第十三話 探され人
雪兎たちとの仕事を終えた数日後、出勤すると一枚の紙が目に入った。
「この紙何だろう?」
「探し人の紙だよ。政府から来るやつで見つけたら神様のところ、この前行った門のところまで連れて行くことになってるの」
「この子まだ子どもですよね?何かしたんですか?」
「この子が何かした訳じゃないよ。ただ急いでるだけ。遅くなると良いことないから」
そう言ったリアさんは何故かすごく悲しそうだった。俺はそれ以上その紙について聞くことができず、そこで話しは終わりとなった。
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あの日以降、俺は特に変わらない日々を過ごしていた。一つだけ変わったと言えるかもしれない点は、あの紙の子どもを配達中に探すようになったことくらいだ。ただ、探しているだけであって見つけることや何か情報を掴むことが出来た訳ではなかった。
そして今日、いつも通り荷物が届き俺は配達に向かった。今回の配達先はどんな場所だろうと思い移動すれば、いわゆる辺境の地と呼ばれるような場所だった。見る限り人も居なければ、車や電車も走ってない。これはかなり田舎に来たなと思いながら、俺はコンパスを開いた。コンパスの中の二点はかなり離れており、これは結構歩くことになるぞと思い気合を入れてから配達場所に向けて歩き出した。どれだけ歩こうと見えるのは緑ばかり。そもそも道も舗装されていない為とても歩きにくい。秋の気温になってきているので気温があまり高く無く、風が心地良いのがせめてもの救いと言えるだろう。三十分以上歩いたところで前から男の人が歩いてきた。この先の道のことを聞こうとすると相手の方から話しかけてきた。
「兄ちゃん政府の人かい?」
「えっと、俺は郵便局のものです。荷物のお届けで来てまして」
「なんだそうなのか。悪いね、急に質問しちまって」
「いえ、俺も声を掛けようとしていたので」
「おや、そうなのかい?」
「はい。この先に人が住んでいる場所はありますか?」
「あるよ。この先に小さな村が。村に向かってるのかい?」
「あーはい。そう…ですね」
「そうかい、それならこっちの道を真っ直ぐだよ」
「ありがとうございます。助かります」
「村に行くとさっきの俺みたいに聞いてくる奴がいるかもしれないが、あんまり気を悪くしないでくれると助かるよ」
「はい、分かりました。本当にありがとうございました」
「いやいや、兄ちゃんも気をつけてな」
そう言うとその人は俺が来た道の方を歩いて行ってしまった。教えてもらった通りの道を歩きながら俺はさっきの人の言葉を思い出していた。制服着てるのもあるけど、俺を見て郵便局って単語じゃないものが出てくるのは新鮮だったな。それだけ情報も無ければ外の人が来ることも珍しいのかな?にしても政府の人ってなるか?まあ行政の人間に見えないこともないかもだけど……分かんないな。まあ気にしすぎても良くないか。そんな風に考えた頃、ちょうど村らしきものが見えてきた。コンパスを見れば黒い点まではあと少しとなっていた。配達場所となっている家の近くで女の子が蹲っていた。声を掛けようか迷ったが、仕事を後回しにする訳にもいかないので配達を終えてから声を掛けることにした。
「異界郵便局のものです。お荷物のお届けに参りました」
「はーい。少々お待ちください」
そう返事が返ってきてから一分も経たず扉が開いた。
「カナさんですか?」
「はい。そうです」
「こちらカナさん宛てのお荷物になります」
「わざわざこんなところまでありがとうございます」
そう言って荷物を受け取った彼女は笑顔だった。しかし、俺の方を見て止まり、少し表情を曇らせた。何かしてしまっただろうかと思っていると、彼女の視線が俺ではなく俺の後ろに向いていることに気づいた。振り返ってみるとちょうどの先程の少女が見えた。彼女の怪訝な表情の理由はどうやら俺ではなくあの少女だったようだ。少し迷ったが聞かないと分からないままだろうと思い、質問をした。
「あの、あそこにいる子はその……どうしたんですか?」
「あの子は数日前に村に来ていたと言うか、見つかったと言うか……。要するにこの村の子じゃない子でして、帰れって言っても帰らずああやって動こうとしないんです」
「この村に住むみたいなことは出来ないんですか?」
「無理です。あの子は置いておけません」
「そんな……」
「あの無理なら断ってもらってもいいんですが、可能ならあの子を連れて行ってもらえませんかね」
「え!それは……俺が決められる事じゃないので、一度本人と話してみてもいいですか?」
「あーはい。どうぞ」
その返事を聞いて俺は後ろに居る少女の方に向かった。少女の前まで行くと目線を合わせる為ひざまずいた。
「こんにちは。君に聞きたいことがあって少しお話ししたいんだけど、良いかな?」
俺がそう言うと少女は少し顔を上げ小さく頷いた。
「ありがとう。俺はユキって言うんだ。お仕事でここに来てて、君がここの村の子じゃないって話しを聞いたんだけどあってる?」
少女はまた静かに頷いた。
「ここに居たい理由が何かあるのかな?」
そう聞くと少女は動かなくなってしまった。
「無理に話して欲しいとかじゃないんだよ。ただ君の意思があるならそれを尊重したくて、どうしたいとかあったりするかな?」
そう聞くと小さな声が返ってきた。
「分からない。けど……帰りたい」
「帰りたいのはお家かな?」
「うん」
そう顔を上げ泣きながら答えた少女の顔に俺は見覚えがあった。この子、探し人の紙の子だ。
「俺はここより人がいっぱい居る場所から来たんだけど、そこなら何か知ってる人やお家に帰るの手伝ってくれる人がいるかもしれないんだ。君が良いなら俺と一緒に行かない?」
すると少女は頷きながらうんと返事をしてくれた。俺は彼女の手を取り立たせ、服についた砂や草を払った。ふと後ろを見てみると、悲しいような慈しむような表情をこちらに向けていた。彼女のその表情に困惑していると指先が軽く握られた。俺が突然黙ってしまったから不安にさせてしまったのだろう。安心させる為に俺は再度少女の手を取り目線を合わせ聞いた。
「もうこの村から移動してもいいかな?」
「うん」
今度は目を見てそう答えてくれた。
「じゃあ行こうか」
そう言うと俺の手を掴んできたので、俺もその手を握り返し俺たちは村を出た。




