじゃないかなって考えたの」
「確かにその可能性はありますね」
「うん。それにそう思ってる方が幸せでしょ。真実が分かるまでは私の思いたいように思うことにしたの。そう思うとちゃんとしなきゃって思えるから仕事も頑張れるし」
「………理由ってそういうふうにつけても良いんですかね?」
「良いでしょ。自分の為のもので、自分の中にあるだけなんだから。それを人に強要し始めたら流石に良くないとは思うけど。行動する為の理由とかなら自分に都合の良いものとかでも私は問題無いと思うけどな。あ、人に迷惑かけるのは良くないよ」
「なんかリアさんは良い考え方をしますね」
「そうかな?ならユキくんのおかげだね」
「え?なんで?」
「私、昔は全然こんなじゃ無かったんだよ。もっと暗かったっていうかネガティブだったから。ただ、ユキくんが来てからは割と明るくなったなって自分でも思うから」
「いやいや、それは俺のおかげではなくてリアさんの凄さでは?」
「ハハ、じゃあそういうことにしておこう!みんな食べ終わったみたいだし作業に戻ろう。このまま進められれば今日中に終わるかもだから、疲れてるとは思うけどみんな頑張ろう!」
「はい」
「おー」
そうして作業を続けた結果、全ての絵馬の仕分けが終わり年末の忙しさから解放された。ダンボールの片付けなどは明日以降にするということで決まり俺たちは家に帰った。食事や風呂などをさっさと済ませ明日以降に備えてすぐに就寝となった。しかし俺はベッドに入っても中々寝付けなかった。“先の自分や環境を信じて未来に託す“俺には出来ないし無い考え。それに神様の血が入ってることに関しても、真実を探し続けるより俺にとっての答えを見つけておく方が良いって分かってるのに……俺は俺のことどうしたいんだろう。




