第十八話 再会と贈り物
絵を抜けた先は部屋の中だった。部屋は先程までいた部屋より広く、物もあまり無かった。部屋の中を観察し続ける俺を見て少し笑うとリアさんは言った。
「部屋出るけど良い?」
「あ、はい。すみません」
「何の謝罪?まだ見たいかなって思ったから聞いただけだよ」
「あーそういう。大丈夫です。移動しましょう」
「分かった」
そう言うとリアさんは扉を開けた。扉の先には俺の想像の何十倍も広い空間があった。とても広いその空間に呆気に取られているとリアさんに小突かれた。
「ユキくーん、聞こえてる?」
「あ、はい!え?話しかけてました?」
「うん。何回か呼んだけど返答無かったからさ。大丈夫?」
「大丈夫です。すみません。なんかびっくりしちゃって」
「あーなるほどね。まあ驚くよね。流石にユキくんこんなに広い場所はまだ配達でも行ったことないもんね」
「はい。というか本当に広すぎません?」
「広すぎるくらいが良いんだよ。正式な文書や再配達の荷物を置いておく場所も必要になるんだから」
「あ、そうか。そう考えるともっと広くても良い気がしてきました」
「でしょ!ちゃんと理由があってのこの広さと建物だからね。ユキくんの意識がこっちに戻ってきたことだし、早速向かおうか」
「はい」
そう俺が返事をするとリアさんは歩き出した。ふと振り返り見てみると、俺たちが出た部屋には日本支部の看板があった。分からない物だらけのままじゃ困るし目印の一つとして覚えておくことを決め、俺はリアさんの後を追った。
少し歩くと沢山のソファーが置かれた待合室のような場所が見えてきた。絶え間なく人の声が聞こえているその場所は受付という認識で間違いではないと思う。一番端にあるソファーに着いたところでリアさんはここで待っててと言って窓口と書かれたところへ行ってしまった。少し待つとリアさんがファイルを持って帰ってきた。
「ごめんねユキくん。お待たせ」
「いえ、全然待ってないです。あの、そのファイルは?」
「書類だよ。神獣ちゃんの名前とかが必要なものだから今書く訳にはいかないんだよね。とりあえず先に会って、そしたら書類書いちゃおうか」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ、じゃあ向かおうか」
そう言って歩き出したリアさんについて行くと保護室と書かれた部屋についた。ノックをしてドアを開けると俺目掛けてそいつは飛んできた。
「ユキーーー!」
そう叫んで俺の顔に張りついたまま嬉しそうにしているのは例の神獣だった。
「おい、いきなり飛んでくるなって。危ないだろ」
「会いたかったよ!ユキ!」
「話を聞いてくれって……おまえ元気だな」
「うん。元気だよ。僕もう普通に動けるし」
「それは良かった。いろいろ話したいことはあるんだけど、まず一つ質問して良いか?」
「うん。いいよー」
「名前はあるのか?」
「僕は無いよ。つけて貰う前に地獄で死にかけたから」
「なるほど。なら俺がつけても良いのか?」
「え、うん。というかつけてくれるの?」
「おまえが嫌じゃないなら俺がつけるべきかなとは思ってる。一応俺おまえの主人だし」
「ユキーー!」
「わ、おい、顔にくっつくなって!危ないから」
「えー良いじゃん」
「良くないから。離れろ桃羽」
「とわ……それ僕の名前?」
「……そうだよ。嫌なら変える。他にも考えてあるから」
「嫌じゃない!それが良い!漢字ある?」
「あるよ。桃に羽でとわ」
「桃に羽…すごい良い!僕桃羽!今から桃羽って呼んで!」
「分かったよ。ちょっと落ち着け桃羽」
「はい!桃羽だよ」
「そうだな、知ってる。そんなに喜んでくれるのは嬉しいけど、一旦落ち着けって」
そんな俺の声はテンションの上がった桃羽には届くはずも無く、しばらくは嬉しそうに騒ぎ続けていた。少しすると落ち着いたのか、疲れたのかは分からないが俺の膝の上で休み始めた桃羽にリアさんが近づいた。
「はじめまして、桃羽くん。私はリアって言います。ユキくんと一緒に働いてて、今後桃羽くんとも会ったりお話しさせてもらう機会があると思うから名前だけでも覚えてもらえると嬉しいな」
「はじめまして。桃羽です。えっとリアさん?よろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくお願いします。私のことは呼び捨てで大丈夫だよ。話し方も桃羽くんが楽なものにしてくれると嬉しいな」
「分かった。じゃあリアって呼ぶ」
「そうしてくれると嬉しい。ありがとう」
「あのそろそろ書類書いても良いですか?」
「あ、ごめんユキくん。忘れてた。急いで書いちゃおうか」
「しょるい?これ?なんのやつ?」
「これは桃羽が俺たちが働いている郵便局や、荷物の配達先にも一緒に行けるようにするためのもの」
「それでこっちが桃羽くんがうちの一員ってなるためものだよ。桃羽くんの名前が必要だったから決まってからじゃないと書けなかったんだ」
「じゃあこれ書いたら僕は二人の仲間?」
「そうだな、書いて提出したら仲間」
「それなら早く書いて!」
「分かってるよ」
そう返事をして俺は間違えないように、でも出来るだけ急いで書類を書き上げた。
「よし、出来た!これはどこに提出すれば?」
「隣の部屋で手続きできるよ。行こうか」
そう言われ移動した部屋は小さな受付だった。リアさんに言われ書類と一緒にカードを渡すとすぐに確認が始まった。確認出来ましたという言葉と一緒にリアさんのカードは返されたが、俺のカードは返されなかった。かわりに少しお待ち下さいと言い、奥に行ってしまった。どれくらい掛かるだろうかと思っているとリアさんが顔を近づけて聞いてきた。
「ねえ、名前本人決めてもらうって言ってなかったけ?」
「そのつもりでしたよ。ただ、いざ会って話してたらあの名前が一番しっくりきたっていうか、気づいたら呼んじゃってて」
「なるほど。それで本人も気に入ってくれたからそのまま決定にしたと」
「はい。その通りです。ずっと気になってたんですか?」
「まあね。名前って大事なものだし、初めてもらう贈り物になる訳じゃん。だから、ちゃんと理由があって欲しいなって思ったの。もちろんユキくんが適当につけたとか思ってた訳じゃないよ。だけど一応確認したくて」
「そうだったんですね。桃羽のこと大事にしてくれてるみたいで嬉しいです」
「当たり前でしょ。もちろんユキくんのことも大事だよ」
「ありがとうございます」
なんて会話をしているとさっきの人がカードを持って戻ってきた。
「お待たせしてしまいすみませんでした。こちらのカードの方に桃羽様についても登録を行いましたので、ユキさんとご一緒であればこのカードを使っての移動が可能になります。何か質問等ございますでしょうか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
そう伝えカードを受け取り、俺たちは部屋を出た。そのまま日本支部の看板がある部屋に向かい、郵便局へと帰ってきた。
今日はこれ以上仕事はせず帰ろうというリアさんの提案もあり、桃羽の家にもなった俺の家に帰ってきた。家の中の説明を済ませ、今日の晩ご飯をどうするかと考えいたところでふと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「なあ桃羽、見た感じ傷もなくなってるし本当に怪我は治ったんだと思うけど、人の血って桃羽とかの神獣には害は無いって思って良いのか?」
「え、害はあるよ。そもそも基本人の血はダメだし。仮に体に合ったとしても馴染むのに時間掛かっちゃうし」
「は!?じゃあ俺の血ダメじゃん!」
「大丈夫だよ!だってユキは神様の血が混ざってるもん」




