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異界郵便局  作者: 翠雨
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第十五話 黒い紙の仕事

灯火さんから荷物が届くと言われてから二日後、出勤するとリアさんが封筒を俺に見せながら聞いてきた。

「これユキくん宛ての荷物なんだけど、心当たりある?」

「あ、灯火さんからですか?」

「そうそう」

「すごくあります」

そう言って俺は封筒を受け取った。封筒の中には手紙が入っていた。手紙は織姫さんからで、俺はすぐに手紙を開けた。

『ユキさんへ

宣言した通りあの後ユキさんのことを調べさせてもらいました。ただ、いくら調べても郵便局で働くより前のユキさんに関する情報が全くと言っていいほど見つかりませんでした。この理由として考えられるのは二つ。一つ目は、郵便局で働くより前はこちらにいらっしゃらなかった。二つ目は、政府または特定の神様がユキさんに関する情報に制限をかけているというものです。二つ目の方に関しては措置の一つですので可能性としては低くなるのではないかと思います。

今後も調べられるのであれば他者の意見はあくまで参考に、無闇に決定づけづ考えていかれるとよろしいかと。今後ともお身体にお気をつけて配達なさって下さい。

天棚機姫神より』

織姫さん忙しいだろうに調べてくれたんだ。しかも事実だけじゃなくて、理由や考えられる可能性についても書いてくれてる。これはかなり助かるけど、御礼としては貰いすぎな気がする。けど、こんなに労力かけてもらえると嬉しいな。

「なんか嬉しそうだね」

「はい。ちゃんと届くって嬉しいですね」

「そうだね」

そう言いながらリアさんは封筒を手に取った。

「あれ、もう一つ入ってる」

そう言ってリアさんが取り出したのは白のインクで文字が書かれた黒い紙だった。

「これなんですか?」

「特例任務の紙」

「俺が知ってるのと違うんですけど…」

「あれはこっちの世界や神様からの依頼の場合の紙だからね」

「じゃあこれは?」

「地獄」

「え?」

「地獄からの要請。ユキくんに地獄へ来て貰いたいみたい」

「地獄って行けるんですか?そう簡単に足踏み入れて良い場所じゃないと思うんですけど」

「それはそう。でもこういう場合は関係ないよ。呼ばれてるんだから入れないなんてことはないからね」

「じゃあ地獄行き決定ですか?」

「まあそうなるね。仕事内容ここに書いてあるよ」

「え?あ、本当だ!えっと聞き取りと、荷物の運搬……聞き取りって何?」

「あっちが聞き取りっていうと、地獄の人間や生物関連だと思うけど。心当たりある?」

「地獄の人間や生物……?あ!あります」

「じゃあそれだね。ユキくんが何かした訳じゃないんでしょ?」

「それはそうですね」

「なら大丈夫だよ。なんなら問題は運搬の方かも」

「なんでですか?」

「量が結構あるかもしれないと思って」

「なるほど。それだと持って帰ってくるの難しくなりますね」

「基本的には何回かに分けて運ぶと思うんだけど。ごめんね、私が行けないから」

「なんでリアさんが謝るんですか。リアさんにはリアさんの仕事があるんですから来れないのはしょうがないですよ。こっちのことはあまり気にしないで下さい」

「ありがとう。ユキくんが後輩で良かったよ」

_________________________________________________



そして仕事当日。リアさんにはああ言ったが正直怖い。地獄ってあまり良いイメージが無いというか、そもそも何があってどんなところであるかを具体的に想像することも難しい。特例任務において初めて行き先が分かった状態で仕事を始めることが出来るというのに、今までで一番恐怖を感じて緊張している。まあどれだけビビろうと仕事が無くなる訳ではないので、少し重くなっている足を動かし出勤した。

「おはようございます」

「おはようユキくん。ビビってるね」

「……はい」

「まあユキくんからすると未知で異界な訳だしね」

「そうなんです」

「危ないものもあるけど基本的には言うこと聞いてれば問題無いし、働いてる人は優しい人が多いよ」

「人なんですか?」

「人型が正しいかな。でも私たちに危害を加えたりすることは絶対無いから。そこは心配する必要無いよ」

「なるほど。分かりました」

「ちょっとは安心した?」

「はい、おかげさまで。ありがとうございます」

リアさんとの会話を終えると、出勤前までと比べて俺の不安はだいぶ消えていた。リアさんが上司で本当に良かったと思いながら俺は準備を始めた。準備が終わると俺はステンドグラスの扉の前に立った。これを使うのももう三回目になるのかと思いながら特例任務の黒い紙をステンドグラスに置いた。するとステンドグラスは炎と炎に包まれる建物の模様に変わった。模様が変わったのを確認して、俺は恐る恐る扉を開けた。



扉を開けた先は部屋だった。部屋の造りは赤門の中にある本殿のものと似ているような気がしたが、こちらの部屋の方が熱く感じた。どうするか迷ってとりあえず部屋を出ようと扉を開けると、そこには男の人が立っていた。

「初めましてユキさん。お待ちしておりました。私は冥官の晦鬼かいきと申します。みなさん晦と呼ばれますので、良ければ同じように呼んでいただけますと嬉しいです」

「分かりました晦さん。ご存知とは思いますが、異界郵便局のユキと申します。本日はよろしくお願いします。あの、一つ質問しても?」

「どうぞ」

「冥官というのは?」

「冥官とは冥府の官吏という意味で、主に閻魔大王や十王の裁判の補佐をする仕事の役職のことです」

「なるほど。官吏なんですね」

「えぇそうです。気になることがあれば遠慮せず聞いて下さい。こっちはあちらとは勝手が違うでしょうし、知らないままでは危ないこともありますから」

「すみません。ありがとうございます」

「いえ、とりあえず移動しましょうか。移動しながらでも説明は出来ますので」

そう言って歩き始めた晦さんに俺は分かりましたと言ってついて行った。

「まずは聞き取りを行います。聞き取りは私の仕事部屋で行いますので、今はそちらに向かっています」

「分かりました。あの、晦さんは誰の冥官なんですか?」

「私は閻魔大王の冥官を務めています」

「え、閻魔大王!!でしたらとても忙しいのでは?俺なんかに時間使ってる場合じゃ無いですよね?」

「大丈夫ですよ。暫くは閻魔大王がいらっしゃらないので」

「え!出張とかですか?」

「ある意味出張ですかね。閻魔大王は今現世にいらっしゃるんですよ」

「現世に?何の仕事なんですか?」

「出雲に行ってるんです。今月は神在月とも呼ばれる月で、全国の神々は出雲大社に出向かれます。閻魔大王もそのうちの一人でして、この期間は私は通常業務が休みになるんですよ。ですのでいつもと違う仕事をするのに打って付けでして」

「そうだったんですね。晦さんのお仕事の邪魔にならないなら良かったです」

「まあこのタイミングになったのはこちらの都合だけという訳でもないんですが」

「え?」

「先程の説明覚えてますか?」

「はい。神在月と呼ばれる月で全国の神々は出雲大社に出向かれる。閻魔大王もそのうちの一人ですよね」

「えぇ、そうです。そしてこのタイミングであればユキさんに他の特例任務が入る可能性は低いでしょう?こちらとしてはそれほど長い時間をいただくつもりはありませんが、実際どれほどの時間が必要かは作業を始めてみなければ分かりません。なので、できるだけまとまった時間を確保できる時期にしたかったんです」

「そうだったんですね。なんかすみません」

「なぜ謝るのですか?この時期まで待ったのはこちらの勝手ですし、ユキさんの時間がとれないのもそれだけ仕事を任されこなしているという事だと思います。ですので謝る必要はないと思うのですが」

「そう言っていただけると助かります。ありがとうございます」

「いえいえ、ただ私にとっての事実を言っただけです」

そんな会話をしていれば、他より少し造りがしっかりして見える黒い扉の部屋の前についた。

「こちらが私の部屋です。どうぞ」

そう言って晦さんは扉を開けてくれた。部屋の中は思っていた以上に簡素で、仕事に必要なものしかないといった印象だった。

「こちらに座って待っていていただけますか?今お茶をお持ちしますので」

「ありがとうございます」

そう返して俺は椅子に座った。なんかこの部屋いい匂いがするなと思っていると晦さんがお茶を持って戻ってきた。

「この匂いってお香ですか?」

「はい。匂いダメなようなら消しますが」

「いえ、そんなことはないです。むしろすごく良いなと思って。聞いたのは珍しいなと思ったからで」

「あーそうことでしたか」

「はい。お好きなんですか?」

「好きとは少し違います。仕事柄いろんな匂いがついてしまうので、切り替えの意味もありこの部屋ではお香を使ってます」

「そうなんですね。どこで買ってるんですか?」

「自分で作ってます。気に入ったようなら少し差し上げますよ」

「え!良いんですか?」

「はい。私が好きで作っているものですから、それで喜んでもらえるのであれば私も本望です」

「ならお言葉に甘えて。ありがとうございます」

「今度郵便局の方に送っておきます。緊張も和らいできたみたいですし聞き取りを始めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

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